第43話 魔大陸

「うおおおー!! 高いい!! テンション上がる!!」


 客室の窓から外を見て、鮫島は叫ぶ。


「鮫島君……。もうそれ五回目だよ」


 田川は呆れた様子だ。


「何度見ても最高の眺めなんだよ!」

「飛行機乗ったことないの?」


「ない!」と鮫島は得意げに答えた。


「これ、本当に大丈夫なのか? 途中で【盲従】が解けたりしないのか?」


 どうやらコルウィルは高いところが苦手なようだ。絶対に窓の外を見ようとしない。


「大丈夫。リリナナを信じろ」

「大丈夫。アウグストを信じろ」


 俺の膝の上に座るリリナナが言うと、アウグストは控えめに頷いた。


 今、俺達は空の上にいる。


 シトリーが呼んだ巨大な鳥の魔物、ロック鳥。それをアウグストが【盲従】で操り、馬車の客室を運ばせているのだ。


「ねぇ、シトリーさん。魔大陸までどれぐらいかかるの?」


 田川がスキル【マップ】で透明な地図を出し、あれこれ触りながら聞いた。


「ロック鳥の速度でも丸一日はかかるぞ」

「結構かかるねぇ。お菓子もっと持ってくればよかったよ……」


 最近、明らかに太ってきた田川が残念がる。


「目的地は魔大陸の北の方だったな」

「あぁ、そうだ。氷龍ニドホッグの巣は北にある」


 何かを思い出すように遠い目をした。


 シトリーの妹は魔人達の中でも重要な存在だ。誰も近寄れないような場所に置いておく必要があった。そして選ばれたのは魔大陸に住む氷龍の巣だったらしい。


「氷龍ニドなんとかなんて、俺が首を斬り飛ばしてやるぜ!」


 鮫島は自信満々だが、そんな簡単なものではないだろう。今までのように地下通路から盗んで終わり。とはならない筈だ。


「コルウィル。ドラゴンって強いのか?」

「個体差はあるが、名前のあるドラゴンなら間違いなく強い。近寄る間も無くブレスでやられてしまう」


【穴】の射程は精々、十メートル程度だ。気付かれる前に倒すのは難しい。


「魔人達はどうやってお前の妹のお守りを氷龍に頼んだんだ?」

「ニドホッグは過去、魔人に命を助けられたことがある。未だに恩義を感じて協力的だ」


 完全に魔人の味方というわけか。厄介だな。策を練る必要がある。


「何か使えるもの……」

「どしたの?」


 膝の上に座るリラナナが俺を見上げる。


「いや。ちょっとどう攻めるかアイデアがまとまらなくてな」

「珍しい」


 俺は空の旅の間中、ずっと頭を捻っていた。



#



 ロック鳥便は氷龍ニドホッグの巣がある岩山の麓近くに着陸した。アウグストが【盲従】を解除すると、一度周囲を見渡して不思議そうな顔をしてから、大きく羽ばたいて行ってしまった。


「あの岩山の中腹に大きな空洞があるよ」


 田川が早速マップを開き、地形を丸裸にした。


「よし。予定通り、作戦を決行するぞ」


 シトリーが心配そうな顔をした。


「なぁ。本当にやるのか?」

「当たり前だ。シトリーは何の為に来たんだ?」

「妹を救う為……」


 まだ表情はかたい。


「大丈夫だって! 何も考えずに番藤の指示に従ってればなんとかなるから!!」

「鮫島は少しは考えろ」


「無理無理〜。俺馬鹿だから!」と鮫島は手を振る。場の空気が緩んだ。シトリーの顔も少し、マシになる。


「お前を元の状態の妹に会わせてやる」

「弱気なところを見せて済まなかった」


 もう大丈夫だな。


「リリナナ、頼むぞ」

「任せて。チャタロウ」


 空の旅の間、ずっと膝の上に乗せていたら何故か呼び方が変わってしまった。しかし指摘して臍を曲げられたら元も子もない。この作戦、リリナナの力は絶対に必要だ。


「チャタロウ! 気を付けてな!」


 コルウィルがニヤニヤしながら言う。普段の仕返しをしているつもりか……?


「そんなに自分の名前を魔大陸に轟かせたいのか? コルウィルよ」

「ば、馬鹿! 軽い冗談だろ?」

「安心しろ。願いは叶えてやる!」


「勘弁してくれ……」というコルウィルの声を背中で受け、俺達は岩山に向かって歩き出した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る