第26話 反省会と獣人の娘
「バンドウ! 俺に人を生き返らせることなんて、出来るわけないだろ!!」
単一種族全ての信仰を集めることで、より神威を増したコルウィルが怒鳴る。その声は地下拠点に響き渡り、リリナナが眉間に皺を寄せた。
「コルウィル、うるさい」
「すみません……」
神になっても、リリナナには頭が上がらないようだ。
「生き返りの件は特別だと、チキから族長に話しておいてもらおう。次は百年後に使えるとでも言えば、時間を稼げるだろ?」
「はい……。なんとか上手く話してみます」
チキは皆を見上げながら、自信なさ気に言った。
「そんなことより! コルウィルが最後に使った魔剣! 凄かったな!」
神の僕一号こと鮫島が褒めると、オーリは照れ臭そうに頭を掻く。
「あ、ありがとうございます! あれは自分でも傑作だと思っています」
「なぁ、オーリ。俺にも魔剣作ってくれねえ?」
「いいですけど、どんな魔剣ですか?」
「犬! 炎の犬が飛び出す魔剣を頼む!」
鮫島を除く、全員が真顔になる。
「犬……ですか?」
「そうだ! 実家で飼っていた柴犬が飛び出す魔剣を頼む」
「シバケン……?」
「ちょっと待ってろ」
そう言って、鮫島は自分のリュックから紙とペンを取り出し絵を描き始めた。
「尻尾がクルンと巻いているのがポイントだぞ!」
犬のイラストを見せられて、オーリは困惑している。一方、鮫島は飛び切りの笑顔だ。
「魔剣には三つまで魔法を仕込むことが出来ますが、犬だけでいいんですか?」
「そうだったな! なら、オカンとオヤジを頼む!」
鮫島は犬の隣に母親と父親のイラストを追加し、得意げにオーリに見せる。
「わ、わかりました。今度造っておきます」
鮫島一家が飛び出す魔剣……。斬られる奴が哀れ過ぎる。
「ところで番藤君。僕達はいつまでリリパット族の集落にいればいいの」
拠点内の椅子に腰掛け、機を窺っていた田川がもっともな質問を投げかけてきた。
「リリパット族が神殿をコルウィル用に改装しているらしいから、それが終わるまでは居てもらう。既に神殿の中にはコルウィル像も建っているから、それほど時間はかからないだろう」
「その件なんだが……」
コルウィルが渋面をつくっている。
「どうした?」
「リリパット族から信仰を獲得してから、飛べるようになったんだ……」
飛べる?
「前から宙には浮いているだろ?」
「いや、違うんだ。その、なんというか……。俺の像があるところに一瞬で飛んでいけるようになったんだ」
コルウィルは光を放ちながら、恥ずかしそうだ。
「つまり、コルウィルはコルウィル像の建てられた場所に瞬間移動できるようになったと?」
「あぁ」とコルウィルは答え、ため息を続けた。
信仰を集めることによって様々な権能が増える仕組みなのか……。なかなか興味深い。
「コルウィル像を大量生産して世界中にばら撒けば、何処にでも移動できるってことか」
「勘弁してくれ!!」
「チキ、リリパット族は手先が器用だったよな?」
「はい!」
嫌がるコルウィルをよそに、チキはキラキラと瞳を輝かせた。
#
「神コルウィルは聖地に戻られるが、祈りを捧げればいつでもこの地においでいただけるそうだ!」
神殿の前で族長が声を張り上げると、リリパット族は歓声で応えた。
コルウィルは神殿を背にしてプカプカと宙に浮かびながら、神妙な顔を作っている。俺達はその下で整列し、神の僕として威厳たっぷりに立っていた。
「我は人大陸の聖地に戻るが、其方達の信仰には加護を持って応える。たゆまず精進し続けるのだぞ」
特に教義などないコルウィル教だが、精進はするらしい。
深く頭を下げるリリパット達を見渡した後、コルウィルの身体は強く光った。そして──。
「消えた……」
族長の呟き。コルウィルはリザーズ拠点にあるコルウィル像に転移したのだろう。
リリパット達はしばらく頭を下げていたが、族長の合図で解散となった。それぞれの家に戻り、神殿の前には族長とその側近数名だけが残る。
「バンドウ様。本当によろしいのですか?」
族長は申し訳なさそうな顔をして視線を泳がせる。その先には獣人の娘。歳は人間でいうと五歳ぐらいだろうか。リリナナの手を握り、怯えた表情で立っている。
「お前達がこの娘を返しにいったところで揉めるだけだ。俺達が上手く説明する」
獣人の娘は、パラム神への生贄として攫われ、リリパット族の集落で監禁されていた。もし、神の鞍替えが行われていなければ今頃この世には存在していなかっただろう。
「リリパット族として償いの意志があることをお伝えください」
「あぁ」
たとえ神を鎮めるためだったとはいえ、リリパット族がやってきたことは許されない。獣人達は今もこの娘を探しているだろう。
次に俺達が向かうのは亜人大陸の中央部。森深いところにある、獣人達の住むエリアだ。
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