第十七話 あともう少し……!
9時間後――
「《
右手を掲げ、叫ぶ。
直後、俺の掌に大きな黒い魔法陣が現れたかと思えば、漆黒の大槍が飛び出した。
飛来する漆黒の大槍は、そのまま前方にいるアンデッドの集団を飛び越え、その奥にいる体長20メートル程の上位龍――通称ドラゴンの喉を穿つ。
「ギュルアアアアアアァ!」
アンデッドの集団によって、既にそこそこのダメージを負っていた上位龍が耐えられるはずも無く、最期の咆哮を上げると共に、ゆっくりと地面に倒れ伏し、息絶えた。
『レベル99になりました』
「よし。あともうひと踏ん張りだ」
レベルアップを伝える声が響き渡り、俺は拳を握りしめると、気合を入れるように言う。
いやー中々頑張ったよ。
ゲームの時とは違い、アグレッシブな動きを迂闊に取れないせいで、ゲームと比べるとそこそこ時間はかかったし、疲れもした。
だが、十分早い。
取得経験値10倍の恩恵は、本当に大きいものだと実感できる。
さっきみたいな上位龍を、数百体と倒すのは流石に骨が折れるし、そもそもそんなに上位龍が居ないからね。
だから、倒す魔物の数を10分の1に出来るという意味でも、この指輪は本当に凄いのだ。
「はぁ……ただ、この辺りのドラゴンはあらかた狩りつくしちゃったな……」
ゲームみたいに、数時間経てば再ホップするような甘い話は無い。
ここは現実。絶滅させようと思えば出来てしまうんじゃないかな?
……いや、でも魔物ってどんな感じで生まれてくるんだろ?
普通に生殖で生まれる可能性もあれば、異世界らしく魔力のたまり場みたいなところから生まれてくる……なんてこともあるかもしれない。
まあ、そこら辺は要検証だな。
「さてと。取りあえず、あともう少しだ。頑張るぞ!」
俺は体を伸ばすと、気合を入れた。
そんな俺を囲むのは、召喚したアンデッドたち。
前と比べると、皆結構強い。
上位の魔法も扱うことが出来るスケルトンことエルダーリッチや、漆黒の武具を身に纏い、漆黒の馬に乗る首無し騎士のデュラハン等、総勢60体のアンデッドが俺の周囲に集まっていた。
ここまでくれば、割と数の暴力でゴリ押せる――ほど甘くは無く、実際はレベル差の暴力で、こいつらだけでは割と拮抗してしまう。
アンデッドたちのレベルは平均65だが、さっきの中型ドラゴンのレベルは85だ。
この20の差は、結構大きいんだよね。
「ん~次はどんな魔物と出会うのかなぁ……」
俺は森を歩きながらそう呟く。
そうそう。あれからスケルトンホースはお役御免になったんだよね。
ここまで来ちゃうと、戦いの余波で瀕死になっちゃうんだよ。
ただでさえ4倍近くのレベル差があるのに加え、戦闘に不向きとなれば、もう出すわけにはいかないのだ。
「ん~……お、もう最深部に入ったのか」
遠くにぼんやりと見える大きな緑色のドラゴン。大きさゆうに40メートルを超えるだろう。
あのドラゴンが居るのは、この森の最深部のみだ。
現実世界であるが故に、そんな仕様無視して浅い部分に現れることもあるかもしれないが、今まで進んできた距離を考えると、そこが最深部であることは、間違いではないと思う。
「確か、風帝の滅界龍だったか? 厨二病がつけたような名前だな」
そんな冗談を言いつつも、俺は真剣に考えこむ。
あいつはあの見た目から分かる通り、この森最強の魔物だ。
レベルは当然のように100で、ゲームであれば他3人のパーティーメンバーと共に倒すことが前提となっている。
……というか、基本そうなんだよね。
俺はこの森を1人で踏破してきたけど、本来であればもう3人同レベルの仲間がいないと厳しいんだよ。
まあ、何故それを踏破できたのかと言うと、それは指輪の力と言うよりは、プレイングによるものだ。
俺のプレイングは世界トップクラスだからね。
で、そんな俺が思うに、今の俺があいつを倒すのは……うん。キツいわ。
レベル差は1しかないが、あっちはドラゴン。
ステータスの値には、2倍近くの差がある。
それだけでも嫌になるのに、それに加えてあいつと死霊術師の相性は結構悪い。
まず、飛ばれるだけで大半のアンデッドは何も出来なくなる。
それでもって、上から風属性魔法を放たれれば、レベル差も相まってあっという間に壊滅……と言う訳だ。
故に、勝つには俺自身が戦わないと厳しいのだが……死霊術師って筋力と防護の両方が貧弱だから、直接戦闘には全然向いていない。
一方、向こうは直接戦闘には結構向いている。それに、今の俺ではどうやっても回避できないような広範囲攻撃の魔法を使ってくる。
その魔法に当たればかなりダメージを負うし、回復しようにも、現状その回復手段が貧弱すぎる。
だから、勝率は1対99といったところか。
勿論、俺が1で、向こうが99だ。
「……逃げるのは癪だが、勝つ可能性の方が圧倒的に低い戦いに、命を賭けたくは無いな」
勇気と蛮勇は違う。
ここは引いて、倒せそうな魔物のみを倒してレベルを100にするとしよう。
「だが、いつか必ず倒す。その時まで、首を洗って待っているといい」
そんな負け惜しみじみた言葉を言うと、俺は踵を返して歩き出した。
そして、今の俺でも倒せる――上位龍を討伐し続けるのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます