第10話 侵略
「この上で間違いないよ」
【マップ】を確認した田川が断言する。透明なタブレットを覗き込むと、今いる地点から三メートル上に例の部屋があった。
様々な角度から地形を丸裸にする田川の固有スキルは本当に素晴らしい。
「番藤! やってくれ!」
長剣を背負った鮫島が急かす。田川も期待した目でこちらを見ていた。それに応える為、天井に指先を当てる。
「……よし。やるぞ。【穴!】」
ダンッ! と音がして天井に穴があき、例の部屋と繋がった。部屋には灯りがないらしく真っ暗だ。音もしない。
鮫島を見ると、黙って頷く。手にしていた照明の魔道具を腰のベルトに下げ、軽く屈伸する。そして──
「フンッ」
垂直飛びをして舞い上がり、穴の縁へ手を掛けた。とんでもない跳躍力。これは鮫島が【狂戦士】の称号を持ち、レベルが20に上がったからだ。
穴に落ちた魔物の止めを優先的に鮫島に回した甲斐があった。パワーレベリング様々だ。
「グッ」
腕の力で身体を引き上げ、鮫島は部屋に転がり込んだ。
「どうだ?」
「やべえ! お宝だ!」
「……声を抑えろ。ロープ投げるぞ」
錘の付いたロープを放り投げると鮫島が受け取り、「来い」と合図をする。
「田川はここで待っていろ。お宝を落とすからちゃんとキャッチしろよ」
緊張した様子の田川は黙って頷く。その横ではオオトカゲが退屈そうな顔をしていた。
「じゃ、行ってくる」
ロープを掴み右脚に巻き付ける。左足でロープの端をロックしながら、腕の力でグイと身体を持ち上げた。
それを数度繰り返すと、鮫島の足元が見えてきた。差し伸べられた手を掴むと一気に引き上げられる。
「おぉ」
部屋は10メートル四方はあるだろうか。家具はなにもなく、蒐集された宝石や魔石、武具や使い道の分からない魔道具等が雑然と置かれてある。
「凄いだろ?」
鮫島がドヤる。が、まぁいい。今は如何に素早く仕事をこなすか。だ。
「とりあえず、全部穴の下に落とそう。一度に全部は持ち帰れない」
「オッケー!」
また声を大きくした鮫島を睨みつける。鮫島はお構い無しにどんどんお宝を落とす。俺も手頃な宝石類を穴の下に放り投げていると──
ギギギッ。と金属が軋むような音がする。照明の魔道具を向けると部屋の隅、柱の彫刻──ガーゴイルだろうか? が動いているように見える。
「部屋の四隅を見ろ! ガーゴイルだ!」
「へっ? がーごいる? なんだそ──」
ビュン! と青い光線がガーゴイルの目から放たれ、俺の頬を掠めた。
「鮫島! 頼む!」
「おっしゃっ! 【狂化】」
鮫島の身体が赤く発光し、物凄い速度で踏み込み長剣を振り下ろす。柱のガーゴイルは頭がひしゃげ、もう目の光はない。
まず一体。
俺は巻き添えを喰わないように、壁に穴を開けて避難する。
「ウオオオォォォ……!!」
煌めく赤い閃光。鮫島の凶刃が宝物庫の中で荒れ狂う。
鮫島の動きはどんどん速くなり、青い光線を掻い潜り、何度も剣を振う。
「はぁはぁはぁ……」
時間にすると三十秒なかっただろうか? 鮫島の身体を覆っていた赤い光は弱くなり、やがて消え失せた。
「番藤……。もう大丈夫だ……」
壁の穴を塞いで部屋を照らすと、四隅のガーゴイルは跡形もなく壊されていた。過剰な暴力。まさに【狂戦士】の仕業だ。
「よくやった。人が来ないうちに宝を穴に落とすんだ」
鮫島は荒い息で我武者羅に宝を落とす。俺もそれに続く。
程なくして部屋の外が騒がしくなり始めた。
「そろそろ限界だ! 穴を降りて通路へ戻れ!」
「番藤は?」
「一仕事終えたら、すぐに行く!」
鮫島が抱えられるだけ宝を抱え、穴に飛び込む。
俺はズボンのポケットから小瓶に入った塗料を取り出し、壁にある文字を殴り書きした。そして鮫島の後に続く。
「どうしたの? 見つかっちゃった?」
呑気な田川を無視して、部屋と通路を繋ぐ穴に手をかざした。
「【穴】解除!!」
宝物庫の床にあいた穴は綺麗さっぱり塞がった。今頃空っぽになった部屋を見ながら、兵士達は呆然としているだろう。
「よし。リュックに詰められるだけ詰めたら一度帰ろう。全ての宝を持ち帰るまで、何往復でもするからな」
「……それは大変だね」
「ダリ〜」
二人は文句を言いつつも、顔を綻ばせているのだった。
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