第26話 プレゼント
「こんな朝早くから何だ?」
部屋から出て来たコルウィルは眠たそうに目を擦り、酒臭い息を吐いた。こいつ、また酔っ払って寝たな。リリナナが来てから明らかに酒の量が増えている。弛んでいるな。
「プレゼントがある」
「プレゼント? 急になんだ?」
「コルウィルはいつも頑張っているからな」
眉間に皺を寄せて警戒する。
「一体、何を貰えるんだ?」
「とれたての……」
「とれたての?」
「勇者だ」
俺の合図でチェケ達が現れ、地面に三人の勇者を転がした。
「何だ? コイツら」
「コルウィルが昼間っから飲んだくれている間に、拠点に侵入しようとしたから、俺が捕まえた。帝国は勇者が欲しいんだろ? 討伐隊の勇者を王国に返した時、恨めしそうな顔をしていたのを俺は覚えているぞ」
猿田達はウーウーと唸る。
「いや、確かに欲しいが……。こいつら、バンドウの知り合いだろ? いいのか?」
「俺は構わん。そろそろ本格的に帝国との関係を強化しようと考えていたところだ。正直なところ、先日のベリンガムの襲撃で肝を冷やした。後ろ盾があった方がいい」
バタバタと暴れる猿田。
「チェケ。口の布を外してやれ。油断はするなよ?」
「了解っす!」
チェケは猿田の身体を膝で押さえつつ、口がきけるようにした。
「番藤! 話を聞いてくれ! お前はとんでもない勘違いをしている!」
「勘違い?」
「俺達は本当に命を狙われて逃げて来たんだ!」
目を真っ赤に充血させながら、猿田は訴える。
「何故、命を狙われる?」
「それは……俺達が魔王軍と戦うのを拒否したからだ! 俺達は……あの日の……凱旋パレードでの番藤の言葉で目を覚ましたんだ!」
取り巻きの二人も云々と頷く。
「で?」
「いや……だからその。勇者の流出を恐れた王国に命を狙われたんだ! 頼む! 俺達を助けてくれ」
「何故、俺が助けなければならない?」
一瞬怯む。
「番藤は田川や鮫島を助けただろ? 俺達だって助けてくれてもいいじゃないか?」
「違うな。田川や鮫島は俺に金で買われたんだ」
「えっ?」
間抜け面を晒す。
「奴隷みたいなもんだ。お前達も奴隷になりたいってことか?」
「いや、そうじゃなくて……」
「そもそも、本当に命を狙われている奴等が外で眠りこけるわけないだろ?」
「た、体力の限界で……」
急に眉を下げる。
「正直なところ、お前達が本当に命を狙われていたとしても俺の対応は変わらない。帝国に渡す。その方が安全だろ?」
「えっ、あっ、いや……。俺は盗賊王コルウィルに憧れていて……」
「盗賊王コルウィル?」
なんだそれは?
「コルウィル。お前、いつから王を名乗っているんだ?」
「いや、知らん」
コルウィルは「違う違う」と手を振る。
「猿田。詳しく教えてくれ」
「え、S級冒険者のベリンガムを撃退したコルウィルは最近王都で盗賊王と呼ばれているんだ」
コルウィルがベリンガムを撃退……!?
「ふははは。これは面白い」
「バンドウ! 笑ってんじゃねぇ! 訂正しろ!」
「いや、このまま行こう!」
「勘弁してくれ!」
「で、俺達は……」
猿田が口を挟む。
「帝国行きは変わりなしだ。実は俺には相手の嘘を見抜くスキルがあるんだ。お前達からは、嘘の臭いがプンプンしている。だから、この拠点に置くわけにはいかない」
「そんな……」
猿田は観念したように目を瞑った。
チェケ達は何も言わず猿田の口に布を突っ込み、再び担ぎ上げる。このまま牢屋行きだろう。
コルウィルはチェケ達を視線で見送った後、頭を抱える。
「何だよ盗賊王って……」
「良かったな。勇者も手に入り、盗賊王の称号まで」
「絶対、報告書だ」
「酒ばかり飲んでるからそんなことになるんだ」
「うるせえ!」とコルウィルは自分の部屋に戻ろうとして、ふと立ち止まる。
「そういえばバンドウ。嘘を見抜くスキルってなんだ?」
「そんなスキルあるわけないだろ。それに人間の嘘なんてスキルがなくても分かる」
コルウィルは目を見開き、しばらく固まっていた。
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