第8話 命の値段
外が喧しい。休日だというのにとても迷惑だ。ちなみに、毎日休日である。
ゴソゴソと寝袋から這い出し、照明の魔道具を点ける。眩しい。自分でやっておきながら、その眩さに苛立ちを感じる。
十分ほどボーッとした後に立ち上がり、ようやく寝室を出た。
玄関──ただの穴から光が差し込んでいた。たぶん、12時ぐらいだろう。陽の光の角度がそう言っている。
外に出て最初にやるのは、防犯の為に地面に開けていた穴の解除だ。
俺の家は堀(穴)に囲まれている。直径2メートル、深さ30メートルの穴を幾つも繋げて造ったものだ。
「【穴】解除」
自分の歩くところだけ穴を解除する。堀に跳ね橋を掛けるようなものだ。
「さて、なんの騒ぎだ」
廃坑の方が賑やかだ。リザーズの盗賊達がずらずらと並び、弓矢を放っている。標的は長剣を振り回す男……。あっ、倒れた。矢を食らったらしい。
盗賊達は弓を置き、短剣を抜いて駆け出す。その先には黒髪の男。体力がないのか、顎を上げて苦しそうに走っている。
おいおい。こっちに来るなよ。
「ば、番藤くん……!? 助けてぇ!!」
小太りの男──田川が俺の名前を呼んだ。面倒だな。家に戻ろう。
「ちょっと! なんで無視して行っちゃうの! 助けてよ!」
「お前を助けたら何か良いことがあるのか?」
「えっ……」
足を止めた田川の背後にチェケ達がやって来た。
「バンドウさん! そいつ、勇者ですよね?」
「うーん。どうだろうな。召喚者ってことは間違いないが」
俺とチェケに挟まれ、田川は慌てる。
「まさか、番藤くんは盗賊団の一員なの?」
「いや、ただのご近所さんだ」
一瞬、田川の表情が緩むが──
「バンドウさん! こいつらリザーズに喧嘩を売ったんだ! ちゃんと落とし前はつけさせてもらいますよ!」
──チェケが凄み、絶望へと変わる。
「……だそうだ。田川、冥福を祈る」
「お願いします! 何でもします! 死にたくない!」
なんでもします。甘美な響きだ。素晴らしい。
「チェケ。こいつの命、金貨10枚で売ってくれ」
「バンドウさん。うちらにも面子ってものが──」
「金貨20枚」
「オッケーっす! 売ります!!」
よし。配下一号をゲットだ。
#
「なぜ鮫島と一緒なんだ?」
「番藤くんが王城から去ったあと、クラス全員が三人一組のチームに分けられたんだ。人数が足りなかったから僕達だけ二人組になったけど……」
田川は未だ麻痺状態で地面に転がる鮫島をチラリ見て、ため息をついた。ちなみに鮫島の命の値段は金貨15枚だった。
「意外な組み合わせだな。どう見ても相性は悪そうだが」
「称号が勇者とそうでない人で選別したんだと思う。その中でも僕と鮫島くんは特に不要って判断だったんだろうね」
少し寂しそうだ。
「称号が勇者じゃないのは他にもいるのか?」
「たぶんいる。クラス全員の称号を正確に把握しているのはエミーリアさん達だけだけど、雰囲気的に……」
田川の言いたいことは分かる。召喚されたあの日。能天気に騒いでいた奴等は勇者で、大人しくして俎上に上がるのを避けていた奴らは勇者以外の称号だったのだろう。
「勇者達は優遇されているのか?」
「そうだと思う。チームに対して一人、指導者がついて修行しているんだけど、その人の格に大分差があったみたいだから……」
なるほど。有望株には優秀な指導者を割り当てたってことか。
「お前達の指導者は?」
「……いないよ」
「はっはっは……!!」
「笑わないでよ!」
あまりにも露骨な選別に笑いが出てしまった。
「それでエミーリアや他のクラスメイト達を見返してやろうとして、今話題の盗賊団を狙ったわけか」
「鮫島くんがどうしてもって……。止められなかった僕も悪いんだけどね」
地面に転がったままの鮫島はきょろきょろと目玉だけ動かす。気まずいのだろう。
「ちなみに二人の称号はなんなんだ?」
「鮫島くんは【狂戦士】」
「田川は?」
「……【測量士】」
ほお。
「固有スキルはあるのか?」
「鮫島くんは【狂化】ってスキルで、僕は【マップ】」
マップ……!!
「ちょっとそのスキルを使ってみてくれ」
「えっ、いいけど。どうしたの?」
田川は戸惑いながら「【マップ】」と呟き、その手に透明なタブレットが現れる。覗き込むと、まるでGoogleMAPのような詳細な地図があった。赤く光っているのが現在地のようだ。
「これ、拡大出来るのか?」
「出来るよ」
田川は得意げにピンチアウトし、地図が拡大された。うちの間取りが正確に表示されている。
「エミーリア達にこのスキル見せたのか?」
「見せてないよ。僕の称号が【測量士】だった時点で興味を失ったんじゃないかな? 彼らが求めていたのは戦う力だったみたいだから」
なんと愚かな。田川の【マップ】と俺の【穴】のスキルがあれば、とんでもないことが出来るぞ。
「よし。田川。ついでに鮫島。エミーリア達に吠え面をかかせてやろうぜ」
二人は「よく分からない」という顔をしたままだった。
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