第51話 会談

 俺が名乗ると、魔人の子供は大きく目を見開きそのまま固まってしまった。


「コルウィル殿は?」

「腹が痛くなったそうだ。俺が代わりに魔王と会談する」


 訝しげに尋ねてきた老人に返すと、少し不機嫌そうにする。しかし、子供が服を引っ張り何か耳打ちすると、恭しい態度へと変わった。


「お前が魔王か?」

「はい。僕が魔王です……」


 子供は自信なさげに答える。


「名前は?」

「テテトです」

「魔王にしては随分と可愛い名前だな」


 テテトは恥ずかしいのか耳を赤くして下を向いてしまった。見た目の通り、子供のようだ。


「だが、いい名前だ」

「本当ですか……?」

「俺は生まれて一度も嘘をついたことがない」


 耳は赤いままだが、テテトは顔を上げた。


「最初に立場をはっきりさせておく。俺はガドル王国によってこの世界に呼ばれた召喚者だ。称号は勇者ではない。今はリザーズと一緒に行動している。アルマ神国からの聖女強奪にも関わっているし、氷龍ニドホッグの件もそうだ」

「はい!」


 テテトは背筋を伸ばす。


「ガドル王国とアルマ神国とは敵対していると思ってもらっていい。ザルツ帝国との関係は良好だ」

「はい!」


 不思議な子供だ。俺の話をニコニコしながら聞いている。さっきまでの緊張は霧散し、これからの展開を楽しみにしているようだ。


「で、相談だ。ウチで匿っている聖女はワケありでな。魔王と戦う気はないらしい」

「何故でしょう……!?」


 年老いた魔人が横入りして来た。我慢出来なかったようだ。


「生理的に無理。だそうだ」

「生理的に……」

「無理……」


 魔王と老人が顔を見合わせる。


「別にお前達が悪いわけではない。ただ、無理なものは無理らしい」

「そうですか……」


 テテトは告白してない相手からフラれたような顔をする。


「だが、この世界の人間は魔王を倒さないと安心出来ないようだ。魔王が生きている限り、その命を狙い続けるだろう」

「僕は、どうすれば──」

「死んでもらう」


 老人が幼い魔王の前に出て構える。少し脅かし過ぎたようだ。


「まぁ待て。今すぐ死んでくれなんてことは言わない。ちゃんと舞台も整える。もちろん、報酬も弾む。何か欲しいものがあるんだろ? 人大陸に……」

「何故……それを……?」


 テテトの顔が蒼白になった。コロコロとよく表情を変える魔王だ。


「俺達に盗めないものはない。何せ、盗神様がついている。遠慮なく欲しいものを言ってくれ」

「本当に大丈夫ですか?」

「大丈夫だ」


 魔王と老人が何やら相談を始める。退屈な時間だ。


 深呼吸してから、テテトがやっと口を開いた。


「バンドウさんの狙いはなんですか? 別にこの世界の人間達が僕の命を狙ったとしても、困らないですよね?」


 聡い子供だ。


「あぁ。確かに困らない。俺の生活は変わらない。だがな、スッキリしないんだよ。俺は……アルマ神にムカついている。だから、神の名を堕とす」

「神の名を堕とす……?」

「そうだ」


 テテトは老人の方を見上げて確認をとる。老人は「仕方がない」と頷いた。


「面白そうですね! バンドウさんに任せます! でも、報酬の件は忘れないでくださいね」

「安心しろ。悪いようにはしない」

「それで、どんな風に神の名を堕とすんですか?」


 瞳を輝かせるテテト。


「よし。説明しよう」


 俺と魔王との会談は日が暮れる頃まで続いた。

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