第20話 逃亡
「来るぞ……! 逃げろ……!!」
コルウィルが叫びながら反転し、拠点に駆け込む。俺と鮫島は反応が遅れてしまう。
バリバリバリバリバリッ……!!
紫電が弾け、幅三十メートルはある堀をベリンガムが超えた。
「バンドウはいるか……?」
いつの間にか紫に輝く短髪の男が目の前にいて、低い声を出した。今まで感じたことのない威圧感に、鼓動が速くなる。
「番藤なら王都に行ったぞ? 残念。丁度入れ違いだ」
「……バンドウは黒目黒髪らしい。お前か……?」
ベリンガムが俺を睨む。
「おいおい。俺様を無視するんじゃねえ! ぞ!」
鮫島が俺の前に出てメイスを構え、身体が徐々に赤く光り始める。この馬鹿、【狂化】を使うつもりか……!?
「先にいけ! 【狂化!!】」
鮫島に突き飛ばされ、そのまま拠点の入り口に転がり込んだ。
「ォォォオオオオオ……!!」
鮫島の声が響く。紫電と赤光がぶつかった。もうこうなってしまっては、俺には何も出来ない。
近寄れば容赦なくメイスでぶん殴られるだろう。
鮫島、死ぬなよ……! 俺は駆け出した。
#
「田川! 帝国側に逃げるぞ! ぐずぐずするな!」
「えっ?」
自室にいた田川に声をかけるとキョトンとした顔をする。緊張感のない奴め。
「S級冒険者とかいう奴が襲ってきた! 黒目黒髪を狙っている! 逃げるぞ!!」
やっと事態を理解した田川は転がるように部屋から出て、そのまま走り出す。
リザーズの面々もコルウィルの指示で帝国への地下通路へ集まって来ていた。
オオトカゲに無理矢理五人乗り、次々に拠点から離れて行く。
「コルウィル! 地下通路の途中でリザーズを止めろ! 俺が地上への抜け道を作って後で塞ぐ! そうすれば、S級冒険者だって追って来れない筈だ!」
「分かった! 頼む!」
コルウィルのオオトカゲに田川と乗り、暗い地下道を進む。拠点からはグングン遠ざかっていく。
「さっきの冒険者、王国からの刺客か?」
「王家が冒険者ギルドに依頼を出したんだろう。内容はバンドウの首とリザーズ壊滅ってところか……。S級冒険者が動くなんて、どれだけ金を積んだんだ……」
コルウィルが参ったという声を出す。
「そんなにS級ってのはヤバイのか?」
「ヤバイ。成長した勇者には劣るだろうが、それを除けばこの世界の最強を争う奴らだ」
「コルウィル……恨まれてるな」
「お前のせいだろ!」
大声が地下通路に響いた。
「鮫島君、大丈夫かな?」
俺の背後で、田川は心配そうに声を上げた。それを、コルウィルが拾う。
「ベリンガムはまともな性格らしい。鮫島の首が依頼に入っていなければ、無駄に殺しはしないと思うが……」
帝国への通路を三分の一程進んだところで、マップを見ていた田川が声を上げた。
「この辺に穴を開けると簡単に外にでられるよ!」
「よし! 総員、停止! バンドウが穴を開ける。そこから一旦森に出るぞ!」
田川の指示に従い、斜め上に二十メートル程穴を開ける。一瞬にして、夜の森の湿った空気が地下通路に入って来た。
「急げ!!」
リザーズはスルスルと穴を上がって森へと飛び出す。コルウィルのオオトカゲもそれに続いた。
全員、地下通路から出たことを確認して【穴】を解除して塞ぐ。これで、俺達を追えない筈。
「田川、マップを見せてくれ」
無言で差し出されたマップで周囲の地形を確認する。現在位置は王国と帝国を分ける山脈の麓だ。
「コルウィル達はどうする?」
「少し西へ行って川沿いの何処かで身を潜めようと思う。山越えして帝国に向かうのが一番安全だが、流石に拠点に隠した財産を捨てることは出来ない」
同感だ。それに気になることがある。
「俺は拠点に戻ろうと思う。オオトカゲを一匹貸してくれ」
照明の魔道具が照らすコルウィルの顔には驚愕の表情。
「バンドウ。お前は馬鹿なのか? ベリンガムは地下道が行き止まりなのを確認すれば戻ってくるぞ? 奴のスピードを見ただろ?」
「心配するな。遠くから状況を確認するだけだ」
「本当だな」
「あぁ」
コルウィルは自分が乗っていた一番立派なオオトカゲを「やれやれ」と差し出す。
「バンドウ、絶対に死ぬなよ。お前は我が国に必要な人材だ」
「盗賊の国なんてあるのか?」
「気付いているだろ? 俺達は帝国兵だ」
リザーズのメンバーがピシリと並び、軍隊式の敬礼をした。地球と同じだな。
「また、会おう」
「あぁ。少しの間、田川を頼む」
俺はオオトカゲに跨り、前進の合図を出した。
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