【12/25 2巻発売】クラス転移したけど性格がクズ過ぎて追放されました ~アンチ勇者は称号『侵略者』とスキル『穴』で地下から異世界を翻弄する~
フーツラ@12/25発売『クラス転移した
第一部
第1話 クラス転移
現文の授業だったか、英語の授業だったか。いや、政治の話をしていたな。公共だったかもしれない。
まぁ、俺はほぼほぼ学校を寝て過ごすので、何の授業だったかはあまり関係ない。問題はここが明らかに教室じゃないことだ。
机にうつ伏せになっていたはずなのに、背中にひんやりとゴツゴツしたものを感じる。眠りを妨げられた怒りがわいてくる。
勢いよく上半身を起こし辺りを見渡すと、制服を着た男女がゴロゴロと石造りの床に転がっている。そして、それを見下ろすような人垣。
手の込んだコスプレなのか。鎧を着た白人の男がぐるりと円を描き、俺とクラスメイト達を取り囲んでいた。
逃がさない。というように。
「皆さん! 起きてください!!」
人垣から一人、白人の女が前に出た。豪奢な服装と、凛とした佇まいが高貴さを感じさせる。年齢は俺と同じ十七歳ぐらいだろうか。よく通る声でもう一度「起きてください!」とやると、眠りこけていたクラスメイト達がポツポツと起き始める。
「えっ、なになに?」
「なに、この人」
「あれ……ここは?」
「数学の授業は……?」
ざわめきが広がる。
「ここは何処ですか?」
男子学級委員の草薙が立ち上がり、女と対峙した。
「ここはガドル王国。私は第一王女のエミーリアです。貴方はこの集団の長ですか?」
「まぁ、そんなもんですよ。一体、どのような状況なのですか?」
草薙は冷静を装っているが、目がキョロキョロ動き忙しない。完全にテンパっているな。
「ここはあなた達の暮らしていたところとは異なる世界です」
「異世界?」
「ええ、そうです。私が魔法によって召喚しました。異世界の勇者を」
クラスメイト達は「異世界転移キター!」と叫び、はしゃぎ始める。「自分、ステータスオープンしてもいいですか!?」とチャラ男の猿田が立ち上がり叫ぶと、笑いが起こった。
一体、何がおかしいのやら。こいつら、緊張感なさ過ぎだろ。
「よくご存知ですね! ステータスオープンと唱えると透明なボードが現れます。そこに皆さんのステータスが表示されるので、確認して下さい」
エミーリアに従い、皆は「ステータスオープン」と口にして騒ぎ始める。
「おぉ! 称号が【勇者】になってる!」
「俺も俺も!! 固有のスキル【成長(大)】だって」
「これ、全員【勇者】なんじゃない?」
キャッキャと騒ぐ集団の中、表情の暗い奴等もちらほらといる。たぶん、称号とやらが【勇者】じゃなかったのだろう。
「おい、番茶。お前の称号はなんだった? お前みたいなクズ野郎は絶対勇者じゃないだろ!」
サッカー部キャプテンの青木がニタニタ笑いながら俺に近寄ってきた。少し前、他校のマネージャーに振られて泣いてる間抜けな画像を俺がSNSに上げたことを、まだ根に持っているらしい。
「青木の称号を当ててやる。【出会って2秒で振られた男】だろ?」
「テメェ!!」
突っ込んで来た青木を半身になって躱し、足を掛ける。硬い床に鈍い音が響いた。
「番藤くん、何してるの! こんな大変な時に仲間割れしないでよ!」
女子学級委員の三浦が正義感の強そうな顔を俺に向けた。
「まてまて。そもそも俺はお前達と仲間なんかじゃない。同じクラスに割り当てられただけの他人だ」
冷たい視線が集中する。クラスメイトからだけじゃない。エミーリアやその脇を固める騎士達からも。
協調性のない異分子はお断りってことらしい。
「おい、エミーリアとやら」
「なにかしら」
対面に立つと意外と小さいな。この女。
「どうやら俺は歓迎されていないらしい。元の世界、地球に今すぐ戻してくれ」
「……残念ながら、すぐには出来ません。召喚の魔法には膨大な魔力が必要なのです」
エミーリアは気不味そうにする。
「ほお。すぐに戻せないと分かっておきながら、召喚したと? 何の了解も得ずにそんなことをして、許されると思っているのか?」
「……」
エミーリアが瞳を潤ませ、周囲に助けを求める。
「番藤、やめないか! きっと何か理由があってエミーリアは俺達を召喚したんだ!」
草薙が俺とエミーリアに割って入った。エミーリアは草薙の背中に隠れる。
「草薙、お前随分とエミーリアの肩を持つな。白人美少女が好みなのか? 画像フォルダの中身全部、ロシア人コスプレイヤーだろ」
「なっ……! そんなわけないだろ!」
「すまん。ウクライナ人も混ざっていたか」
「そういう話じゃない!」
草薙は顔を真っ赤にして怒鳴る。エミーリアは草薙の服を握り、抜け目ない表情でこちらを見ていた。この女、全部計算でやっているのか? 強かだな。
「まぁいい。お前の性癖の話は置いておいて、エミーリアの事情を聞いておこう。何故、俺達を召喚した?」
「それは……」と前置きのように呟き、草薙の背中から出てきた。そしてクラスメイト達を一度見渡し、息を吸い込む。
「今、この世界の人々は存亡の危機に立たされています! 魔王軍は魔物を従え勢力を拡大。幾つもの国がその手に落ちました。我々には力が足りません。だから、異世界から勇者を召喚したのです。勇者様方、どうか! 力を貸してください!!」
一瞬、静かになったと思うと直ぐに「やってやろうぜ!」と猿田が叫び、煽動する。
「俺達は勇者だ!」
「魔王なんてぶっ飛ばしてやる!」
「これだけ勇者がいれば、余裕っしょ」
馬鹿どもがそれに乗っかる。
「皆さん、ありがとうございます! こんなに心強いことはありません。本日はお疲れでしょうから、宿へと案内します。詳しいことはまた明日、お話ししますね」
ホッとした表情のエミーリアが場を纏めようとした。
「俺は魔王退治なんてごめんだ」
「番藤くん! 空気読んでよ!」
三浦が詰め寄ってくるが、無視だ。
「貴方一人いなくても影響はありません。出て行ってもらって、結構。いえ、出て行ってください」
エミーリアは俺を睨みつけながら、そう言い放つ。
「好きにしていいってことだな?」
「どうぞ。お好きに」
俺は、好き勝手することにした。
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『エルフのいない世界で自分を最後のエルフだと信じ込んでいるスラムの孤児(人間)。命を狙われていると勘違いして無関係な悪の組織を理不尽に潰す』
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