第15話 旅の準備とリリナナの手料理
俺とリリナナ、オーリはドラプニル王国の王都からオーリの家へと戻っていた。
オーリは俺達と旅を続けることになったが、色々と準備がある。
マジックポーチに入れられるものは全て待って行った方が安全だし、何かと都合がいい。
そしてもう一つ用事があった。それは──。
「ついに完成か。オーリ、手間をかけさせたな」
「いいえ。これは自分の為でもありますから」
工房の作業台には一本の包丁が置かれている。その包丁は魔鉄と鉄が何層にも鍛接されており、通常のモノに比べると肉厚になっていた。
「問題はどうやって渡すのか? ですね」
「それについては下手な小細工をしない方がいい。普通に『余った魔鉄で包丁作ったのでどうぞ』ぐらいにしよう」
オーリは真剣な表情で頷く。
「魔力についてはどうしますか?」
「それは心配しなくていい。リリナナは常に魔力を垂れ流しているから、自然と魔剣の効果を発動する筈だ」
「なるほど……」
また頷くと、オーリは魔鉄製の包丁を木製のケースにしまう。
「そろそろリリナナが食材を調達して戻ってくる筈だ。何気なく台所に置いておこう」
「そうしましょう」
オーリは包丁を脇に抱えると、母屋に向かって歩き始めた。
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母屋のダイニングで寛いでいると、すっと扉が開いてリリナナが帰ってきた。その背後にはプレートアーマー姿のアンデッドが立っている。狩りをやらしていたのだろう。
「ただいま。いい食材が手にはいた」
「それは騎士が肩に担いでいるやつのことか?」
「そそ」
プレートアーマーの騎士の肩には巨大な蛇が担がれている。今晩は蛇のフルコースになりそうだ。
騎士はリリナナの指示に従って調理台の上に蛇を転がす。その横には先程完成したばかりの包丁が置かれていた。
「ん? 新しい包丁?」
リリナナが包丁に気が付き、指を差しながら尋ねる。
「は、はい! ま、魔鉄が余っていたので作りました!」
おい! オーリ! 緊張し過ぎだろ!
「……ふーん。じゃ、使う」
ふぅ……。何とか怪しまれずに済んだようだ。
リリナナはまな板の上に大蛇をのせると、ダン! ダン! と包丁でぶつ切りにしていく。
「オーリ。この包丁、よく切れる」
「そ! そうでしょ!」
「なかなか使いやすい」
上機嫌で包丁が振り下ろされる。しかし、相変わらず食材を切る時のサイズが不揃いだ。これが火の通りが不均一になる原因なのだろう。
「ところで、リリナナ。その蛇は毒とか大丈夫なのか?」
「うーん……」
リリナナはまな板の上の蛇をじっと見つめる。
「色が地味だから大丈夫」
本当か? と思ってオーリを見ると、少し首を捻っている。危ない可能性があるな。
「よし」
謎の「よし」の後、リリナナが蛇のぶつ切り、野菜のぶつ切り、水、そして調味料を鍋にぶち込み、火にかける。
「もう一品は何にしようかな〜」
鼻歌を歌って楽しそうだ。
「サラダかなぁ〜」
蛇のサラダ!? 流石に危ないだろ……!?
「揚げ物かなぁ〜」
そうだ! 揚げ物が無難だ!
「煮込みかなぁ〜」
今シチューを作っているのでは?
「串焼きにしよ」
うん。まぁ、大丈夫だろう。オーリを見ると、ホッとした表情をしている。きっと俺も同じような顔をしているだろう。
リリナナは俺達の気持ちとは関係なく、ご機嫌なまま、蛇を木の串に刺していく。そして豪快に塩と胡椒を振って、火にかけた。
モクモクと黒い煙が上がり始める。これ、大丈夫か? 化学物質を燃やした時と同じような反応だが……。
心配になってオーリを見ると、眉間にシワが寄っていた。やはりアウトか。これは魔剣の効果に期待するしかない……。
串焼きが出来たところで、食事の時間だ。
ダイニングテーブルの中央に蛇シチューの入った鍋がデン! と置かれ、串焼きとパンが個人の皿に取り分けた状態で並んでいる。
「二人、たくさん食べる」
リリナナは俺とオーリに蛇シチューをたっぷりとついで、満足気に席についた。
「召し上がれ」
ここで躊躇ってはいけない。機嫌を損ねることになる。俺はシチューの器から、ぶつ切りの蛇肉を口に運ぶ。緊張の一瞬──。
「柔らかくてホロホロだ。臭みもなくて、いくらでも食べられる」
「よかた」
リリナナはニコニコと微笑む。
「本当だ! 蛇肉ってこんなに食べやすいんですね」
「工夫した」とリリナナは胸をはる。
そう。その通り。工夫したのだ。俺達は。包丁に。細工したと言ってもいい。
今回リリナナが使った包丁には魔法回路が三つ仕込んである。一つは【解毒】。多分これがなかったら食中毒になっていただろう。
二つ目は【軟化】。火の通りとは関係なく、食材が柔らかくなる。ついでに味が染み込み易くなるのでかなり有効だ。
そして最後は【消臭】。食材に対して下処理の概念のないリリナナには必須だ。特に野生動物や魔物の肉に対しては効果が抜群。
【解毒】【軟化】【消臭】が合わされば、大体の料理は食べられるようになる。あとは味付けさえハンドリング出来れば身の安全は確保出来たようなものだ。
「美味しい……。本当に美味しい……」
オーリが蛇シチューを食べながら、泣き始めてしまった。今までのリリナナの手料理を思い出しているのだろう。
「オーリ、大袈裟。明日も作ってあげるから泣くな」
「えっ、いや! 明日は僕の料理当番なんで大丈夫です!」
「遠慮するな」
オーリめ……。自ら墓穴を掘るとは……。
結局、翌日もリリナナが料理当番をやることになった。が、包丁のおかげで俺達が命を落とすようなことはなかった。
そして準備は整い、亜人大陸を巡る旅へと出る。
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