第48話 聖女システム勇者システム

「あれ……俺の酒なんだが……」


 コルウィルが物欲しそうに見つめるのは、聖女ドロテアの右手に握られた酒瓶だ。多分高級品なのだろう。意匠が凝っている。


「あぁ……あんな飲み方しやがって……」


 ドロテアの豪快なラッパ飲みを見て、コルウィルが顔を顰めるが、当の聖女はお構いなしだ。


 リザーズ拠点の大広間には主要メンバーが集まり、終わることのない聖女の管巻に付き合わされていた。まさに悪夢だ。


「私が! なんでこんなに酔っ払っているか分かる……!?」

「あっ……はい。聖女の役目が嫌なんですよね……」


 ドロテアの近くに座るチェケが疲れた様子で答えた。


「しょうなの! 聖女が嫌なの……! こんな役割はクソなの……!! だから私は酒を飲むの……!! 今日も……!!」


 ずっとこの繰り返しだ。


「チャタロウ。あの女、もっかい石にしよう」


 空の旅が終わっても俺の膝から離れないリリナナが本気のトーンで提案する。


「シトリー?」

「石化の秘薬は貴重なんだ。持ち合わせはない」


 シトリーとミリミーがリズムを合わせて首を振った。


「なぁ。ドロテア。そろそろ何故、聖女が嫌なのか教えてくれないか? もしかしたら、俺達が力になれるかもしれない」


 この問い掛けをするのはもう何度目だろう。聞いたところで答えは決まって「言えない!」の一点張りなのだが……。


「聞きたい……?」


 ……反応が変わった。だが、絶妙に神経を逆撫でしてきやがる。


 周囲を見渡すと皆、白けた顔をしていた。目の合ったコルウィルが頷く。心を無にして返す。


「あぁ。聞きたい。教えてくれないか?」

「しょうがないなぁ〜」


 やはりムカつくな。このまま席を立ってやろうかと思うが、グッと我慢だ。それに、膝の上にはリリナナが物理的な重しにもなった。


「お前は聖女についてどれくらい知っている……!?」


 ドロテアが酒瓶でチェケを指名する。


「えっ、自分すか……!? アルマ神の神託受けたら、聖女になって……。その後は勇者を選んでパーティー組んで魔王を倒す?」

「そう……! 聖女は勇者を選ばなければならないの……!!」


 酒カス聖女の声のトーンが上がる。何処かに居酒屋の店主はいないか? 注意して欲しい。


「勇者を選ぶのがそんなに嫌なんすか? 何人も見たことありますけど、結構いい男もいましたよ?」


 勇者との戦闘経験が豊富なチェケが擁護するように言う。


「そもそも私! 男嫌いだし……!! 男と性交するなんて絶対無理!!」

「別に……エッチなことはしなくてもいいんじゃないですか?」


 そうだぞ。飛躍しすぎだろ。


 声に出すと絡まれそうなので、心の中でチェケに賛同する。しかし──。


「性交して勇者の力を吸収しないと……! 魔王を倒せないでしょ……!!」


 目の据わってきたドロテアが叫んだ。


 コルウィルを見るも「なんのことだか分からない」という顔をしている。


「ドロテア。今回召喚された勇者には女もいるが、それでは駄目なのか?」

「女勇者なんて役に立たないわよ……! 巻き添えを食って召喚されただけ」


 分からなくなってきた。


「教えてくれ。何故、勇者は異世界から召喚しなければならないんだ?」


 急に雰囲気の変わった聖女がこちらを睨む。


「生贄だからよ。聖女への」

「異世界の勇者が生贄?」

「そうよ。聖女に力を捧げる為の生贄。だからわざわざ異世界から呼ぶの。この世界の人間は全て、アルマ神の子供だから。アルマ神は生贄にしたくないの」


 大広間がしんとなり、自分の鼓動が聞こえた。


「聖女に力を吸収された勇者は死ぬのか?」

「ええ。そして聖女は一時的に神にも届くような力を得るの。魔王を圧倒するほどの……」


 田川が急に立ち上がった。


「そんなの酷いよ! 勇者様なんて言って煽てておいて! 固有スキルの【成長(大)】ってそんな為のものだったの? まるで家畜じゃないか!」


 ドロテアは答えない。


「コルウィル。帝国は、皇帝は今の話を知っているのか?」

「いや。知らない筈だ。聖女と勇者はずっと王国と神国が独占してきたのだから」


 嘘を言っている様子はない。


「ドロテア。お前はとんでもない量の酒を飲んでいる。酔っ払って、適当な嘘を言っているのではないのか?」

「これが嘘なら、どんなに気が楽か……! 真実だから……私は酔っ払っているのよ! 聖女になったその日に、勝手に今の知識が頭の中に入ってきたの……!! それからずっと、正気でいられないの……!!」


 そう絶叫したあと、ドロテアは糸が切れたように地面に倒れた。もう、限界だったらしい。チェケが慌てて介抱に向かう。


「番藤君……どうしよう……」


 田川が弱々しい顔でこちらを向く。


「幸いな事に、当の聖女は勇者を生贄にするつもりはないらしい。ならば、やりようはある」

「あるの?」


 リリナナが膝の上で首を傾げた。


「大丈夫だ。俺達には盗神様がついている。どんな不利な状況でも、勝利を掠め取ってくれる筈だ」


 俺の言葉を聞くとコルウィルは「あぁやっぱり」と直ぐに開き直り、ドロテアが握っていた酒瓶をもぎ取ってラッパ飲みを始めた。


「コルウィル。皇帝へ繋いでくれ。これからのことを相談しておきたい」

「はぁ……。分かったよ」


 高級そうな酒瓶は瞬く間に空になった。



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ウオオオオオオー!! ちょっと仕事が忙しくなってきましたー!! 作品全体の調整とかは後でやります!! 今はとにかく勢いで乗り切ります!!!!

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