第18話 敗れた勇者達

 王都の貴族街にある高級宿。異世界から召喚された者達はそこで暮らしていた。衣食住は保証され、魔王軍と戦う為の訓練を続けるだけで、誉めそやされる。


 勇者の称号を持つ者達にとって、その生活は高校に通って勉強しているよりも遥かに楽しいものだった。王都の周りにいる魔物を倒せば、どんどんレベルが上がり身体能力は向上する。指導者にスキルや魔法を習えば、すぐに習得する。


 今まで感じたことのない達成感は次第に全能感へと変わっていた。自分達に出来ないことはない。自分達はまさに選ばれた存在なのだと……。


 そんな中で勇者達に盗賊団の討伐隊への参加が打診された。


 一番最初に手を挙げたのは青木達のパーティーだった。魔物狩りに熱心な彼らは既にレベル十五を超えており、元々の身体能力の高さもあって、仲間同士の模擬戦──魔法なし──では他の勇者達を寄せ付けなかった。彼らは力を試したかったのだ。


 次に手を挙げたのは草薙達のパーティーだった。地球では学級委員をしていた草薙は、召喚者達のまとめ役をしていた。青木達だけ危険な場所へと送るわけにはいかない。そんな責任感が草薙に手を挙げさせた。


 それに続いたのは三浦達のパーティー。女子学級委員で正義感の強い三浦は王都周辺の秩序を乱す盗賊団、リザーズが許せなかった。せっかく力を得たのだから、少しでも世の中を良くするために使いたかった。


 勇者達九名がリザーズ討伐隊に参加することになり、参加しなかった召喚者達の多くは壮行会で声援を送った。ただ、全ての者が心から応援していたわけではなかった……。



#



「おい青木! お前、また番藤にやられたのか……!? だっせぇなぁ~」


 リザーズ討伐失敗後、意気消沈して宿に戻ってきた九人を猿田が軽薄な笑みで迎えた。


「……」


 青木達は無言で歯を食いしばり、悔しそうにする。


「あれだけ自信満々だったのに、生け捕りにされるって、俺なら恥ずかしくてここに帰って来れないね~。マジ無理~」

「猿田、やめろ!」


 草薙が前に出て威圧する。がしかし、通じない。猿田は相変わらずヘラヘラと笑い、「うひょ~怖えぇ」とお道化る。


「草薙もさぁ~壮行会で【ホーリーライト!】とかやって恰好つけてたじゃん? あれ、超きつかったよな~」


 猿田はパーティーメンバーと笑う。


「猿田君は何もせず、ヘラヘラしているだけじゃない! 人を笑う資格はあるの……!?」


 三浦が飛び出し猿田に突っかかる。


「俺なら上手くやってみせるぜ~。番藤だって所詮は高校生だからな。凄かったのはリザーズのメンバーだよ。奴だけなら大したことはない。違うか?」


 草薙達の脳裏に組織だった動きで討伐隊を追い詰めた、リザーズが蘇る。


「……確かに、リザーズは凄かった」

「だろ? それに番藤は意外と甘ちゃんだからな。田川と鮫島の面倒を看てる時点で実はお人よしなのがバレバレなんだよなぁ~。俺なら、その辺を上手く突いて、王家の財宝を取り戻してみせるぜ!」

「……口だけなら、なんとでも言える……」


 青木がぼそりと言った。それを聞いて、猿田はムキになる。


「やってやるよ! 最近俺だってスキルを覚えたんだ。お前らみたいに正面から戦うんじゃなくて、俺達は頭を使って番藤とリザーズを出し抜いてやるよ!」


 そう啖呵を切って、猿田達は宿から出て行った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る