第9話 会議
拠点に新たに作った会議室。そこに田川と鮫島を呼び出した。議題はもちろん、「如何にして王家を出し抜くか」についてだ。
「この部屋、怪しいと思わないか?」
「そうだね。まるで隠し部屋みたい」
田川の固有スキル【マップ】で見ているのは、ガドル王国の王城だ。各フロアの間取りをじっくり見ていると、地下にポツンと部屋があることに気がついたのだ。
「番藤! それは牢屋じゃないのか? ロリエルフが投獄されているに違いない!」
鮫島が目を輝かせる。こいつ、ずっと麻痺していた方がよかったな。
「一部屋だけ牢屋を作ったりしないだろ」
「物置きとか?」
「王城の敷地は広いのに、わざわざ手間をかけて地下に物置きを作るか?」
「うーん。じゃあ、宝物庫とか」
可能性はある。
「今の国王はやりたい放題らしいからな! とんでもない量のお宝があるかもしれないぞ!」
また鮫島が目を輝かせる。非常に単純で助かる。
「本当に宝物庫だったとして、お宝を盗んじゃって問題ないの?」
一方の田川はまだ現代日本の価値観が残っているらしい。
「勝手に俺達を地球から召喚したんだ。その償いがモノで済むなら安いものだろう。それに、エミーリアは言ったからな。"どうぞ。お好きに"って。だから、問題ない」
「本当、大丈夫かな?」
ちっ。面倒くさい。
「田川。お前は金貨20枚で俺に救われたんだぞ? その金、どうやって返すつもりだ?」
「……お宝、盗みに行きましょう」
田川は折れた。これで一枚岩だ。
「よし。目的は決まった。この拠点と王城を穴で繋げる。田川のマップが頼りだ。頼むぞ?」
「うん! 任せて」
教室では見せたことのないような顔だ。
「早速作業に取り掛かるぞ。マップをこの拠点周辺に戻してくれ。侵攻ルートを検討しよう」
「番藤! 俺は?」
鮫島が期待に満ちた瞳でこちらを見ている。
「鮫島は外で適当に暴れててくれ」
「なんか扱い違くないか……!?」
「そんなことはない。いざとなったら鮫島の剣だけが頼りだ。レベルを上げて誰にも負けない【狂戦士】になってくれ」
「やるっきゃねぇ!」と鮫島は剣を担いで拠点から出ていった。やっと静かになる。
「しかし意外だね」
マップを眺めながら田川がぽつりとこぼす。
「うん? 何がだ?」
「番藤くんってリーダーシップあるなぁって」
「ただ悪巧みが楽しいだけだ」
「ところで、番藤くんの称号ってなんだったの?」
そういえばまだ言ってなかったな。マップから顔を上げ、じっとこっちを見ている。
「【侵略者】だ」
田川は目を丸くした。
#
「さて。今日は作戦決行だ。二人とも体調は問題ないか?」
「うん。大丈夫」
「バッチリだぜ!」
会議室で最後の作戦会議。二人とも顔つきが引き締まっている。
「穴は既に王城の真下まで伸びている。我々は約40キロの道のりを踏破しなければならない。田川のスピードを考えると、十時間は掛かるだろう」
「うぅ」と田川。この拠点に来てから多少は鍛えているようだが、如何せんベースの体力がなさすぎる。【測量士】の称号のせいか、レベルが上がってもほとんど身体能力は変わらない。
「しかし! 今回はリザーズに金を払い、あのオオトカゲをレンタルした! これで片道二時間程度になる」
ホッとした表情の二人。
「王城を襲うのは深夜だ。一度仮眠しておいてくれ。夕飯を食べて少ししたら出発する。では、一旦解散!」
「はい!」
「おう!」
二人は返事をして、会議室から出ていった。それぞれの自室(穴)で仮眠を取るのだろう。
「さて、俺も寝るか」
会議室を後にした。
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