第13話 壮行会

 王都を南北に貫く大通りの、ちょうど真ん中にある広場。国を挙げての式典等はいつもそこで行われる。


 その日、開かれたのは壮行会だった。王都周辺を騒がす盗賊団「リザーズ」の討伐隊が組織されたのだ。


「たかが盗賊。大袈裟だ」という声も勿論聞かれた。しかし、今回の討伐隊には異世界から召喚された勇者が参加するという。


 娯楽に飢えた国民は盛り上がり、勇者見たさに広場は人混みで満たされていた。


 広場に組まれた舞台の上には第一王女エミーリアと近衛騎士が立つ。


 彼女は拡声の魔道具を持ち、大きく息を吸い込んだ。


「今! 王都周辺はある盗賊団により治安が乱されています! その盗賊団の名はリザーズ。皆さんもその悪名を耳にしたことがあるでしょう。商隊を襲って金品と人命を奪い、遺体をトカゲに食べさせて笑う悪逆非道な集団です!」


 聴衆から怒声が上がる。


「私達は遂に! リザーズの拠点を突き止めました! 既に先遣隊を派遣し、奴等の動きを封じています。後は、叩き潰すのみ!」


 エミーリアの力強い声に聴衆から歓声が上がった。


「誰がリザーズを潰すのか……!? 勿論、王国軍もリザーズ討伐隊に参加します。ただ、それだけではない。異世界から、心強い援軍が来てくれました! 魔王軍の前に、盗賊団を蹴散らせてもらいましょう! 勇者様達に……!!」


 若い男女が舞台に駆け上る。フリューテッドアーマーに身を包む彼等は黒目黒髪で、言い伝えにある通りの勇者だった。


 聴衆は期待通りの展開に歓喜し、広場には異様とも言える熱が渦巻く。


 勇者達の中から一人、男が歩み出てエミーリアから拡声の魔道具を受け取った。


「我が名は草薙。この世界の危機を救う為、我々は召喚された。勇者とは、人々に勇気を与える存在に他ならない。盗賊団を討ち取り、王都周辺に秩序を取り戻してみせよう!」


 広場は更に沸き上がる。その様子を見て、エミーリアは満足気に頷く。


 何処からともなくラッパの音が響いた。


「出征!!」


 近衛騎士が勇ましく声を張り上げる。


 聴衆の人垣を割って馬車が広場に現れ、勇者達が歓声を受けながら客室に乗り込んだ。


 ラッパの音に聴衆の声が混じり、またもや大気が震えた。それは馬車を引く馬の蹄鉄と絡み合い、人々は更に興奮する。


「勇者様! 勇者様!」


 黄色い声援に、馬車の窓が開く。


 勇者草薙が手を振ると、若い女からは嬌声が溢れた。


「ガドル王国に光を! 【ホーリーライト!】」


 草薙が光魔法を使うと広場の上空に聖なる光球が現れ、星屑のように聴衆に降り注ぐ。


 その様子は幻想的で、見るもの全ての心を奪った。


 勇者さえいれば大丈夫。


 広場にいる誰もがそう信じて疑うことはなかった……。

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