第十話 反転の迷宮のボス

 ハイオーク率いるオークの集団を難なく殲滅した俺は、その後もサクサクと魔物を討伐していく。罠は落とし穴の他にも矢が飛んでくるバージョンが追加されたが、対処方法は落とし穴と全く変わらない為、その部分に関しては特に難易度が上がったという訳ではない。

 道中宝箱もいくつか見つけたが、ちょっとした換金アイテムと回復薬だった。微妙だったが、蒼宝珠が既に出ている時点で今回の探索は大当たりなので、これっぽっちも落ち込まなかった。

 ……いや、蒼宝珠がまた出るかなと期待していた自分が居たせいで、ちょっとは落ち込んだ。

 くそう。

 とまあ、何だかんだありつつ、レベルも27に上がったところで、遂に最下層――第四階層へと続く階段に辿り着いた。

 ここへ来るまでに追加で5時間かかった為、地上はもう日が沈んでいることだろう。

 早いとこボスを倒して、宿に帰らないと。


「……さて、行くか」


「分かりました」


 少し長めの休憩を取った俺は、この迷宮最後の戦いをすべく、フェリスと共に下へと向かうのであった。


「お~こりゃ雰囲気あるな」


「最後の関門……って感じがしますね」


 下りた先に見えて来た、大きな石造りの扉を前に、俺たちは口を揃えてそう言う。

 蛇が絡まった感じ(?)の装飾が施された大きな石の扉って、いかにもって感じがするよね。

 そんなことを思っていると、ギギギギ――と軋んだ音を立てながら、ゆっくりと扉が開いた。


「よし。行こう」


「分かりました」


 そして、俺たちは第四階層――と言う名のボス部屋に足を踏み入れた。

 ボス部屋は、市民ホール程度の広さがあり、4本の石柱が天井を支えるかのように上へと伸びていた。


 バタン!


 俺とフェリス。2人共中に入ったタイミングで、扉が勢いよく閉ざされた。

 こうなったら最後、勝負がつくまでここから出ることは出来ない。

 まあ、現実世界となった今なら、フェリスが全力で扉を殴れば脱出できそうだけど……変なことになったら嫌だし、流石にやめておくか。


 ゴゥン!


 すると、今度は部屋の中央の床に大きな魔法陣が出現した。

 再生の霊峰で、炎岩の巨神像と相対した時に見た奴と瓜二つだ。

 やがて、そこからゴゴゴゴ――と音を立てて現れたのは、高さ4メートル程はある大きな騎士型の像だった。

 右手には大きな岩の盾、左手には大きな岩の剣を持った、全身岩で出来た騎士像――その名もナイトゴーレム。

 レベルは35と、そこそこある。

 今の俺よりは高いし、フェリスが参戦しない都合上1人だから、ちょっと手こずるかな?

 そう思っていると、ナイトゴーレムは俺の身長以上はある大剣を振り上げ、勢いよく振り下ろした。


「おっと。始まったか」


 始まりの合図とでも言うべき、最初に確定で行われる攻撃。

 余波で地面がガガガガ――と割れていく中、俺はそれを軽く横に跳ぶことで躱す。


「さぁて。楽しませてくれよっ! 《付与》」


 口角を上げながら声を上げると、俺は《付与》で身体能力を上げ、突撃する。

 そして、剣を勢いよく振り下ろしたことで無防備になっているナイトゴーレムに肉薄すると――脇腹辺りに片手剣2本を駆使して連撃を仕掛ける。


 キン! キン! キン! キン!


 かなりの耐久力を持つナイトゴーレムということもあってか、手応えはあまり感じない。俺渾身の4連撃を受けても全く怯まず、ダメージも微々たるものだった。

 そうこうしている内に体勢を立て直した奴が、大剣を横なぎに振るう。


「よっと」


 威力は言わずもがな、速度もそこそこある一撃を、俺は毎度の如く屈んで躱すと、再び生まれた隙を狙って今度は腕を攻撃する。

 ナイトゴーレムは攻撃、防護が共に高いのだが、攻撃後の隙が非常に大きい。

 その為、それを的確に利用していけば、いずれ倒すことが出来るだろう。

 だが、それじゃあ


「ゴ――ッ!」


 右側に居る俺を攻撃したことで、体勢をこちらに向けたナイトゴーレムが、今度は大盾を俺へ突き出す。シールドバッシュってやつだ。


「はっ!」


 あれは流石に屈んで躱せるやつじゃない。

 俺は地を蹴り、後ろへ下がることでその攻撃を躱す。


「《操糸》《糸強化》」


《操糸》で糸を複数本飛ばした俺は、それら全てに《糸強化》を使って強度を上げ、更に粘着性を付与する。

《糸強化》はレベル20に上がったことで手に入れたスキルで、文字通り糸を様々な方向性に強化することが出来る。


「ゴゴ――ッ!」


 俺の掌から放たれた糸は、ナイトゴーレムの左手首に巻き付く。複数本巻き付かせたため、余程大きく動かない限りは取れないだろう。


「ゴゴゴ――!」


 すると、ナイトゴーレムは大剣を振り、左手首と俺を繋げる糸を断ち斬ろうとした。


「させねぇよ!」


 だが、すかさず糸を長くすることで糸を弛ませ、斬られるのを回避する。


「はあっ!」


 そして、その隙を利用して今度は糸を勢いよく引いた。

 すると、ナイトゴーレムの左手がこちらへ引っ張られ、それに伴いナイトゴーレムの態勢が乱れる。

 そうなった状態で近づくと、大盾を踏み台にして跳び上がった。

 そして、こいつの弱点――コアがある、人で言うところの右目に剣先を向ける。

 フルフェイスの兜だが、隙間はある。

 そんな細い、片手剣がギリギリ入るような隙間に――


 グサッ!


 片手剣が刺さった。


「ゴゴゴゴゴオオォォォ――!!!」


 直後、凄まじい断末魔が部屋中に響き渡った。

 そして、ナイトゴーレムは……塵と化して、消えた。

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