第九話 後処理の方がめんどいなぁ……

「ふぅ……うえ。ちょっと血が付いた……」


 血がつかないように気を付けて戦っていたが、流石に飛び散る血全てを避けることなんか出来る筈もなく、服の裾にちょびっと付いてしまった。

 ゲームでは、血がつくなんてことは無かったんだけどなぁ……


「血が……いや、付与術師なら何とかなったりするのかな?」


 ”付与術師”という職種には、様々な特殊効果を自分自身や他人、そして装備品に付与することが出来るスキル、《付与》がある。

 そして、《付与》の中には防護膜を纏って、防御を上昇させるものがあるのだ。

 それを衣類に付与すれば、もしかしたら汚れを防いでくれるようになるのかもしれない。

 そんな期待をしながら、山刀に付着した血を拭った俺は、周りの光景を見ると、深く息を吐く。


「流石にそのままにしておくわけにはいかないよなぁ……」


 スルーすれば消えるゲームとは違い、ここではずっと残り続ける。朽ち果てたり、他の魔物に喰われるまで。


「……よし。アンデッドたちに任せよう」


 困った時のお助けキャラ(?)死霊たちに、ここに転がている死体を片付けてもらうことにしよう。

 そうと決めた俺は、早速《死霊召喚》でそこそこの魔法を扱うスケルトンことリッチとそこそこ強いゾンビ騎士ことデスナイトを呼び出した。

 そして、まずリッチに命令を下す。


「リッチ。ここにある死体を全て《火炎弾フレイムバレット》で燃やせ」


 すると、リッチは杖を掲げた。

 直後、杖の先から炎の球がいくつも飛び出し、ワーウルフたちの死体を焼き払った。

 ゲームでは、逆にこうしても特に燃えることは無く、炎傷ダメージとして、継続ダメージを受けるだけだったが、現実となった今では違う。

 ワーウルフたちの死体は見事に燃え、ほぼ骨となった。


「デスナイト。これらを森に捨ててくれ」


 すると、デスナイトは地面に転がるワーウルフだったものを次々と森へ投げ捨てていった。

 死体に対して酷いざまだが……まあ、こんなことで一々悩んでいてはこの先、生きてはいけないな。

 そう思い、気持ちを切り替えると、俺は仕事を終えて待機状態になっているリッチとデスナイトを戻した。


「……よし。それじゃ、行くか」


 そう言って、俺は鞘に納めた山刀をリュックサックに入れると、待機しているスケルトンホースの背に乗った。

 そして、再び先へ向かって走らせるのであった。


 ◇ ◇ ◇


 あれからも魔物を狩りつつスケルトンホースを走らせた。

 出てくる魔物は高くても20ちょっとと、そこまで高くは無かったが、そこそこの数を撃破したこともあってか、レベルが58から61にまで上がった。


「……お、開けた――」


 日がだいぶ傾き始めた頃。

 ようやく山道を抜け、道の両側が草原の開けた場所に出た。

 広大な草原を見て、思わずそこに寝転がりたくなったのは内緒だ。

 とまあ、そんな話はさておき、その先に見えて来たのは――


「スリエか」


 そう。スリエだ。

 まあ、正確に言うなら、スリエを囲む城壁といったところか。

 いやー結構大きいな。重厚感があって、結構好きなんだよね。ああいうの。


「……一応歩いて行った方が良いかな?」


 スケルトンホースに乗って来る人が居たら、誰だって怪しく思う。

 そう思った俺は、スケルトンホースを戻すと、ここからは自力でスリエまで歩くことにした。


「……もしこの時間軸が主人公が活動している時期と同じだったら、主人公はここに居る可能性が非常に高いな……」


 土の道をぼんやりと歩きながら、俺は考えに耽る。

 ここはクゼ村にとっての最寄り街であるが、それは主人公が生まれた、いわゆる始まりの村――レーネ村でも同じことが言える。

 だから、村を出た主人公たちが、最初に来て、かつ最も長くいるのはここなのだ。


「どうせなら、主人公は見てみたいなぁ……」


 リバースのガチ勢だった身としては、やはり主人公の活躍は見てみたいというもの。

 特に、主人公たち勇者パーティーと、魔王との最終決戦は見てみたい。

 魔王が何故人間を憎むようになったのかを話すシーンは感動もので、思わず魔王に同情してしまったほどだ。

 ただ、1つ懸念点があるとすれば、俺がいることでシナリオが変わってしまう可能性がある……ということかな。

 主人公が関わるイベントに俺が関わってしまったせいで、その後が何もかも変わってしまう的な奴だ。

 だが、別にそれはいい。シナリオ通りにいかなくても、また別の――現実世界だからこそのルートがあると俺は思っている。

 むしろ、全く同じ方が不気味すぎる。

 ただ……俺が主人公よりも強さ面で目立ち、勇者認定されるのは割とシャレにならない。

 自由に色々とやりたい身としては、そんな肩書要らないのだ。

 だから、俺が気を付けるべきことは1つ。


「今の時間軸がはっきりするまでは、何としても実力を隠そう」


 俺はぐっと拳を握りしめると、そう決意するのであった。

 ただ、1つ懸念事項もあり、それは《鑑定》の存在だ。

 ステータスを見られれば、1発で俺の強さが分かってしまう。

 この世界では、他人のステータスを見ようとするのはかなりのマナー違反として扱われており、それにもし相手のステータスを見てしまったら、見たことが相手に感覚的なもので伝わってしまうので、こっそり見るなんてことも出来ない。

 だが、それでも見ようとする人は当然いるだろう。

 勿論レベルの低い《鑑定》になら見られないだろうが、中堅以上なら普通に見れてしまう。


「うーん。ゲームの時は非公開に出来たけど、こっちでも出来るのかな……?」


 オンライン対戦の時に、相手のステータスが見られるのはぶっ壊れ過ぎるということで、ステータスを非公開にする機能が備わっていたのだが、流石にそんなピンポイントで都合のいい機能があるなんて、ご都合主義もいい所だ。

 そう思いながらも、俺はステータスを開くと、非公開にするよう念じる。

 すると――


「……あ、出来た」


 何と、ステータス画面の左上に”非公開中”という文字が表示されたのだ。

 ……マジか。まさか成功するとは思っていなかったな。

 いやーこの世界に転生してから、ここまで思い通りに行き過ぎて、逆に怖いぐらいだよ。

 ……いや、非破壊構造物を破壊されるというトラブルで、炎岩の巨神像に殺されかけたんだったな。

 あと瞬き1回分、扉開くのが遅かったらミンチにされていたと考えると……うん。むしろこれくらいのご都合主義はあって当然だな。

 そんなことを思いながらどんどん先へと進み、やがてスリエに入る門の前に辿り着くのであった。

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