第16話 小人の集落

 亜人大陸を遥か上空から見ると、ちょうどロングブーツのような形をしている。つま先の出っ張ったところにドワーフの国、ドラプニル王国があり、人間達が入植しているのは精々そこまでだった。


 ロングブーツのくるぶしより上の部分は深い森が延々と続いており、様々な人種が集落や街、国を作って暮らしていた。


 その森の比較的浅いところにあったのは、小人族の集落だった。


 小人。別名リリパット。彼等は大人になっても身長は一メル程度までにしかならない。人間であればせいぜい、三、四歳児程度の大きさだ。


 力は弱く魔法もそれほど得意ではない。では、飛びぬけて頭が良いかと言われれば、そんなこともない。


 そんなリリパット族が何故、競争の激しい亜人大陸の森の中でひっそりとはいえ集落を維持出来ているかというと、彼等が護られているからだ。


 ある神に。


 パラム神。小人族だけが信仰している、亜人大陸でもあまり知られていない存在。


 しかし、パラム神がいるお陰で小人族は病気になることは殆どなかったし、子供が出来れば健康に育つ。畑を造れば肥料をやらなくても毎年一定の野菜は採れる。


 魔物に襲われて数を減らすことはあっても、種族として滅びるようなことはない。


 リリパット族はまさに身の丈にあった生活、小さな幸せを大事にして細々と暮らしていた。


 これまでは……。



「痛い! 離して……!!」


 小人族の集落に響くのは若い女の声だった。鎧姿の小人の男二人が、暴れる小人の女を無理矢理引き摺っている。


「暴れるな!」


 男が女の顔を何度か殴りつけると、女は身体を震わせる代わりに静かになった。


「まったく。手間を掛けさせやがって! お前達が他の種族の女を攫ってこれなかったから悪いんだろ? パラム神の御心に逆らうつもりか!?」


 罵声を浴びせると、女の震えはより一層ひどくなった。ガチガチと歯をならしている。


「よし。このまま祭壇につれていこう」

「おう」


 鎧の男達は抵抗を止めた女の両手をガッシリと掴み、ずるずると地面を引き摺りながら進む。


 集落の人々は窓の隙間や物陰から、その様子をそっと覗いていた。悲しそうな表情をしてはいるものの、誰一人助けようとするものはいない。


 諦めていると言い換えた方が適切だったかもしれない。


 住民の視線を集めながら、鎧姿の男達は歩き続ける。その先にはドーム状の白い建物があった。


 入口には同じく鎧姿の門衛が二人立っていて、男達の姿を認めるとすっと道を開けた。


 震えたまま引き摺られる若い女には一瞥すらくれない。


 白い建物の中には鎧姿の小人と祭服の小人の二種類が忙しなく動き回っていた。


「今回の供物を連れてきました!」

「おぉ! ご苦労であった……!! 早速、神の穴へ連れていこう」


 祭服を着た司祭のような男が嬉しそうに反応し、女を引き摺る二人を先導して歩く。


 豪奢な彫刻が施された木製の扉の前までくると、司祭は軽く手を触れる。


 扉は音もなくスッと左右に開き、広くて暗い空間が現れた。


 灯りはなく、窓は天井に丸くあいた一つのみ。


 そこから差す陽の光が照らすのは、地面にあいた大きな穴だった。


「よし。さっさと神の穴に落としてしまえ。こいつは登ってこられないだろうから、蓋はしなくていいぞ」


 司祭が指示すると、鎧姿の男二人は穴の縁までやってきて、そのまま女を穴に落とした。


 深さは三メル程度だろう。小人にとっては逆立ちしても這いあがれない高さだ。


 穴の底に落とされた女は顔をしかめて痛そうにしているが、大きな怪我をした様子はなかった。ただ、顔は絶望に染められていたが。 


「完了です」

「よし。今日の晩にはパラム神が召されるだろう」


 司祭と鎧姿の男二人はホッとした表情になり、軽い足取りで部屋から出て行く。そして、硬く扉は閉められた。人の気配がしなくなる。


 穴の底に落ちた若い女は縋るような視線を天に向けた。


 しかし、先ほどまで差していた陽の光はもう雲に隠れてしまい、ただ薄暗い空間が広がっているだけだった。


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土日月は更新をおやすみして次は9/17(火)に投稿します!! 三連休は元祖性悪主人公のダンジョンモノをチラ見してもらえたら嬉しいです!!


『性格の悪さを神様に買われて加護を得ました』

https://kakuyomu.jp/works/16816700426153313044

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