第三話 操糸術師

 コツコツと足音を立てながら、俺とフェリスは石造りの階段を下っていた。

 両側の壁には、エメラルド色で鈍く光る半透明の石が等間隔で連なっており、それが下まで続いているのが見える。

 やがて、建物5階分ほど下りたところで、俺たちは下に――第一階層に辿り着いた。


「よっと。下に着いたか。にしても、雰囲気あるなぁ!」


 第一階層に降り立った俺は、高さ5メートル道幅5メートル程の石造りの道が前方へと続いているのを見て、思わず声を弾ませる。

 すると、俺の後に続いて下に降りたフェリスが口を開く。


「階段には明かりがあるのに、こっちには無いんですね。《暗視化ダークビジョン》」


 そう言って、フェリスは俺が持っている《暗視》のスキルと同じ効果を持つ魔法――《暗視化ダークビジョン》を使って、視界を確保する。


「……なんだか古びた地下遺跡のような感じがします」


 所々がひび割れ、苔が付着している迷宮の壁に手を触れながら言うフェリスの言葉に、俺は「それな」と返した。


「……さて、そんじゃ行くか」


「分かりました。行きましょう」


 一通り辺りを見渡したところで俺はフェリスと共に歩き始めた。


「……お、早速か」


 歩き始めてから1分足らずで、俺たちは魔物の群れに遭遇した。

 名はゴブリン。数は5。レベルは10。

 今の俺でも容易く倒せる。


「フェリス。手出しは無用だぞっ!」


 一応フェリスにそう言うと、鞘から2本の片手剣を抜き、構える。

 そして、勢いよく地を蹴った。


「はあっ!」


「ギャギャ!?」


 5体のゴブリンは急接近する俺に気付くや否や、驚いたように声を上げる。

 その直後、2体のゴブリンの首が鮮血を散らしながら宙を舞って、地面に落ちた。


「まずは2体」


 淡々とそう口にすると、頭の中にいつもの声が聞こえてくる。


『レベル11になりました』


 お、レベル11になったか。

 だが、今は戦闘に集中集中。


「グギャギャ!」


「……一応使ってみるか。《操糸》!」


 木の棍棒を振り上げ、接近してくるゴブリンを一瞥した俺は、片手剣を持ったまま右手を前方に突き出し、スキルを使う。

 直後、俺の右手から2本の細い糸が飛び出し、ゴブリンたちの手足に巻き付いた。


「ギャガギャ!?」


「ギャギャ!」


 ゴブリンたちは必死に振りほどこうとするが、俺は効率よく糸を奴らの手足、そして首に重ねて巻き付けると――勢いよく引いた。


「ギャ……」


 それだけで3体のゴブリンはバラバラになり、地面を血で赤く染めた。


『レベル12になりました』


「よし。これで終わりっと」


《操糸》で生み出した糸を消した俺は、片手剣に付着した血を振り払った。

 いやー結構余裕だったな。

 転職してレベルを落としてなおこれなんだから、もしレベル100のまま行ってたら、いっそつまらなく感じただろうか。

 そうそう。俺、あれから迷宮探索を面白くする為兼強くなる為に、転職の指輪を使って”操糸術師”って職種に転職したんだよね。

 ”操糸術師”のスキル《操糸》による攻撃は避け難いってことで、オンライン対戦では結構気に入っていたんだよね。

 さて、そんな俺の今のステータスはこんな感じ。


▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

【名前】レオス

【種族】人族

【職種】操糸術師

【レベル】12

【状態】健康

【身体能力】

・体力188/188

・魔力154/154

・筋力205

・防護188

・俊敏188

【魔法】

・無し

【パッシブスキル】

・暗視レベル2

・常時再生レベル2

・物理攻撃耐性レベル1

【アクティブスキル】

・付与レベル2

・鑑定レベル2

・幻術レベル2

・操糸レベル2

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽


 まあ、順調に強くなってるな。

 因みに、聖騎士から操糸術師に転職する過程で持ち越せたスキルは《常時再生》だった。

 うん。まあ、これは……ぶっちゃけハズレだね。

 いや、このスキル自体は強いんよ。ただ、このスキルってレベル100になればどの職種でも手に入るスキルだから、持ち越す意味が無いんだよね。

 だから、このスキルは転職回数が10回を超えて、持ち越せるスキルと魔法が一杯になったら真っ先に消すつもりだ。


「お疲れ様です。水飲みますか?」


 そう言って、フェリスは腰に括り付けてある水筒を俺に差し出してくれた。


「ありがとな。ちょっと飲んどく」


 俺はフェリスから水筒を受け取ると、ごくりと少量の水を飲んだ。


「はぁ。さて、魔物は……」


 フェリスに水筒を返した俺は、くるりと前方に体を向ける。

 すると、そこにはゴブリンの死骸――ではなく、5つの魔石が転がっていた。


「へぇ。死骸が残らないのは本当だったんだ」


 それを見て、俺は思わずそう口にする。

 この世界では、倒した魔物は普通に死骸として残り続ける。だが、ダンジョンでは魔物の死骸はダンジョンに吸収され、魔石だけが残るのだ。

 何故魔石だけが残るのかは、深く考えないでおこう。答えに行きつく自信は無いし。


「あ、魔石は私が回収します」


 そう言うや否や、フェリスはシュバババッと目にも止まらぬ勢いで魔石を回収し、革袋に放り込んだ。

 俺が討伐でフェリスが補佐。

 いい役割分担(?)だな!


「うん。ありがとな。それじゃ、先行くか」


「分かりました」


 こうして迷宮での初戦闘を難なく終えた俺は、フェリスと共に先へ向かうのであった。

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