第15話 討伐2

「狼煙が上がったっす」


 大木からスルスルと降りてきたチェケが言う。今頃、偽の廃坑──元々の廃坑の入り口を塞ぎ、その横に俺が作った──には水が流れ込み、討伐隊の連中は大慌てだろう。間も無く、入り口から飛び出してくる筈だ。


「コルウィル! 急げ!」

「おう!」


 大木の根元の穴からリザーズのメンバーが次々と出て来る。勿論、穴は俺があけた。ついさっきまで、この穴は偽の廃坑に繋がっていた。討伐隊はもぬけの殻の坑道を進んでいたことになる。


「間も無く討伐隊が偽廃坑から出てくる! 買い込んだ麻痺矢をお見舞いしろ!」


 コルウィルが指示すると、盗賊達は訓練された兵士の様に整然と並び駆けていき、偽廃坑の入り口を見張っていた兵士に矢を射かける。


 矢羽が風を切る音がいくつもなり、見張りの兵は無言で倒れた。


 少し間を開けて、偽廃坑の入り口から兵士達が飛び出してくる。しかし──


 ヒュン! と一度に十を超える矢が殺到する。鏃が特殊で殺傷能力は殆どないが、即効性のある麻痺矢の効果は絶大だ。


 溺死の恐怖に武器を投げ出して走った先に待っているのは、矢の雨。


 身体を痙攣させながら兵士達は地面に倒れる。既に三十人以上が麻痺の餌食になっていた。


「物理障壁だ! 早く!!」


 偽廃坑から出てきた騎士風の男が走りながら叫ぶ。それに呼応して討伐隊の前に透明な壁が出来た。奴等は壁を守られながら、偽廃坑から離れる。


「コルウィル、いけるか?」

「いや、あれは厳しい」


 一際大きな強弓をもつコルウィルも首を振る。ならば──。


「鮫島、出番だ! 暴れてこい!!」

「オッシャー!!」


 得物を長剣からメイスに持ち替えた鮫島が瞳をぎらつかせ、走り始める。討伐隊に近づくにつれてその身体は徐々に赤く光り始めた。固有スキル【狂化】だ。


「コルウィル、隊長を狙ってくれ」

「あぁ」


 コルウィルは強弓を構え、透明な壁が破壊されるのを待った。


 ──ガキン! と金属同士がぶつかったような音。鮫島が全身を真っ赤に輝かせながら、メイスを払う。


 透明な壁は砕け散り、その瞬間、ギュン! という矢羽の音が響いた。コルウィルだ。


 当たった? 外した?


「手応えは?」

「あった。追うぞ!」


 コルウィルが声を張ると、盗賊達が矢を射掛けながら討伐隊を追い立てる。どうやら隊長は倒れたらしい。先程までの組織だった動きが急にぎこちなくなった。暴れる鮫島に恐れをなし、蜘蛛の子を散らすように逃げていく。


「誘導しろ!!」


 俺の声に盗賊達は頷く。討伐隊が逃げた先にあるのは勿論、落とし穴だ。



#



 ある者は麻痺矢にやられて森の地面を這い、またある者は落とし穴に落ちて恨めしそうに空を見上げていた。


「武器を捨てて降伏するか、このまま穴に埋められるかだ。選べ」


 そう言うと、もうすっかり戦意をなくしていた討伐隊は武器を捨てる。


「【穴】解除」


 落とし穴は塞がり、両手を上げた兵士が現れる。そこをリザーズのメンバーがすかさずロープで縛り、口を布で塞いだ。


 スキルだろうと魔法だろうと、基本的にこの世界では口に出さないと発動しないらしい。身体を縛り、口を塞げばとりあえず捕縛は完了だ。


「バンドウさん! こっちの落とし穴に勇者がいますよ!」


 チェケが俺を呼ぶ。穴に落ちた間抜けは誰だ? と近寄る。


「番茶! テメェ! なんで盗賊団に!!」


 青木だった。自分の立場が分からず悪態をつく。


「俺の勝手だ。それより選べ。このまま死ぬか、それとも武器を捨て降伏するか」

「誰がお前なんかに……!!」


 穴の底で強がる。


「チェケ。こいつ死にたいらしい。生き埋めにしよう」

「オッケーっす!」


 チェケがシャベルで土をかけ始める。青木は喚き、口に入った土を吐き出す。


「分かった! 降伏する! 降伏する!」

「チェケ。続けろ」

「了解っす!」


 それから三分ほどチェケは土を掛け、青木が泣き始めたところで穴から出してやった。


 しばらく討伐隊の捕縛作業が続き、全てが片付いたのは日が暮れた頃だった。

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