第24話 死者の王VS神の僕

「あ、あなた達は……!?」


 奇跡の泉の底から現れた、黄金色にその身を輝かせる偉丈夫と黒目の男二人。


 偉丈夫はプカプカと宙に浮かび、男二人は泉の縁から上がってくる。三人とも、ビショビショだ。


「我は神コルウィル」

「お、俺は神の僕、サメジマだ!」

「ぼ、僕も神の僕、タガワです!」


「神」と聞き、リリパット達は歓声を上げた。


 族長がコルウィルの正面に進み出て、地面に膝を着く。


 アンデッドの群れは警戒した様子で動きを止め、事の成り行きを見つめていた。


「神コルウィルよ! どうか、我々リリパット族をお救いください!!」


 族長の言葉に合わせてリリパット族は一斉に膝を地面に付き、両手を組んで頭を下げる。


「ならば、我に信仰を捧げるがいい。さすれば、死者の群れを退けることなど容易い」


 コルウィルは両手を軽くひろげ、柔らかな表情をして鷹揚に語る。


「捧げます! 我らの信仰を……!!」


 族長の言葉を合図にして、リリパット族はきつく目を瞑り、必死に祈りを捧げ始めた。途端、コルウィルの身体を覆っていた光がより一層強くなる。


「其方らの信仰心、確かに我に届いた……!! 死者の群れを消し去ってみせよう。サメジマ!!」

「おうよ……!!」


 金髪黒目の神の僕、サメジマがリリパット族を押しのけてアンデッドの王、アウグストと対峙する。


 リリパット達は祈るのをやめ、一斉にサメジマとアウグストに向き直った。


「タトエ、神ノ僕デアロウトモ、タダ死ヲ与エルノミ」


 アウグストは腰の剣帯から剣を抜き、ゆっくりと構える。


 呼応するようにサメジマも背負っていたメイスを右手に握り、天高く掲げる。


 森に静寂が広がり、誰かが唾を飲み込む音だけが聞こえる。


 先に動いたのはアウグストだった。鋭い踏み込みから剣が真っ直ぐ伸び、サメジマの胸を突き破ろうとする。しかし──。


「甘い……!!」


 目にも留まらぬ振り下ろしが、アウグストの剣を叩き折る。メイスはそのまま地面を叩き、跳ね上げるように今度はアウグストの胴を叩いた。


「グハァ……!!」 


 アウグストの身体は大きく宙を舞う。


「滅……!!」


 サメジマはメイスを投げ捨て、両手をパチンと打ち鳴らした。途端、宙を舞っていた筈のアウグストの身体が綺麗さっぱり消えてしまった。


 リリパット達は目を丸くする。


「滅! 滅! 滅!」


 サメジマがパチンパチンと手を鳴らす度に、十、二十、百とアンデッドの群れが消えていく。


「滅ェェェツ……!!」


 一際大きな柏手を打つと、音が森を震わせた。そして、死者の群れはその存在が嘘であったかのように、跡形もない。


「これが、神コルウィルの力……」


 族長はあっけにとられた様子で呟く。


「約束通り、死者の群れは退けたぞ」


 コルウィルは相変わらず泉の上にプカプカと浮かんだままだ。


「深い感謝を」と言いながら、族長はまたコルウィルに向かって頭を下げた。一族もそれに続く。しばらく、そのままで時間が流れた。


 沈黙を破ったのはサメジマだった。


「なぁ! 感謝の宴とかやらないの……!?」と地面からメイスを拾い上げながら、言い出す。


「ちょっとサメジマ君! 勝手なこと言わないでよ!」


 もう一人の神の僕、タガワが窘めるように声を上げた。しかし、サメジマは止まらない。


「えぇ~いいじゃねーかよぉ~。せっかく遠くから来たんだし、亜人大陸の名物食べたいじゃん?」

「サメジマ君! アドリブは後で怒られ──」

「もちろん! 感謝の宴を行います!! ぜひ、我々の集落へいらしてください!!」


 言い争いをする神の僕二人に向かって、族長は張り切った声で宣言した。


「やったぜ! よし! さっそく集落へ向かおう!」

「もう! 知らないからね!」

「上手くいったんだから、問題ないって! 楽しもうぜ!」


 サメジマとタガワは相変わらず揉めている。族長は二人から離れ、すこし呆れ顔をした神コルウィルに話し掛けた。


「あの~、神コルウィルも我々の集落にお越し頂けますでしょうか?」


 コルウィルは少し困った顔をする。


「ちょっと確認する時間がほしい」と言って、コルウィルは天高く上り、上空で何やらコソコソと話をしている。


 リリパット達がその様子を眩しそうに見つめていると、コルウィルはまた泉の水面にまで降りてきて、宣った。


「今宵は其方達の集落で世話になるとしよう。では、案内を頼む」

「ははー」と頭を下げる族長。一族もそれに続いた。


 こうして死者の群れは退けられ、神コルウィルはリリパット族の信仰を得ることになった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る