第25話 なんか来た


「バンドウ。なんか来た」


 拠点の食堂で昼食をとっている時のことだ。リリナナが急に手を止め、虚空を見つめながらポツリと言った。


「どんな奴等だ?」

「ボロボロの格好をした男三人。……黒目黒髪だから、勇者かも」


 青木達か? 性懲りもなくまたやられに来たか……。


「処す?」

「リリナナ……。殺して自分のコレクションにしようとしてないか?」

「なことない」


 わざとらしく目を逸らす。


「とりあえず俺が出る。勝手に殺すなよ」

「前向きに検討する」


 これは急いだ方が良さそうだ。俺はオーク肉の煮込みを掻き込み、席を立つ。


「一緒行く」


 いつの間にか料理を平らげていたリリナナもついて来た。


「三人はどうしてる?」

「堀の向こうに座り込んで叫んでる。助けてくれーだって」


 うん……? 助けてくれ? どういうことだ?


「状況が掴めないな」

「めないな」


 少し歩をはやめ、拠点の入り口へと向かう。新しく作られた木製の扉を開くと、眩しい午後の光が目に飛び込んできた。


 そして遠くに見えるのは──


「猿田達か……」


 三人は俺を認めるなり立ち上がり、大声を上げる。


「番藤! 助けてくれ!!」


 いつも巫山戯けてばかりいる猿田が真顔だ。怪しい。


「何があった?」

「命を狙われているんだ! 頼む! 拠点に入れてくれ!!」

「分かった! ちょっと待っていろ!!」


 そう言って踵を返し、一度拠点の中に入る。そしてリリナナを連れ、食堂に戻った。


「バンドウ。奴等どうするの?」

「放置だ。屍を通じて監視だけ頼む」

「分かった」


 ゆっくり紅茶を飲んだ。



#



 もう日が沈む頃だ。拠点入り口の扉を開けると、茜色に染まった空が見える。そして、堀の向こうに三人の男。なかなかしぶといな。


 猿田が俺を見つけて立ち上がる。


「番藤! 巫山戯るなよ……!?」

「すまない!! 完全に忘れていた……!! で、何の用だ……!?」

「命を……狙われているんだ!! 早く中に入れてくれ……!!」

「ずっと外にいたのに?」

「たまたま無事だっただけだ……!! いつ、奴等が来るか分からない!! 頼む……!! 死にたくない……!!」


 猿田が腰を直角に折って頭を下げた。後の二人もそれに続く。


「分かった! ちょっと待っていてくれ! 相談してくる!!」


 食堂に駆けて行き、夕食の乗ったトレイを受け取る。空いている席を探すと、リリナナが手を振っていた。


「もう夕食か。時間が経つのは早いな」

「お腹すいた。食べよ」


 魔物か動物か分からないが、鶏の照り焼きのような見た目の丼だ。


「これは何だ?」

「肉」


 身も蓋もないな。


「早く食べて」

「そうだな」


 リスのように頬を膨らませて食べるリリナナに倣う。なるほど、美味いな。何の肉かは分からないが。


「ところで、奴等の様子はどうだ?」

「奴等って誰?」

「いや……何でもない」


 夕飯を終え、自室に戻って寝た。



#



 まだ空は薄暗く、聞こえるのは早起きか夜更かしな鳥の声と虫の音だ。


 堀の向こうには力尽きて地面に寝転ぶ三人の男の姿。


【穴】を解除して堀に橋を掛ける。


 足音にも目を覚ます様子はない。命を狙われているのに、緊張感のない奴等だ。


 リュックからロープを取り出し、猿田の手を縛る。足も。そして、口に布を巻く。まだ起きない。


 同じように残りの二人も簀巻きにした頃、チェケ達がやって来た。


「バンドウさん。早起きっすね」

「俺の故郷には言い伝えがあってな。早起きをすると、得をするんだよ」

「へぇ。コイツらを捕まえて、なんか得があるんすか?」


 猿田を蹴飛ばす。するとやっと目を覚まし、ウーウーと唸った。


「チェケ。コイツらを運んでくれ」

「了解っす!」


 リザーズメンバーに運ばれ、三人はついに拠点に入ることとなった。

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