第41話 真相……?

 冒険者ギルドに現れたイザベラの表情は暗かった。瞳に力はなく、深い隈が疲労を感じさせた。


 ギルド職員が慌ててカウンターから出て来るが、イザベラは何も話さない。黙って階段を上がり、ギルド支部長のいる部屋の前まで来た。


「はぁ……」


 これから報告する内容を考えると、自然と溜め息が出た。


 控え目にノックをすると、すぐさま「入れ」と返事が来た。ギルド支部長が不在なら、どれだけ気が楽だっただろう。


 しかし、居るのだ。


 イザベラはゆっくりとドアノブを握り、回した。


 部屋の中では豪奢な机にギルド支部長が構えている。


「よい知らせしか聞きたくないのだがなぁ……」


 イザベラの顔を見て、悟ったように呟く。


「まだ、失敗と決まったわけでは……」

「詳細を聞こう」


 観念したように話し出す。


「途中までは順調でした。囮部隊は予定通りアンデッドを引き付け、私達潜入部隊はリザーズ拠点に辿り着きました」


 イザベラは息を溜める。


「潜入担当のリドリーはスキルを使い、リザーズ拠点に難なく忍び込みました。見張りも全く気が付いた様子はありませんでした」

「イザベラの眼は確かだったのだな」

「はい……。B級冒険者とは思えない身のこなしでした」


 遠い眼をする。


「リドリーが拠点に潜入してから、しばらく時間が経ちました。囮部隊の冒険者達はアンデッドに対応し切れなくなり、撤退を始めました。すると当然、死者達は私達の方へ寄って来ます。リドリーはまだ帰ってきませんでした」

「耐えられなかったのか……?」


 イザベラは拳を握る。


「全力で戦いました! しかし、アンデッドの数は膨大です……。全滅の恐れがありました」

「それで、撤退したと」

「はい。リドリーを待たずに撤退しました……」

「リドリーは……?」


 絞り出すように答える。


「今もリザーズの拠点にいるかと……。音送りの魔道具には、反応はないのですか……?」


 イザベラは机に置かれた箱状の魔道具を見つめた。それは突然、光る……。


『侵入者は?』

『追っていますが、とんでもない速さで……』

『絶対に逃すな……!!』


 魔道具から緊迫感のある男達の声が聞こえた。


「リドリー! 生きていたの……!?」


 イザベラが取り乱す。A級冒険者とは思えない様相だ。


 尚も男の声が流れ続ける。


『聖女は無事なんだろうな?』

『はい。あの野郎は部屋で眠りこけていました』


 あの野郎……? 聖女に対して酷い言い草だ。


『全く、何で男が聖女として選定されたのか……。アルマ神はどうなっている……?』

『コルウィル様。それ以上は……』


 忌々しげな声の主は盗帝コルウィルのようだ。部下に諌められている。


『あの男聖女を攫ったばっかりに、王国はやたらと探りを入れてくる。もういっそ、あいつを森の外に置いてくるか……?』

『流石にそれは短慮です』

『冗談だ……。許せ』


 ギルド支部長は顔を引き攣らせる。


「何故、アルマ神国が聖女選定を発表しなかったのかやっと分かったよ……」

「私にも分かりました」

「男を聖女として擁立したら、世界中で笑い者になる」


 二人とも渋い顔だ。


「王家には……?」

「知らせるしかあるまい……」

「聖女奪還作戦は……?」

「頓挫するだろうな……」



 偽情報を掴まされた二人。

 

 かくしてガドル王国の聖女奪還作戦は決行されることなく、立ち消えた。

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