第27話 帝国の勇者

「エミーリア様! 大変です!」


 宰相がノックもせずにエミーリアの執務室を開けた。部屋の中にいた護衛の近衛騎士が一瞬、腰の短剣に手を当てる。


「どうしたのです? ガドル王国の宰相ともあろう者がそんなに慌てて」

「……失礼しました。しかし、それほどの事態が起きたのです」


 話を聞く前からエミーリアは顔を顰めた。ここのところ、物事が上手く行った試しがない。リザーズ討伐隊の失敗以来、何もいいことがない。


「聞きたくないわ」

「エミーリア様。お気持ちは分かりますが、重要な話なのです」


 軽く目を瞑ったあと、エミーリアは諦めたように言う。


「分かったわ。言って頂戴。ノックを忘れるほどの事態とは、何?」

「ザルツ帝国が……勇者を擁立しました」

「面白い冗談ね。勇者召喚魔法が帝国に漏れたとでも言うの?」


「人払いを……」と宰相。エミーリアが目配せをすると、近衛騎士は部屋の外に出た。


「帝国は三人組の勇者パーティーを帝国民に紹介しました。全員、仮面をつけていたそうです」

「仮面……? 偽物勇者じゃないの?」

「仮面から覗く瞳は黒く、髪も黒かったそうです」


 エミーリアは少し考える。


「それだけで勇者とは言えないわ。リザーズにいる召喚者が仮面をつけただけじゃないの?」

「聞いてください。帝国の擁立した勇者パーティーのリーダーの名前が、ザルターだったのです」


「ザルター……?」と思考を巡らせる。


「それが何だというの?」

「お忘れになったのですか? 行方不明になっている勇者パーティーのリーダーの名前を」


 エミーリアは大きく目を見開き、叫ぶ。


「サルタ! まさか、帝国に!!」

「恐らく……」

「サルタはリザーズ討伐へ向かったという話ではなかったの? 途中まで追っていた影からもそのように報告が上がっていた筈よ」


「これはあくまで推測なのですが……」と宰相。


「サルタ達は帝国に亡命する為、リザーズ討伐を理由に森へ入ったのではないでしょうか? 元々、リザーズは帝国との関係を噂されていました。それに、サルタ達はあまり他の勇者と上手くいっていなかったようです」

「サルタ達が王国を裏切ったということ……!?」

「残念ながら……そうなります」


 エミーリアが奥歯を鳴らす。


「今いる勇者や召喚者達への監視を厳しくしなさい! これ以上の造反者を出すわけにはいかないわ!」

「勿論です」

「アルマ神国の聖女はどうなっているの? 神託はまだよね? 聖女が帝国の勇者とパーティーを組むようなことになったら、王国の権威が地に落ちることになるわ……!」


 宰相が手を挙げ、エミーリアを落ち着ける。


「そこはご安心ください。既に使者を送っております。それに、サルタ達は勇者の称号を持つとはいえ、あまり優秀ではありませんでした。アルマ神国が選ぶとは思えません」

「そうだといいけど……」


 王国貴族は国王に盾付き、勇者は王国を裏切る。何故、人はこんなにも愚かで救えないのだろう。黙って従っていれば幸せになれるというのに。


「人は愚かね」

「そうです。だからこそ、我々が制御しなければならないのです」


 エミーリアが己を顧みることはなかった。


===============================

ここで一区切りです! 少しでも面白い! と感じた方はフォローと星をよろしくお願いします!! モチベーションになります!!!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る