第16話 凱旋

「エミーリア様! エミーリア様!」


 第一王女エミーリアの執務室は人の出入りが激しい。まだ早朝にも関わらず、既に十を超える者がその扉を叩いていた。


「入りなさい」


 入って来たのは近衛騎士団の一人だった。確か、討伐隊に参加していた筈だ。


「失礼します! リザーズ討伐隊についてご報告したく!」


 近衛騎士はピシリと身を正し、キビキビと話す。


「良い知らせ?」

「はっ! 討伐隊はリザーズ全員を生け捕りにしました! その輸送の為、本隊の帰還は時間が掛かっております!」


 エミーリアの頬は緩む。


「いつ戻って来れそうなの?」

「明日の昼頃には王都に到着するかと!」

「分かったわ。ありがとう」


 近衛騎士はサッと踵を返し、執務室から去っていく。


「凱旋パレードですな!」


 執務室のソファに腰を下ろしていた宰相が勢いよく立ち上がった。


「そうね国民に周知してちょうだい。大通りの広場で盛大にやりましょう」

「盗賊どもはどう致しますか?」

「パレードの後に斬首するわ。お父様も喜ぶ筈」

「そうですな……。では、準備に取り掛かります」


 宰相は晴れ晴れとした様子で執務室を出て行った。



#



「もうすぐリザーズ討伐隊が、王都に帰還します! 彼等は盗賊達を全て生け捕りにしたそうです!!」


 大通りの真ん中にある広場。その舞台上には第一王女エミーリアと近衛騎士が立っていた。


「王国軍、宮廷魔導師団、近衛騎士団の精鋭達。そして何より、勇者様達による活躍によるものです!」


 聴衆から割れんばかりの歓声が上がる。


「これは伝説の始まりに過ぎません! 勇者様達は凄まじい速度で成長しています! 今後、魔王軍との戦いが本格化してくるでしょう! しかし、勇者様達が負けることはありません! このエミーリアが保証します! ガドル王国は勇者様達と一緒に発展するのです!!」


 第一王女の言葉に熱狂する聴衆。その様子を舞台の下から見ていた宰相は、エミーリアの才覚に感動していた。もし、男に生まれていたならば、王位を継いだのは間違いなくエミーリアだっただろうと……。


「さぁ! 勇者様達が帰還されました! 歓声で迎えましょう!!」


 拍手と声援。騎馬に乗った男が現れると、聴衆が割れ、道が出来た。


 フリューテッドアーマーに身を包んだ騎士が悠然と討伐隊を先導する。ヘルムを被りその顔は見えないが、勇者で間違いないだろ。と、エミーリアや宰相、聴衆は考えた。


 壇上の近衛騎士だけが首を傾げる。


 あの鎧は勇者に与えられたものだ。しかし、勇者達は騎乗出来なかった筈。リザーズが潜んでいた森へも、確か馬車で向かった……。


 近衛騎士は思い直した。勇者の成長は早い。常識の通じない存在だと。盗賊達を討伐している間に馬に乗れるようになっても不思議ではない。


 自分を納得させ、近衛騎士は聴衆と同じ歓声を上げた。


 それに応えるように、討伐隊の先頭をいく男がヘルムを上げた。黒目黒髪。その特徴は間違いなく勇者だった。


「勇者様ぁぁああ……!!」


 一人が叫ぶとそれは連続した。声の方へ黒目黒髪の男が手を振ると、聴衆は熱狂する。


 その様子をにエミーリアは肝を冷やした。宰相もだ。


「……バンドウ」


 聴衆には届かない、小さな声。


「……どうなっているの」


 舞台の上では誰も動けなかった。国民は討伐隊の勝利を確信している。しかし、討伐隊を率いているのはあの男。異世界から召喚したその日に王都から姿を消した男……。


 不味い。なんとかしなくては。しかし、どうする……!?


 エミーリアにも宰相にも考えはない。ただ、近づいてくる討伐隊だと信じた集団を眺めていた。


 黒目黒髪の男が止まる。聴衆が注目した。


「我々は勝利した!!」


 よく通る声だった。


「敵対する全てを退け、ここに連れて来た!! 皆、よく見るといい!! 敗者の顔を……!!」


 歓声に疑問の声が混ざる。おかしい。騎馬や馬車の後ろを歩く、ボロギレを身に纏い、ロープに繋がれた存在が、黒目黒髪だったのだから……。


 誰かが声を上げた。


「繋がれているのは勇者様では……?」

「近衛騎士団のヴィニシウス様がロープに……?」

「一体どうなっている……!?」


「──鎮まれ!!」


 広場に静寂が広がる。聴衆は馬上の男──番藤に釘付けとなった。


「お前達が期待したのは! 討伐隊の勝利だろう! しかし、それは叶わなかった! 王国は無様に敗北したのだ! 我々、リザーズに!!」


 馬車の中から皮鎧の男達が飛び出した。そして番藤の側に駆け寄る。


「最後に一つ。勇者は政治の道具じゃない。異世界では普通に暮らしていた、ただの人間だ。そのことを決して忘れるな!」


 番藤は騎馬から降りて地面を手をつき、「【穴】」と呟いた。


 リザーズの面々は慣れた様子で広場にぽっかりあいた穴に飛び降りていく。最後、番藤が飛び降りてしばらくすると、その穴は何事もなかったように塞がった。


 エミーリア達はその様子を、ただ口を開けて眺めているのだった。


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