第54話 大! 決! 戦! の舞台裏

 カルダノの丘の地下深くにある封印の間。田川のスキル【マップ】で見つけたこの場所は今や、作戦本部へと様変わりしていた。そして、俺の持つ全てのコネクションが集結している。


『こちら魔王軍。間も無くカルダノの丘上空だ。どうぞ』


 小さな箱から上級魔人リンパクの声が響く。これは王国が開発した音送りの魔道具を帝国の技術で更に改良したもの。一つのデバイスでグループ通話が出来る優れものだ。


「こちら作戦本部。氷龍ニドホッグは既に到着している。そのまま降下してくれ。どうぞ」

『こちら魔王軍。了解した』


 会話が終了すると、封印の間の空気が張り詰めた。いよいよ始まるのだ。盗神コルウィルと魔王テテトの決戦が。


「チャタロウ。魔王軍は全て着陸した」


 外にアンデッドの虫を飛ばし、常時監視しているリリナナから報告が上がった。


「こちら作戦本部。ニドホッグは雲の下に降下しろ」

『コチラ、ニドホッグ。了解シタ』


 氷龍の登場に観客達は驚いている筈だ。コルウィルは本当にドラゴンを従えているのかと。


『こちら、コルウィル。カルダノの丘が真下に見える。本当に……飛び降りるのか……!?』

「こちら作戦本部。心配するな。ミリミーからの【同期】は問題なく動作している。コルウィルに何があっても状態はなままだ」


 シトリーの妹、ミリミーを見ると元気にサムアップした。この作戦の肝は彼女の【同期】のスキルだ。


『こちら、コルウィル。分かった。飛び降りる……』

「こちら作戦本部。リハーサル通りやれば大丈夫だ」

『ウオオオォォオオオ……!!』


 コルウィルの雄叫びが封印の間に響く。皆の視線がリリナナに集中した。


「コルウィル、地面で潰れた」

「「えっ……!!」」


 田川と鮫島が叫ぶ。


「嘘。無事に着地した」


 リリナナが騙された二人に笑みを向けた。大した余裕だ。


『こちら、テテト。これよりコルウィルとの戦いを開始する』


 忙しくなるな。


「こちら本部。コルウィル、怖がらなくていいぞ。魔王の一撃を喰らっても、お前は平気だ」

『こちら、コルウィル。了解した……』


 直後、重たい打撃音が魔道具から響いた。そしてゴロゴロと地面を転がる。予定通り、コルウィルはテテトに飛ばされたのだ。


 歴代最弱とはいえ、魔王は魔王。ただの人間であるコルウィルが戦える相手ではない。しかし──


「コルウィル。元気に立ち上がった」


 ミリミーが【同期】している限り、問題ない。


『こちら、コルウィル……。反撃に移る』

「こちら作戦本部。了解した。直ちに準備する。リリナナ、【纏雷】だ」

「アウグスト、【纏雷】」

「ベリンガム、【纏雷】」


 俺からリリナナ。リリナナからアウグスト。アウグストから虚な目をしたベリンガムへ。上意下達の極み。


 電を纏っていたベリンガムがミリミーに近づき、「【纏雷】」と呟いた。紫色の光がミリミーの身体に移る。それは同期先のコルウィルへも……。


「成功」


 リリナナの報告。コルウィルへの一時的なバフは完了した。


『タンッ! タンッ! タンッ!』と魔道具がステップを伝える。


『そこッ!』

『甘いっ!』


 衝撃音。テテトが吹き飛んだようだ。


「テテトが剣を出した。コルウィルの【纏雷】はそろそろ終わる」


 リリナナは淀みなく実況を続ける。


「こちら作戦本部。ニドホッグ、【ただ光るだけの魔剣】を準備しろ」

『コチラ、ニドホッグ。準備ハ出来テイル』


 あとはコルウィルの合図を待つだけ。


『面白い手品だな。では、俺も』


 リハーサル通りの台詞。直ちにニドホッグが剣をコルウィルの元へと落としたことだろう。


「コルウィルが剣を握った。そろそろ、撃ちあいが始まる」

「ミリミー! テテトへの【同期】を開始! イザベラは【飛翔】の準備!」


 シトリーが枕営業によって引き入れた新戦力のイザベラが、ミリミーに近寄る。


「【飛翔】!」


 途端、魔人の少女の身体がプカプカと浮き始めた。コルウィルとテテトの身体も同じく……。



『こちら、コルウィル。そろそろ氷龍の背に着く。【飛翔】の解除を』


 聞こえていたイザベラが【飛翔】の魔法を終える。ミリミーの身体も降りてきた。


「こちら作戦本部。テテト、ご苦労様。アンデッドと交代だ。コルウィル、【ただ光るだけの魔剣】をアンデッドの身体に刺して、降下せよ。狙いは外すなよ?」

『こちら、コルウィル……。これより、封印の間へと降下する。バンドウ、【穴】を!』


 封印の間の天井に向かい、狙いを定める。


「【穴】!」


 ぽっかり空いた穴を見上げると、黄金色に光る物体が落ちてくる。それは、一直線に祭壇へと。


 凄まじい衝撃が封印の間を揺らした。


「コルウィル、ご苦労」

「俺は……やり切ったぜ……」


 盗神と呼ばれた男が起き上がり、笑顔を見せた。後は──


「皆、離れろ。魔神の半身を囚えていた結界を破る」


 俺は祭壇の前に立つ。アルマ神の与えた結界術により、それは幾重にも包まれている。しかし、【穴】は『あらゆるものに穴をあける』のだ。例外はない。深く息を吸い集中した。


「【穴】!!」


 バリンッ!! と結界に穴があく。


 強烈な波動が封印の間を揺らした。眩い光が祭壇の中から現れ、上昇を始める。


 よし。想定通り。魔神の半身は神の世界へと帰還するのだ。


「リリナナ! 祝福の歌を!!」

「ん」


 最後の仕上げだ。アンデッドの聖歌隊が魔神の解放を祝う。


 歌声が大きくなるにつれ、光の塊は輝きを増し、昇り続ける。やがて、見えなくなった。


「終わった……」



 後の歴史書にこの出来事は「コルウィルの昇天」と記されたそうだ。



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うおおおおぉぉぉ……!! 眠いぃ……!!

深夜のテンションそのままに投稿します!!


【第一部のクライマックスを書き終えて】


 本作を書こうと思ったきっかけは、「小説家になろう」での異世界転生/転移隔離の撤廃でした。「おっ、なら転移ものを書いてみっか!」と筆を走らせた次第です。一番最初に投稿したのは、カクヨム様ですが……。リワード欲しいし!!


 読んでお気付きの通り、私はあらかじめプロットを作らず、その日のテンションに任せて書き殴る派です。二話ぐらい先の展開まではぼんやりと脳内にあるのですが、全体構成については完全に「なるようになるやろ!」です。


 この「行き当たりばったりな感じ」と各キャラクターの性質がマッチして「何が起こるか分からない!」という楽しみを読者様に提供出来たのでは? と考えています。


 今までの私はカクヨム弱者でしたが、本作によってカクヨム一般成人ぐらいにはなれたと思います。声変わりもしたし、下の毛も生え揃いました。もう、二足歩行してます。お店でしかオムツはしません。


 これからは一人の大人として創作に励んで参りますので、何卒宜しくお願い申し上げます。

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