第22話 激突

 拠点の入り口に現れたベリンガムは、その身に何度も雷を落とした。紫電がまた強くなる。


 それを見ていたリリナナがオオトカゲから立ち上がり、ぼそり「【現出】」と呟いた。足元の影が怪しく光り、蠢く。


 ズズズと軽い地鳴りの後、沼から這い出るように、プレートアーマーの男? が現れた。


「なんだ……!?」

「屍術。もう一体出す。【現出】」


 今度は白骨化した手が見えた。ズズズと浮上してきたのは、ローブを纏い、禍々しい杖を持った髑髏。


 バリバリバリバリッ! と音がしたと思うと、すぐ側にベリンガムがいた。リリナナを見るなり、舌打ちをする。


「何でここいるんだ! この依頼を受けたのは俺だ! リリナナは断っただろ!!」

「私の勝手」

「……邪魔をしないでくれるか? そこにいる男は俺の獲物だ」

「無理。バンドウは私の」


「ならば!」とベリンガムは拳を握る。格闘スタイルか。


 呼応するように、プレートアーマーが前に出て剣を構える。


「バンドウは下がってて」

「分かった……」


 鮫島をオオトカゲに乗せ、二人から距離を取る。


 ベリンガムと甲冑は睨み合ったまま動かない。しかし、リリナナにはもう一体いる。


 俺の思考を読んだように、髑髏の持つ杖が光った。掠れた声で何かを唱えると、中空に青白い光球が無数に浮かぶ。


「やって」


 リリナナの平坦な声が合図となった。数十の光がベリンガムを襲い、紫の線を残して躱す。しかし──


「破ッ!!」


 ──プレートアーマーがロングソードを横薙ぎにして狙う。


 胴体が真っ二つに……とはいかない。ベリンガムは肘と膝で剣身を挟むとグッと力を入れて、長剣を挟み折る。


「オラッッ!!」


 大気を足場にしてベリンガムは飛び出し、プレートアーマーに膝蹴りをかます。


 金属同士が鈍い音を立て、吹き飛んだのはリリナナが呼び出した屍の方だった。


「しぶとい。【現出】」


 少し怒気を孕んだ声での魔法の発動。リリナナの足元の影が大きく広がり、激しい地響き。


 地面が割れたかと思うと、巨大な魔物が現れた。ボロボロに破れた羽根とズルズルに溶けた体。赤い眼だけが輝く。パッと脳裏に浮かんだ名前は、ドラゴンゾンビだ。


 一方で髑髏の光球が更に増える。四方八方から襲われ、ベリンガムの動きが激しくなる。そこに──


 グルアァァァアアアー!!


 ──ドラゴンゾンビがブレスを吐いた。辺りに異臭が立ち込める。


 無慈悲な飽和攻撃。ベリンガムは吹き飛び、光球が幾つも着弾し、その身を覆っていた紫電が薄くなった。


「まだやる?」


 相変わらず平坦なリリナナの声。


「舐めるなよ! 【纏雷】」


 ドドドン! と空から雷が落ち、かつてないほどベリンガムの体が眩しい。そして光が右手に集中した。


「……!? 【現出】!!」


 リリナナの焦った声に緊張感が増す。足元から現れたのは両手に盾を持った巨人だった。リリナナを庇うように立つ。


「【雷槍】!!」


 ベリンガムから放たれた紫電の槍が巨人の盾に激しくぶつかり、爆発音が連続する。腐肉が燃え煙がもうもうと上がる。これ……大丈夫なのか……?


「……はぁはぁ」


 ベリンガムは力を出し尽くしたのか、もう紫電を纏っていない。しかし──


「【現出】【現出】【現出】」


 崩れ落ちた巨人の代わりにプレートアーマーがもう一体、ローブの髑髏がもう一体、そしてドラゴンゾンビももう一体現れた。


「まだやる?」

「ちっ……化け物め!」


 そう捨て台詞を吐いて、ベリンガムは去って行った。

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