第7話 王都襲来

 王都にある煉瓦造りの物見塔は喧騒に包まれていた。背が低く、横幅のあるドアーフの兵士が狭い通路でぶつかり合い、更に混乱を極める。


 原因はドラプニル王国に現れた龍だ。


 いくつもの街で目撃情報があり、いずれも「氷龍が王都に向かっている!」というものだった。


 衛兵達が我先にと物見塔の上を目指した結果、通路で渋滞を起こし、誰一人最上階に辿りついていなかった。


「邪魔だ!」


 人一番身体の大きな衛兵が、前を塞ぐ人垣をどかして階段を登った。


 ようやく物見塔の最上階に着くと、腰のポーチから遠見の魔道具を取り出し、空を睨む。


「おぉぉ……!!」


 衛兵は魔道具を顔から離し、肉眼で確認する。


 少し前まで豆粒ぐらいだった龍の影は、その姿がはっきり分かるぐらいにまで大きくなっていた。


 水晶のように輝く鱗は陽の光を反射し、正視出来ないぐらいに眩しい。


 このまま王都の上空に現れるのでは? と慌てると、氷龍の勢いが弱まった。


 ぐるりと旋回すると、王都から少し離れた林に降り立ち、少し時間を置いて、また飛び立った。


 龍は王都から離れ、やがて見えなくなる。


 ちょうど入れ替わるように、林から馬車が飛び出して来た。


 怪しい。どう考えても怪しい。


 衛兵は門兵に知らせる為に急いで物見塔をおり、短い脚を勢いよく回転させて走った。



#



 王都の正門の前には十名ほどの門兵が並び、一台の馬車を睨みつけていた。


 衛兵から「その馬車は氷龍と関係している可能性が高い」と連絡があったからだ。


 青白い肌をした馬が曳く馬車は門兵達の前でピタリと止まった。御者台には黒髪黒目の男と銀髪紅眼の女がいる。


 門兵の一人が恐る恐る馬車に近寄り、一度深呼吸してから声を上げた。


「先程、氷龍が王都の近くまでやって来たが、何か事情を知っているか!?」


 じっと二人を睨みつける門兵。額から汗が流れる。


「知らない」

「知らない」


 男と女は平淡な声で返す。門兵は二人を睨んだ。


「氷龍が林に降りた後、お前達の馬車が出てきたのが目撃されているんだぞ!!」


 男と女がこそこそと話始める。


『リリナナ。バレてるぞ……』

『チャタロウ。なんとかして……』


 門兵は腕組みをして待つ。


「なるほど。バレていたか。王からは目立たぬようにしろと、申し使っていたのだが……」

「王……!?」


「王」の単語に、門兵は怯んだ。


「如何にも! この馬車に乗っておられるのは鍛冶王様だぞ!!」

「だぞ!」

「鍛冶王……?」


 門兵は後退りして仲間のところに戻り、相談を始める。


『鍛冶王って知っているか?』

『いや、知らない』

『人間が御者を務めているから、人大陸から来たのかもしれない』

『どうする?』

『とりあえず、もう少し話を聞いてみよう』


 仲間との相談を終えた門兵はまた前に出てきて、馬車の前に立つ。


「そ、その鍛冶王は何を用で王都にやってきたのか?」

「剣の品評会の噂を聞いてやってきた。鍛冶王様は『ドワーフの鍛師達に本当の魔剣がどんなものか教えてやろう』と仰っている!」


 黒髪の男の言葉の後、馬車の客室から大きな音がした。まるで人がシートから転げ落ちるような音だ。門兵が腰の剣に手を当てる。


「ドラプニル王国の剣の品評会は誰でも参加可能と聞いた。まさか、我が王を拒むことはあるまいな?」

「け、剣の品評会への門戸は誰にでも開かれてある! ただ本当に客室におられる方が鍛冶王なのかは確かめさせて頂きたく!」


 御者台の二人は小声で相談を始める。


『リリナナ。適当にそれっぽく変装させてくれ』

『わかた』


 手に紫色のポーチを持った銀髪の女が御者台から飛び降り、客室に入る。ゴソゴソと物音と「あっ、やめて」「本当にやるんですか?」「化粧……」と恥ずかしそうな声がした。


 門兵が訝しむ。


 女が先に出て、客室の扉を開けて「鍛冶王様の御成り~」と棒読みをした。


 客室のステップに足を掛けて降りて来たのは、ダボダボの礼服を着て頭に王冠を被った男だった。背は低く、横にガッシリしている。妙に眉毛が濃くて、顔に迫力があった。


「わ、我が名は鍛冶王! ドラプニル王国の王都で剣の品評会があると聞いて、はるばるやって来た! 出迎え、ご苦労であったぞ!」

「本当に、剣の品評会に?」


 門兵が尋ねると、オーリは腰のホルダーにつけたハンマーに手を当てる。それにはある工房のマークが彫られてある。


「ホルンボリ工房……」


 ポツリ、門兵が呟く。


「如何にも! 我が祖先はホルンボリ工房の出身だ。これで私が本気だと分かったか?」

「大変失礼いたしました! どうぞ、お通りください!」


 王都の正門を塞ぐように立っていた門兵の列は飛び退き、道が開く。黒髪の男が満足そうに頷くと、鍛冶王オーリは客室に戻り、銀髪の女は御者台に上がった。


 青白い肌をした馬に曳かれ、馬車は王都へと入っていった。



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『エルフのいない世界で自分を最後のエルフだと信じ込んでいるスラムの孤児(人間)。命を狙われていると勘違いして無関係な悪の組織を理不尽に潰す』

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