第11話 深夜
第一王女エミーリアの執務室は深夜にもかかわらず、明かりが灯っていた。
少し眠そうなエミーリアと、疲労の色が濃い宰相がテーブルに並べられたカードを見ながら眉間に皺を寄せている。
「一番成長が早いのは?」
「アオキのパーティーです」
エミーリアは少し考え込んでから反応する。
「サッカーブのキャプテンだったかしら? 初日にバンドウに転がされた男ね」
「左様です。それがきっかけになったのか訓練にも熱心でレベルも既に15を超えております」
「流石は勇者ね。王都の周りには弱い魔物しかいないというのに、もうそんなレベルなの……」
エミーリアの驚きの表情に宰相は満足気だ。
「他にも成果は上がっております。クサナギが【光魔法】を使えるようになりました」
「魔導書を使わずに覚えたってこと?」
宰相はコクリと頷く。通常、魔法が使えるようになるには魔法の閉じ込められた魔導書を熟読する必要がある。草薙はそれをせずに魔法を習得したというのだ。
「宮廷魔導師の筆頭が彼等の指導にあたっております。光魔法の実演を見て、覚えてしまったのでしょうね」
二人とも「呆れた」という顔をした。そしてしばしの静寂。
「今日はそろそろ終わりにしましょう」
「そうで────」
激しい足音の後、執務室の扉が叩かれる。
「何事だ!」
宰相が忌々しげに声を上げた。
「王城に賊が現れました! エミーリア様はご無事でしょうか?」
聞き覚えのある声に扉を開くと、近衛騎士だった。エミーリアの警護を担当している者だ。
「一体、何があったの?」
「地下の宝物庫が襲われました!!」
「馬鹿な! 宝物庫を開けられるのは王族だけの筈!」
宰相が怒鳴る。
「侵入経路は不明ですが、宝物庫内のガーゴイルは破壊され金品がほぼ全て消失しております」
「どうやって……。手掛かりはないの?」
宰相と比べてエミーリアは冷静だ。
「壁に"リザーズ参上!"と書かれておりました……」
「リザーズ……。廃坑を根城にする盗賊団ね。随分手強いと聞いているわ」
「実は……」と切り出す宰相。
「召喚者の内のあぶれた二人組が盗賊団の退治に向かって、戻ってきておりません」
「召喚者から宝物庫の存在が漏れたってこと?」
「可能性はあるかと……。ただ、もう生きてはいないでしょうが」
エミーリアは納得のいかない表情だ。
「でも、わざわざ自分達の名前を残すかしら?」
「リザーズはわざと名前を売っていた節があります」
「何のために?」
宰相は顎ひげをしごく。
「あくまで私の推測ですが……。ここまでするとなると、リザーズの後ろには帝国がいるのでは? と感じております。彼等の目的は王都周辺を混乱に陥れることなのかも……」
「ザルツ帝国……」
「何にせよ、討伐隊を組織する必要がありますな。国王から勇者の協力を依頼されるかもしれません」
「参りましたなぁ」と呟く宰相。
「チャンスね。勇者を国民に売り込む」
「はっはっはっ! エミーリア様は豪胆でいらっしゃる」
「いつ、お父様から声が掛かってもいいように、準備を進めましょう」
盗賊の襲撃をも好機と捉える二人に、近衛騎士は危うさを感じるのだった。
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