第59話 冒険者会議 議事録 その五
【第九十二回 冒険者会議 議事録】
冒険者1
⇒皆、カルダノの丘への遠征ご苦労であった。三陣営のそれぞれの様子を報告して欲しい。
冒険者2
⇒では、ガドル王国陣営について。カルダノに来ていたのはエミーリア第一王女と宰相、そして一部の勇者だ。彼等はコルウィルと魔王の一騎打ちに心奪われたようだった。特に勇者達はコルウィルに全力で声援を送っていた。
冒険者3
⇒勇者が盗神を応援か……。なんとも情けない。
冒険者4
⇒そうかな?
冒険者5
⇒というと?
冒険者6
⇒魔王を討伐するのに他の世界の力を借りねばならぬ、我々こそが「情けない」のかもしれない。
冒険者7
⇒考えたこともなかったな……。確かにそうかもしれぬ。
冒険者8
⇒アルマ神国陣営について報告する。神国は法王ペルゴリーノが自らカルダノの丘に来ていた。王国よりも「本気」だったと思われる。
冒険者9
⇒聖女の件もあるしな。結局、リザーズに誘拐されたという噂は本当だったのか?
冒険者10
⇒真相は不明だ。ただ、本当にリザーズが聖女を得た場合、帝国の擁立した勇者とパーティーを組む筈。それがなかったのだから、リザーズに誘拐されたか否かは関係なく、聖女が何かしら問題を抱えていたと考えるのが自然ではないか?
冒険者11
⇒アルマ神が神託で男性を聖女に選んだ。という噂もあるが……。
冒険者12
⇒そんな馬鹿なことがあるものか……!?
冒険者13
⇒実際、リザーズの拠点近くで、アルマ神教のシスター服を着た男が目撃された。という情報もある。
冒険者14
⇒アルマ神は随分前から狂っていたのかもしれぬな。
冒険者15
⇒話を戻そう。神国陣営はコルウィルと魔王の一戦を祈りながら観戦していた。そしてコルウィルが昇天した瞬間、法王自らが五体投地した。もう一度伝える。法王ペルゴリーノがコルウィルに対して五体投地したのだ。
冒険者16
⇒アルマ神教の法王が、コルウィルを神と認めた。ということか……。
冒険者17
⇒そうなる。五体投地の波は他の司教達にも広がり、最終的に神国の陣地には立っている者は一人もいなかったそうだ。
冒険者18
⇒それは、アルマ神国の根幹を揺るがす事態なのではないか?
冒険者19
⇒事実、揺らいでいる。神国と帝国の国境では、亡命を希望する民で溢れているらしい。
冒険者20
⇒なんとも、薄情な民だな。
冒険者21
⇒さて。薄情だったのは民なのか? それとも神の方か?
冒険者22
⇒帝国の陣地はどうだった?
冒険者23
⇒ザルツ帝国からは皇帝ガリウスが来ており、最前線に席を構えて盗神と魔王の戦いを観戦していた。
冒険者24
⇒様子はどうだった?
冒険者25
⇒ニヤニヤしていた。
冒険者26
⇒ニヤニヤ? 人間と魔人の未来を占う戦いを見て、笑っていたというのか?
冒険者27
⇒流石は皇帝ガリウス。大陸の覇者になり得る存在だ。もしコルウィルが敗れたとしても、次の手を用意していたのだろう。
冒険者28
⇒だから余裕があったと……。コルウィルとの戦いで疲弊した魔王を討つつもりだったのやもしれぬ。
冒険者29
⇒恐ろしい男だ。
冒険者30
⇒あの日の三陣営の状況報告、感謝する。魔王軍とリザーズについて何か情報は?
冒険者31
⇒魔王軍については分かっていることは少ない。あの場にいた子供が本物の魔王だったという事しか分かっていない。
冒険者32
⇒本物……? 何故そう言い切れる?
冒険者33
⇒右手にあった紋様だ。【遠見】のスキルで見ていた者が書き写し、王国の歴史学者に見せたそうだ。
冒険者34
⇒結果、魔王だったと?
冒険者35
⇒そうだ。それに、あの紋様から剣を取り出すところを見ただろ? アレもまた、過去の魔王と一致しているらしい。
冒険者36
⇒魔王の死体は見つかったのか?
冒険者37
⇒カルダノの丘、地下10メルのところで見つかったらしい。損傷が激しく、全身炭化していたそうだ。
冒険者39
⇒あの黄金の剣に貫かれたのだ。仕方あるまい。
冒険者40
⇒リザーズはどうだ? コルウィルは昇天し、神になったのだ。何かしら動きはあると思うが。
冒険者41
⇒コルウィルの後をチルウェルという者が継いだらしい。それ以外、情報はない。
冒険者42
⇒帝国がカルダノの丘に「コルウィルの像を立てる」という話なら聞いた。
冒険者43
⇒盗神の加護を授かろうという魂胆か。流石は皇帝ガリウス。抜け目がない。
冒険者44
⇒神国はアルマ神への信仰が揺らぎ、崩壊へ向かっている。国王と貴族の対立が激しい王国も然り。今後、帝国の世になる可能性は高いな。
冒険者45
⇒この流れを予見していたというのか……。ガリウスは……。
冒険者46
⇒しかし、一つ腑に落ちない点がある。
冒険者47
⇒なんだ?
冒険者48
⇒何故、魔王はコルウィルとの一騎打ちを受けたのか? これがまるで分からない。魔王側に利点があったとは思えない。
冒険者49
⇒魔王側に問題が発生していたのでは? という報告は過去にあった。その問題を解決するような何かを、コルウィルが提示したのだろう。魔王が一騎打ちを応じざる得ないような何かを……。
冒険者50
⇒神のみぞ知る。か。
冒険者51
⇒では議題を未来に移そう。アルマ神の弱体により、人大陸の覇権争いは激しくなる。ここで我々冒険者の取る道は二つだ。一つは傭兵として戦争に加わることだ。危険だが、稼ぎにはなるだろう。
冒険者52
⇒もう一つは?
冒険者53
⇒活動の場を亜人大陸に移す。だ。帝国が亜人大陸との間に定期便の出航を予定しているらしい。
冒険者54
⇒ドワーフの国に行けば、良質な武具が手に入る……!?
冒険者55
⇒エルフの国に行けば、綺麗な嫁が手に入る……!?
冒険者56
⇒馬鹿野郎! 獣人を嫁にするに決まっているだろ……!?
冒険者57
⇒お前達……落ち着け。会議の場だぞ。異類婚姻譚に憧れるのはいいが、あれはあくまで物語。現実はそんなに甘くない。
冒険者58
⇒夢のない奴め。亜人大陸との交易が盛んになれば、商人の護衛依頼も増える。現地で「出来るところ」を見せれば、機会はあるだろ……!?
冒険者59
⇒否定は出来ない。
冒険者60
⇒よし! 我々は亜人大陸に行くぞ!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます