第47話 聖女?
この悪夢は一体、いつから始まったのだろう? 王国に聖女について偽情報を流した時からだろうか? それとも、聖女の石化を解除しようと、魔大陸に渡ったタイミングか。
俺達は何処かで間違えてしまった筈だ。でなければ、こんなことになるわけがない。
ここ数日、何度も過去を振り返っている。
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「ウオオオオォォォ……!! 高い! ロック鳥の時より、遥かに高い!!」
鮫島が窓から顔を出して叫ぶ。客室内には強い風が入り、皆の髪を乱している。
「鮫島君、いい加減窓をしめてよ! ミリミーちゃんも迷惑そうにしてるよ? ねぇ?」
田川がシトリーの妹、ミリミーに向かってツヤツヤの笑顔を向けた。ミリミーはやや引き攣った顔で「そんなことないですよ……」と、控えめに返した。
俺達は魔大陸での仕事を終え、リザーズの拠点へと戻っている最中だ。行きはロック鳥での空の旅だったが、帰りは少々グレードアップしてドラゴン便だ。
「おい、バンドウ。これ、絶対に騒ぎになるだろ。ドラゴンが馬車を運んでるなんて普通、有り得ないぞ……。もうちょっと目立たない方法はないのか……?」
「ニドホッグが好意で送ってくれているんだぞ? それを無下にしろというのか?」
「というのか?」
相変わらず膝の上に座っているリリナナが俺に続く。
「あれは好意とは言わないだろ……」
元々、ニドホッグの出番は魔人達に釘を刺すところで終わりの予定だった。しかし奴は自分からリザーズに協力すると言い出したのだ。
『イツ襲ッテ来ルカト、怯エナガラ過ゴスグライナラ、先二軍門二下ッタ方ガイイ』とのことらしい。
ニドホッグにとって、アウグストの【盲従】で操られることは相当の恐怖のようだ。トラウマになるほどの……。
「デミゴッド様の移動手段としては妥当だろう? 今頃、魔人達の間では盗神コルウィルの名が広まっている筈だ」
「腹が痛くなってきた……」
コルウィルは胃の辺りを抑え、蹲る。
「ねぇ、番藤君。もう、拠点にいる聖女さんの石化は解けているんだよね? どんな人なんだろうね? 楽しみ」
ミリミーに色目を使ったと思えば、今度は聖女だ。田川は意外と女好きなのかもしれない。
「ミリミーは当然、聖女に会ったことがあるんだろ? どんな女だった?」
俺が話し掛けると、ミリミーはビクリと背筋を伸ばす。
「会ったというか、一瞬すれ違って……。その【同期】のスキルを発動しただけなので……」
細く華奢な身体を更に縮め、伏し目がちになりながらミリミーは言った。
「なるほど。どんな奴かは拠点に戻ってからのお楽しみだな」
「チャタロウ。駄目」
リリナナが俺の太腿を抓る。これは……嫉妬なのか。聖女との接し方には注意が必要だな……。
「ウオオオオオオォォォ……!! 王都が見えて来たぞ!! ニドホッグは速えぇなぁ!!」
鮫島がまた窓を開けて叫んだ。
もう王都か。流石はドラゴン。ロック鳥とは比べ物にならない速度だ。
「よし。もうすぐ着陸だ。皆、準備をしろ」
それから十五分もしない内に、ニドホッグはリザーズ拠点へと到着した。
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「ボス! バンドウさん! やっと帰って来たんですか!!」
女モノのワンピースを着たチェケが、赤い顔をして遠征隊を出迎えた。ちゃんと男聖女役をやっていたようだ。そもそも、男聖女とはなんだ? という疑問もあるが、俺が言い出したことなので、深く考えるのはやめよう。
「熱烈な歓迎だな。何かあったのか?」
「何かあったのか? じゃないですよ……! もう、本当に大変なんですからね!!」
チェケがワンピースを掴みながら訴える。男聖女役が随分と板についてきたな。
「お前、酒臭いぞ……!?」
胃を押さえながら、コルウィルが指摘した。酒飲みはアルコールの臭いに敏感らしい。
「仕方ないっしょ! 飲まされるんだから!!」
うん? どういうことだ……?
「一体、誰に飲まされるんだ?」
「それは──」
「おいチェケ! 酒が足りないよ! 早く持ってきて!」
拠点の奥から酒焼けした女の声がする。リザーズに女なんていない筈だが……。
暗がりの中から、その姿が徐々に明らかになる。シルエットに見覚えがある……。
現れたのは、石化の解けた聖女だった。
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