第12話 詰問

「……さーん」


「……ドウさーん!」


「バンドウさーん! 早く出てきて下さい!!」


 喧しい。俺の眠りを妨げる騒音。その声の主は万死に値する。


 だらり上体を起こし、よろぼい寝袋からまろび出る。拠点の広間に行くと、同じく眠そうな顔をした田川と鮫島がいた。


「お前達か……? 俺を起こしたのは……」


 田川がビクリと背筋を伸ばす。


「違うよ!」

「じゃあ、鮫島だな……?」


 睨み付けると、鮫島と首を振る。


「バンドウさーん! いるんでしょ!! 早く来てくださいって!!」


 この声は……チェケか……。


 拠点の入り口から顔を出すと、堀の向こうにチェケとコルウィルの姿が見えた。


「バンドウ。話がある」


 コルウィルの低い声。どうやら込み入った話のようだ。


 地面に手を翳し、【穴】を解除して堀に橋をかける。


 するとコルウィルがつかつかと歩いてきた。


「王城の宝物庫が襲われたらしい。何か知っているか?」

「知らない」

「お前達にオオトカゲを貸した日の夜に宝物庫が襲われたんだぞ」

「あの日は夜のピクニックをしていた。楽しかった」


 コルウィルが眉間に皺を寄せる。


「宝物庫の壁には"リザーズ参上!"と書かれていたらしい」

「お前達がやったのか……!?」

「違う! バンドウ達がリザーズの名前を騙って盗みを働いたんだろ……!?」


 流石にコルウィルは馬鹿ではないな。


「その通りだ。リザーズの名前を売っておいた。礼はいらないぞ」

「ふざけるな! 一体、何が目的だ!!」


 大声に釣られ、田川と鮫島が拠点から出てきて俺の背後に立つ。


「ガドル王国の王家をコケにしてやろうと思ってな。宝物庫を襲われたんだ。奴等はリザーズ討伐隊を組織するだろう。国を上げての盗賊狩り。異世界の勇者をアピールする最高の場になると思わないか……?」

「勇者達がこの森にやって来ると……」


 コルウィルが思考を巡らせる。


「まず、間違いないだろう。奴等にとっては勇者のお披露目の場。そこで、恥をかかせる。最高だと思わないか?」

「勇者達は、お前の仲間だったのではないのか?」


 笑わせる。


「おい、田川! 鮫島! 勇者は仲間か……!?」


 振り返ると怒りに満ちた顔が二つ。


「そんなわけないだろ! アイツら、人を見下しやがって!」

「仲間では……ないかな」


 コルウィルに向き直り宣言する。


「勇者は仲間ではない。俺を楽しませるだけの存在だ!」

「……いかれてやがる」


 チェケが瞳を輝かせる。


「でも! なんか面白そうっすね!! 伝説の勇者のカッコ悪いところ見たいっす!!」

「だろう?」


 ウンウンとチェケは頷いた。


「部下は乗り気だぞ?」


 しばし沈黙。そしてため息を吐いた。


「分かったよ! リザーズはバンドウ達と協力して王国の討伐隊を退ける! それでいいな……!?」


 何も言わず、右手を差し出す。


 馬鹿デカい手が「ガッ!」とそれを握り、同盟は成立した。


「さて、忙しくなるぞ」

「考えはあるんだろうな?」

「任せろ。昔から、悪巧みには定評があるんだ」


 にっこり笑うと、何故かコルウィル達は引き攣った顔を返した。

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