第十二話 次のイベントは……
微かな浮遊感を感じた後、俺たちを包んでいた光が消えた。
その光も、俺とフェリスが隠している為、誰かに見つかる心配もない。
そうして出て来たのは、反転の迷宮の入り口前にあった広場の中央だ。
夜ということもあってか、周囲に人はほとんど居ない。
「よし。行くぞ」
「はい」
俺たちは小声で頷き合うと、街へと向かって駆け出した。
その後、適当な場所で《幻術》と《
そうして街に帰って来た俺たちは、一先ず腹を満たすべく、宿へと向かう。
「お~相変わらず賑やかだなぁ」
「でも、なんだか落ち着きます」
宿へと帰って来た俺たちを出迎えたのは、下の食堂で食事をしながら談笑を楽しむ冒険者だった。
俺たちは早速空いているテーブル席に座ると、店員を呼んで、酒やらつまみやらを適当に注文する。
「はぁ……む?」
席に腰掛け、深く息を吐いた俺は、気まぐれに他の冒険者たちの話の話題に耳を貸す。
すると、予想よりもずっと大きい情報が聞こえて来た。
「そうそう。そういやあの”創成と破壊の四天王”が今日王都に向かったんだってな」
「え? あの反転の迷宮を驚異的な速さで踏破したあの?」
「ああ。そいつらで間違えねーよ」
「王都ねぇ……国から仕官依頼でも来たのかね?」
「あーどうだろ? 流石にこんなに速く来るわきゃねーと思うんだが……」
「どーせ冒険者のことを下賤な仕事だと馬鹿にする貴族が茶々入れて有耶無耶になるだけだと思うぜ?」
「あ~何かありそう」
「でも、権力争いにそこまで興味のない上級貴族からは誘い来そーだけど」
「だなぁ。でも、あいつら貴族の仕官受けると思うか?」
「無いら。ああいう冒険を楽しんでいるような奴らは特に」
「それなぁ……あ、そういや他にも……」
取り留めもない冒険者たちの会話。
それで分かったことは、俺たちが居ない間に、主人公たちが王都ルクリアへ行ってしまった……ということだ。
だが、別にそれは想定の範囲内。
だって、次のイベントは王都で起こるのだから。
確か、王都ルクリアへ行った主人公たちは最初に”紅蓮の迷宮”ってところに入り、攻略するんだ。そして攻略後、”最速踏破者だ~!”ってお祭り騒ぎになっていたら、突如として大きな黒いドラゴン――暗黒龍が王都の中央に出現するんだよな。で、後は予定調和の如く倒して、王都に住まう王侯貴族たちからの称賛を浴びる。
これが、次に王都ルクリアで起きることの
……よし。明日王都に向けて旅立とう。
紅蓮の迷宮は自分も攻略してみたいし、暗黒龍もこの目で拝んでおきたい。
あと、ヤバそうだったら主人公たちも助けたい。
主人公たちって、ゲームで言うと実質コンテニュー禁止の縛りの中で戦っているようなものだからね。この前のイレギュラーもあってか、普通に心配。
そう頭の中で思っていると、俺を呼ぶ声が聞こえて来た。
その言葉で我に返った俺は、横の席に座るフェリスを見やると、口を開く。
「ああ、ごめん。考え事をしてた。それで、どうした?」
「いえ、あの……もしかして、これから……いえ、明日から王都へ行くつもりですか?」
「あ、ああ……」
口に出してないのに何故分かった!?と内心驚愕した俺は、思わずそんな声を漏らす。
すると、そんな俺の内心も察したのか、フェリスは「はぁ」と小さくため息をついた。
「気を抜いているレオスさんは、とても分かりやすいですよ。全部顔に出ています」
「あ、そうなんだね……」
フェリスの言葉に、俺は後ろ髪を掻いた。
「それで……ああ。王都へ行くのが嫌か?」
ああ、そう言えば、フェリスは主人公たちと顔を合わせることを極度に恐れているんだった。そんなフェリスが、主人公たちの向かった王都へ行くことに、納得するはずがない。
そう思っていたが、返って来たのはそういう言葉では無かった。
「いえ、それは大丈夫です。ずっと過去から逃げ続けていては駄目だってことは、私が一番分かっています。なので、行くことには絶対に反対しません。ただ、それでもちょっと、怖くて……」
凛とした声で、はっきりと反対しないと言ってくれた。
だが、その後に紡がれた弱々しい言葉を聞いた俺は、思わず彼女の頭に手を伸ばした。そして、安心させるように優しく撫でる。
「フェリス……君は強いな」
過去から逃げることを良しとしないその心構えに、俺は心が動かされた。
ああ、俺とは大違いだ。
過去から逃げ、人との関わりを極限まで拒絶し、ゲームの世界に閉じ籠っていた俺よりも、ずっと――
「……それに関して、俺に出来ることは大して無いと思うが……頼って欲しければ、存分に頼ってくれ。力を貸すよ」
頭を撫でながら、安心させるような声音で言う。
すると、フェリスは落ち着いてきたのか、小さく息を吐いた。
そして――
「分かりました。ならまずは……もう少しだけ、頭を撫で続けてください」
「りょーかい」
少しだけ頬を染めたフェリスの言葉に、俺はそう言って頷くと、そのまま頭を撫で続けるのであった。
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