第20話 久しぶりのリザーズ拠点

「明日ノ朝、迎エニ来ル」


 ニドホッグはそう言った後、地面に寝かせていた首をもたげ、徐々に体を浮かせた。


 そして天高く舞い上がると、すぐに見えなくなってしまった。


 朝は亜人大陸にいたのに、夜にはもうリザーズ拠点近く。流石は大陸間エアタクシー、ニドホッグ。とても便利だ。


 暗い森の中を一人歩くと、空堀に囲まれたリザーズ拠点が見えてきた。入口の近くでは篝火が焚かれ、見張りのメンバーに影をつくっている。


 空堀の縁に立って手を振ると、こちらに気が付いた見張りが跳ね橋のレバーを降ろした。カタカタと歯車の回る音がしたあと、リザーズ拠点への道が出来る。


 以前はいちいち俺が【穴】を解除して空堀に橋を架けていたのだが、それは流石に不便だということでザルツ帝国から職人を招き、造ってもらったのだ。


「バンドウさん、お久しぶりです。どうされました?」

「ちょっとコルウィルに用があってな。いるか?」

「ええ。この時間だと自室にいるかと」


 見張りと軽く会話を交わし、拠点に入る。


 スロープを降りると大広間があり、夕食を終えたメンバー達が思い思いの過ごし方をしていた。


「おっ! 番藤じゃねえか! もう新婚旅行は終わりか?」


 目ざとく俺を見付けて声を上げたのは鮫島だ。腰掛けていた樽から立ち上がり、ニヤニヤしながら寄ってくる。


「いや、ちょっと中断して戻ってきたんだよ」

「中断……? さては離婚したな……!?」


 なぜそうなる?


「いや、していない。今日たまたま一人なだけだ」

「なんだよ~。つまんねえの」

「田川はどうした?」

「まだ、食堂でメシ食ってんじゃねーかな。あいつ、食い意地はっているから。何か用か?」

「少し、地形を確認しておきたくてな。見掛けたらコルウィルの部屋に来るように伝えてくれ」


 そう言った途端、鮫島の目つきが鋭くなる。


「おい番藤! また悪巧みだろ……!! 俺も交ぜてくれ!! 最近退屈なんだよ!!」


 うーん……。今回の作戦、鮫島の出番は無さそうなんだよなぁ。


「断る」

「なんでだよ!」

「今回はある種族の未来がかかっているんだ。遊びじゃない」

「人大陸の未来がかかっているときも、遊んでたじゃねーかよ!?」


 そうだったっけ?


「何か役割くれよ~」

「考えておく」


 とりあえず適当に流して大広間を抜け、居住区に入る。コルウィルの部屋は一番奥のどん詰まりだ。


 扉の前に立ちノックをすると、「なんだぁ?」とだらけた声が返ってきた。


「俺だ。番藤だ。ちょっと頼みがあってやってきた」

「もうお断りだ」


 そういうわけにはいかない。


「入るぞ」


 ドアノブを回すと鍵は掛かっていない。そのまま押し入る。


「……眩しい……」


 部屋の中に浮かぶのは身体を神々しく輝かせるコルウィルだった。


「コルウィル。いつの間に空を飛べるようになったんだ?」

「気を抜くと勝手に身体が浮いてしまうんだよ……」


 コルウィルは中空で涅槃のポーズを取りながら、眉を下げる。


 少し前は気を抜くと身体から後光が差すだけだったのに、どんどん神格が上がっているようだ。


「そんなコルウィルに相談があって来たんだ」

「どうせ、ろくでもない依頼だろ?」

「そうか。引き受けてくれるか」


 コルウィルは驚いた様子で、中空で上半身を起こす。


「ちょっと待て! 今の会話で引き受けたことになるのか……!?」

「前向きに捉えてくれて助かるよ」

「駄目だ。話が通じない……」


 ここまで話したところで、扉がノックされた。返事をすると入って来たのは田川。その背後にもう一人の気配がある。


「番藤君、久しぶりだね! 用があるって聞いた──」

「俺も仲間に入れてくれ!!」


 田川に被せるようにして鮫島が叫んだ。全く。ヤンキーは本当に寂しがり屋だ。


「仕方がない。ではこのメンバーでリリパット族の『神の鞍替え作戦』について検討しよう」


 一同、シンと黙り込む。一番最初に口を開いたのは田川だった。


「番藤君。神の鞍替え作戦ってどういうこと? まさかリリパット族って人達が信仰する神様を変えようってこと?」

「流石は田川。理解が早くて助かる」


 コルウィルが慌てて俺に詰め寄ってきた。中空から。


「おいバンドウ! まさか乗り換え先の神っていうのは──」

「当然、コルウィルだ」

「これ以上信徒が増えたら、本当に神になってしまうだろ……!!」

「諦めろ。もう半分以上、神だ。身体が光って宙に浮かぶ人間がいるとおもうか?」

「いない……」


 コルウィルは項垂れる。中空で。


「田川には神が現れるのに最適な地形を見付けて欲しくてな。ちょっと亜人大陸をマップでみてくれ」

「いいよ」


 田川が【マップ】と唱えると、半透明の板がその手に現れる。


「はい。亜人大陸」


 俺は差し出された【マップ】を指でピンチアウト。


「たしかリリパット族の集落はこの辺りなんだが、この近くにいいロケーションはないか探してくれ。神が降臨するのに」

「なるほどね~。ちょっと探してみるね!」


 田川は【マップ】に集中する。


「なぁ! 番藤! 神には従者が必要じゃないか? 俺、それやるよ!」


 従者かぁ……。


「鮫島。ヤンキーのお前にそれが務まるのか?」

「頼む! なんでもやるから! 役をくれ……!!」


 鮫島は必死に頭を下げて頼み込んでくる。


「コルウィル、どうする? 鮫島に従者をやらせるか?」

「おいバンドウ……。そもそも俺は一度も『引き受ける』と言っていないぞ?」

「良かったな。鮫島。コルウィルがオッケーを出したぞ」

「やったぜぇぇ……!!」


 コルウィルは最後まで「やる」とは言わなかったが、最初から「やる」ことは決まっていたので問題ない。そもそも、もうリリパット族の族長にコルウィルのことは話してしまっている。


 その日は遅くまで作戦会議をし、翌朝早くに亜人大陸へ渡った。

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