第6話 金
何をやるにしても金がいる。これは地球に限った話ではない。
森に拠点を構えたのはいいが、中にあるのはランタンとコルウィルからもらった寝袋だけ。流石に味気ない。テレビや電子レンジ、洗濯機なんて無茶は言わないが、普通に生活出来るように色々と揃えたい。
最優先は魔道具。
この世界には電化製品がない代わりに、魔石で動く魔道具があるらしいのだ。当面の目標は金を稼いで魔道具を揃え、QOLを上げることだ。
では、どうやって金を稼ぐかだが……。
「おっ、いるいる」
森に仕掛けた直径二メートル、深さ三十メートルの落とし穴の底にはオークが一体、倒れている。
三十メートルの高さから落ちたのだ。無事なわけない。屈強な魔物とはいえ、打ちどころが悪ければ死ぬのだ。
さて、問題はオークの死体をどうやって回収するか。
ロープを継ぎ足し降りることも可能だが、死体を持って地上に上がるのは大変だ。俺は悩んだ。悩んだ末にある方法に辿り着いた。
「【穴】解除」
ドンッ! と土埃。目の前にはオークの死体。
そう。スキル【穴】であけた穴は、解除すると元通りになるのだ。そのタイミングで穴の中にあったものは、外に出される。
これを最初から知っていれば、王都の宿に証拠を残さずに済んだのだが……。今更だ。
「さて、そろそろ上がったか。ステータスオープン」
【 名 前 】 番藤茶太郎
【 称 号 】 侵略者
【 年 齢 】 17
【 レベル 】 10
【 魔 法 】
【 スキル 】
【固有スキル】 穴
……うん? 昨日はレベル3だったのだが……。他の落とし穴にも魔物がかかったか?
疑問に思いながらも、オークの胸に穴を開け、手を突っ込んで魔石を取り出す。
「デカいな……」
俺はレベルの上がった身体でオークの巨体を引きずり、コルウィル達のところへ向かった。
#
「よう。チェケ。このオークと魔石を買い取ってくれ」
「うわっ! オークジェネラルじゃないすか!」
廃坑入り口で見張り番をしていたチェケ──最初に俺を襲った男──に声を掛けると、大袈裟なリアクションが返ってきた。
「ジェネラルでもなんでもいいが、確かオークの肉は美味いんだろ? 俺一人ではとても食べきれないから、買い取って欲しい。ついでにこの魔石も」
ポケットの中から魔石を取り出すと、またチェケは目を見開く。
「ボスに相談してきます!」
「ちょっと待て」
「えっ? なんです?」
チェケは未だに脚を引きずっている。そろそろ、元に戻してやってもいいだろう。
「脚を見せてみろ」
「また穴をあけないで下さいよ?」
「逆だ。塞いでやる」
穴の空いた右腿に触り、脳内で元通りになる絵を思い浮かべる。そして──
「【穴】解除。……どうだ?」
チェケはズボンの上からわさわさと触る。
「塞がってます!」
「俺の寛大な心に感謝しろよ?」
「ちょっと納得行かない気がしますけど! 感謝します!」
「買取価格で誠意を見せてくれ」
少し待つと、チェケは小袋を持って戻ってきた。
「バンドウさん! これをどうぞ!」
袋を受け取り中を見ると、金貨が三枚入っている。ざっくり聞いた感じでは、金貨一枚は十万円ぐらいの価値だ。豚面の魔物一体で約三十万……。美味すぎる。
「いいのか?」
「大丈夫す! ウチらも更に商人に売って儲けますから!」
となると、末端価格は更に高いと。まぁ、今の俺には販路がないから仕方ない。
「そうだ。お前達、どっかの商人と繋がってるんだろ? 魔道具を仕入れてもらえないか?」
「えっ、魔道具ですか? まぁ、可能っちゃ可能ですけ、どんなやつが欲しいんですか?」
「必須なのは照明だな。あと、調理用の魔道具も。値段はどれくらいになる?」
うーんと考えた後、チェケは恐る恐る答えた。
「両方とも、金貨一枚以下で買えるっすよ?」
「ならば頼む」
「了解っす! 近い内に商人に会うので、頼んでおきます!」
よし。魔道具の目処はついた。当面は金を稼ぐことに集中するだけだ。
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