第八話 楽々戦闘っ!

 スリエへ行くべく、家を出た俺は、薪割りをしている男――ゼルスさんと鉢合わせる。


「おや? 今日は早いな。てか、あんなことがあったというのに、また森へ行くとか、お前急に根性出て来たな」


 そう言って、ゼルスさんは豪快に笑う。

 ああ、森に行くと勘違いしちゃってるのか。

 まあ、村の人が街へ行くことなんて、めったにないからな。

 勘違いしちゃうのは仕方ない。


「いえ。これから少しスリエへ行こうかと思いまして」


「スリエ? へー街へ行くのか。だが、1人じゃ流石にキツいぞ。暫くしたらここに行商人が来るから、その時に行かせてもらった方が良いと思うが?」


 至極全うなことをゼルスさんは言う。

 だが……流石に行商人が来るまで待つことは出来ない!

 それに、キツいというのは俺がレベル14だった頃の話。

 レベルが58となった今なら、ここからスリエへ行く道中に出現する魔物程度、容易く撃破できる。

 ただ、その説明をするのはちょっと難しいからなぁ……行ける証拠として今のステータスを見せちゃったら、間違いなく大騒ぎになって、めんどくさいことになるだろうし。

 仕方ない。ここは用意してあった嘘で乗り切るとしよう。


「実は、少し前に旅人と知り合いになって、その人と一緒に行く予定なんです」


「へーいつの間にそんな知り合い作ってたのか。ま、なら大丈夫か。それで、戻ってくるのはいつぐらいになる?」


「たぶん、暫くは戻ってこないと思います。やりたいことが沢山あるので。あ、そろそろ急がないとマズい……い、行ってきます!」


「おう。そうか。まあ、何事も挑戦だ。若いうちは、積極的に色々なことに挑戦するんだな」


 若干まくしたてるように言った俺の言葉に、ゼルスさんは戸惑いつつも、最後に貫禄ある言い方でそう言った。

 うーだから、嘘をついている時に、そんなこと言われると、心苦しいっ!


「わ、分かりましたー!」


 そう言って、俺は走って村を飛び出した。


「あーゼルスさん。いい人過ぎるよ……」


 あれほどの善人に嘘をつくのは流石に心苦しいって。

 俺はゼルスさんの善人っぷりに、内心ため息をつきつつも、そのまま100メートル程走った。


「……もう使っていいかな?」


 村から十分離れたと思った俺は、その場で《死霊召喚》を発動する。

 すると、1体の骸骨馬――スケルトンホースが黒色の魔法陣から姿を現した。

 こいつは移動特化のアンデッドで、そこそこの速度で走ってくれる結構便利な子だ。


「じゃ、乗らせてもらうよ」


 そう言って、俺はスケルトンホースにそっと足をかけ、背に乗った。


「よし。それじゃ、進んでくれ」


 すると、カラカラと音をを立てながら、スケルトンホースが走り出した。


「おーいい感じの速さだ」


 時速50キロぐらいだろうか?

 普通の馬の最高速度よりは若干劣るが、それでも普通に走るよりは速い。

 何より、体力を温存できるというのが非常に大きい。

 あ、ここで言う体力っていうのは、ステータスにあったHPの意味を成す体力じゃなくて、疲労的な意味の体力ね。


「……ん?」


 ふと、前方に何かが見えて来た。

 遠くて良く分から……いや、見えて来た


「ワーウルフの群れか」


 2足歩行の狼型の魔物、ワーウルフの群れが前方に居て、道を塞いでいた。

 数は10匹。レベルは……この辺りに出てくる奴だったら、18前後かな。

 余裕で倒せる。

 そんなことを思っていたら、大分距離が縮んできた。

 あと30メートルか。


「よし。止まれ!」


 俺はここでスケルトンホースを止まらせると、急に止まった時の勢いを利用して、前に跳び出した。

 そして、背中のリュックサックから山刀を取り出すと、一気に斬りかかる。


「ウルゥウウウ!!!」


 ワーウルフが咆哮を上げた。

 どうやら、敵と認識されたようだ。

 皆一斉に両手の鋭い爪を光らせる。


「ま、勝ち目はないがな」


 ただでさえ、適当に戦っても余裕で勝ててしまうようなレベル差だ。そこに、俺のプレイングスキルが入ってしまえば、もはやこれは戦いではない。

 蹂躙だ。


「はっ はっ はっ」


 爪の軌道を見切り、半身になることで回避した俺は、すかさず首を斬る。

 当然耐えられるわけも無く、無惨にも血を流して倒れていく。


「ガルゥ!」


「ガルルゥ!」


 背後に立った俺に、ワーウルフたちはすぐさま爪で斬りつけようとしてくるが、俺は彼らの手首を左手で払うと、逆に首を斬り、倒していく。

 そうして、僅か1分足らずでワーウルフ10匹は全滅するのであった。

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