第55話 決戦の後……

「痛快であったぞ! バンドウ!!」


 皇帝の間にガリウスの声が反響した。手加減なしの大声に最初は面食らったものだが、流石にもう慣れた。


「帝国の協力なしでは成し得なかった。感謝している」


 これは本心だ。ガリウスの書簡が、ガドル王国とアルマ神国を動かしたのは間違いない。


「今回の一件でアルマ神の評判は地に落ちた。信仰心を集められなくなった神は、地上への影響力をなくす。今まで神の恩恵によって栄えていた王国と神国の没落は間違いない!」


 野心に瞳をギラつかせるガリウス。この男ならば、大陸統一を成し遂げるかもしれない。


「コルウィル改め、チルウェルも大義であった! 魔王との一騎討ちは茶番だと分かっていても、手に汗握る展開であったぞ!」

「はっ! 身に余るお言葉、恐悦至極にございます!」


 コルウィルは天に昇って神になった。ことになっている。


 皇帝の前に跪き、頭を下げる男の名前はチルウェル。コルウィルの弟。という設定だ。


「チルウェル、楽にせよ」


 ガリウスの言葉を受けて立ち上がる。そして、気を抜いてしまったのだろう。


「おい、光っているぞ」

「しまった!」


 信仰心が集まれば、神へと至る。胡散臭い話だが、この世界ではそーいう仕組みがあるらしい。盗神として大陸中に名を轟かせた男は、気を抜くと身体が光るようになってしまったのだ。つまり、後光が差している。


「もう、大丈夫か?」


 チルウェルは心配そうな表情で振り返る。


「光っている時はコルウィル、光ってない時はチルウェルと呼ぶことにしよう。今はチルウェルだ」

「チルウェルだ」


 リリナナがふざけた提案に乗っかる。


「そういえば、魔王はどうなった?」


 思い出したようにガリウスは尋ねた。


「魔神の半身が天に還って少しすると、右手の王印は消えた。今はただの子供だ」

「もう、魔王は生まれない。ということか?」

「神々の争いが起きなければな」


 眉間に皺を寄せ、ガリウスは唸る。そして閃いたようだ。


「もしまた魔王が生まれるようなことになれば、盗神様に頼るとしよう!」

「陛下! お戯れを!」

「余は本気だぞ? 配下に神がいるのだ。使わない手はない」


 確かにそうだ。そして、盗神に対する信仰心が高まれば力は増す。


「ガリウス。カルダノの丘に盗神の像を建てるのはどうだ?」

「どうだ?」


 俺とリリナナの提案に、ザルツ帝国の皇帝は笑う。


「それは名案だ! すぐに取り掛かろう!!」

「陛下! それだけはお許しください!!」

「ならぬ! 我が覇道に盗神の力は必要だ!!」


 頭を抱えるチルウェル。本当に天に昇る日が来るかもしれない。


「ところでバンドウ。お前達、召喚者はこれからどうするつもりだ? アルマ神の異世界召喚術は呼び寄せるだけの魔法だ。残念だが、元の世界に戻る手段はない」


 俺の背後で田川と鮫島が息を呑んだ。薄々感じていたことをズバリ言われてしまったからだろう。


「帰れないなら、この世界を楽しむだけだ。まだ知らない土地はたくさんある。帝国は亜人大陸と交流があるのだろ?」

「一部だが、ある。行くつもりか?」

「あぁ」


 答えると、何故かリリナナが俺の服を引っ張りモジモジし始めた。


「チャタロウ。それは、チンコン旅行?」


 チンコン旅行? チンコン? 鎮魂か……?


「特に魂を鎮める予定はないが……」

「間違えた。シンコン旅行。タガワ達に教えてもらった」


 新婚旅行……!?


「リリナナ。いつ俺達は結婚したんだ?」

「今する」


 ちょっと待ってくれ……! この展開は不味い気がするぞ……!!


 周囲を見渡すと、全員がニヤニヤと楽しそうにしている。


「神として、二人の結婚を祝福する!」


 盗神がそう宣言し、後光に照らされる。


「余が二人の結婚の証人となる!」


 ガリウスまで乗っかってきた。


「番藤くん! リリナナさん! おめでとう!!」

「祝福するぜ!!」


 田川も鮫島も続く。


 また、服が引っ張られた。リリナナが期待した瞳で俺を見上げている……。それを裏切る気分にはなれなかった。


 大きく息を吸い、呼吸を整える。


「リリナナ。結婚しとくか?」

「しとく!」



 かくして俺は妻帯者となり、新婚旅行で亜人大陸へ行くことになった。


========================

新作も始めました! こちらもよろしくお願いします!!

『エルフのいない世界で自分を最後のエルフだと信じ込んでいるスラムの孤児(人間)。命を狙われていると勘違いして無関係な悪の組織を理不尽に潰す』

https://kakuyomu.jp/works/16818093078233105674

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る