第7話 二人の落ちこぼれ

「オラッ! 田川、急げよ!!」


 金髪の男、鮫島はノロノロと後をついてくる眼鏡の小太り、田川を怒鳴りつける。


「僕だって精一杯頑張ってるのに……。鮫島くん、体力だけは人並み以上だなぁ……」


 消えいるような声だった。鮫島に聞こえては不味いと思ったのだろう。しかし、不満が自然と溢れでていた。


「ウン? 何か言っただろ?」

「言ってないよ」

「嘘つくなよ! 盗賊団の前に、お前を斬ってもいいんだぞ?」


 真新しいブレストアーマーを身につけた鮫島が長剣を担いでニヤニヤと威嚇する。


 田川は鮫島の称号とスキルを思い出し、冷や汗を流した。鮫島は【狂戦士】の称号をもつ。固有スキル【狂化】は身体能力が爆発的に上昇する代わりに、敵味方見境なくなるらしい。


「僕が悪かった……。ごめんなさい」

「分かればいいんだよ」


 鮫島は唾を吐き捨て、歩きだす。田川は少しだけ足を早めた。


「それで、方向は合っているんだろうなぁ?」

「大丈夫。盗賊団のアジトらしい廃坑まで一直線だよ」


 森の中は迷いやすい。土地勘のない召喚者が歩くのは無謀かと思えたが、二人は目的地に向かって着実に近づいている。


「あっ、ちょっとずれた。少し右に行こう」

「本当だろうなぁ? お前のスキル当てになるのか?」

「多分、大丈夫……」


 田川の称号は【測量士】。固有スキルは【マップ】だ。


 彼が持つ透明なボードには詳細な地図と自分達の位置が記されている。目的地の廃坑には丁寧にピンまで立っていた。


「ところで、廃坑に着いたらどうやって盗賊団を退治するの?」

「そんなの決まってるだろ! 俺が【狂化】を使って皆殺しにするだけだよ! 盗賊団の頭領の首を持って帰れば、エミーリアちゃんも俺を認める筈だ! 勇者なんかより、狂戦士の方が頼りになるってな」


 予想通りの答えに田川は諦めのため息を吐いた。巻き添えを喰わないように退避しようと、固く心に決める。



「そろそろ見えてくるころだよ」

「よーし。皆殺しだ」



#



「おっ、冒険者だ」


 リザーズの斥候チェケは固有スキル【遠見】によって二人の男を見つけた。一人は黒目金髪、もう一人は黒目黒髪。


「いや……勇者だ……!! ボスに知らせないと!」


 慌てて廃坑の中に引っ込み、頭領のいる部屋に駆け込む。


「ボス! 勇者らしき二人がこちらに向かってます!」

「ほぉ。バンドウの予想通りだな」


 盗賊団頭領コルウィルは感心したように言う。


「どうします?」

「まともに相手することはない。毒矢を使う。全員に伝えろ」

「はいっす!」


 チェケは嬉しそうに返事すると廃坑内を走り回り、「弓を持て! 敵が来たぞ! リザーズの恐ろしさを教えてやれ!」と触れ回る。


 団員達はよく訓練されているようで武器庫から弓矢を取ると、すぐさま廃坑の表に出て隊列を組んだ。


 黒目の二人組も盗賊達の動きに気がついたらしい。


 プレートメイルの金髪が剣を構えて走り出す。その身体からは赤い光が放たれており、何かしらののスキルが使われているのが分かった。


「放て!」


 ヒュンと矢羽が風を切り、何本もの矢が長剣の男に殺到するが──


「ォォオオオ……!!」


 凄まじい剣閃がそれを全て打ち払う。男は止まらない。地面を吹き飛ばしながら前へ前へ。


「次!」


 二の矢が再び男に向かって放たれる。長剣の腹が全ての矢を撃ち落としたかのように見えた。


「ふんっ!」


 ギュンと矢羽の風切音。それまでとは威力の違う矢が剣を振って無防備になった男の脇腹に刺さった。


 チェケが振り返ると、頭領コルウィルが強弓を構えていた。


「さっすがボス!」

「直に毒が回る筈だ」


 見る見る内に長剣の男が纏っていた赤い光は薄くなる。完全に消えると同時に、男は地面に倒れた。


「麻痺毒が塗ってあるが、油断するなよ。あと、もう一人の勇者も逃すな」

「はい!」


 くるり踵を返して逃げていく黒目黒髪の男を、盗賊達が追いかける。


 小太りな男の足取りは重い。捕まるのは時間の問題に思われた。

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