第5話 拠点

「俺はコルウィル。このクソ野郎どもをまとめている」

「番藤だ。昨日、異世界から召喚されたばかりだ」


 王都の西に広がる森の奥にある廃坑。そこを根城にする盗賊団リザーズの頭領は、卑しさを微塵も感じさせない精悍な男だった。


「本当に黒目黒髪なんだな。今までに勇者の末裔って奴等にあったことあるが、ここまでハッキリした特徴はなかったぞ」


 廃坑の入り口を背にして、コルウィルは珍しそうにする。


「今回召喚された奴の中には金髪もいるぞ?」

「そうなのか? 言い伝えと違うな」

「異世界も変化してるんだよ」

「そりゃ、そうだ。なにせ、二百年振りの勇者召喚だからな」


 盗賊の癖に詳しいな。元々はそれなりの身分だったのかもしれない。砕けているように見えるが、全く隙はない。


「手下に怪我させてすまなかったな。急に襲われて焦ってしまったんだ。敵対する意思はない」


 ──少なくとも、今は。


「フン。焦ったねぇ。チェケから格闘技の達人のような動きだったと聞いているぞ? おまけに変わった魔法を使うそうじゃないか」


 ……魔法? あぁ、【穴】を魔法だと思っているのか。


「そうだな。こーいうことが出来る」


 廃坑入り口横にある大岩に人差し指を当てる。そして──。


「【穴】」


 ドンッ! と半径50センチほどの穴があき、土埃が舞った。


 コルウィルの顔が引き攣り、脇を固めていた部下二人が身構える。


「……流石は勇者と言ったところだな。敵じゃなくてよかったぜ」

「俺は平和主義者なんだ。仲良くやろう」


 俺の差し出した右手を見て一瞬怯むも、そこは上に立つ者。部下の前で情けない姿は見せない。ゴツゴツした岩の様な手で握り返され、隣人達との顔合わせは終わった。



#



 リザーズの廃坑から二百メートル程度離れたところ。少し地面が窪んだ場所に、ちょうどいい大岩があった。縦横五メートル以上あるその岩は非常に硬く、苔むした表面が悠久の時を感じさせる。


「ここにしよう」


 拠点の入り口は決まった。


 大岩に指を当て、地面に潜る様な穴をイメージする。そして──


「【穴!】」


 間抜けな掛け声とともに、人間が悠々入れる程の穴があいた。


 宿から拝借したランタンで照らすと、当然だががらんとして何もない。


「さて、廃坑とバッティングしない為には……」


 穴を掘る方向は慎重に決める必要がある。コルウィル達が住む廃坑は森の北の山脈──王国と帝国を分けている──に向かって伸びているらしい。となれば俺は西や南に穴を伸ばしていけば問題ない。


 一度外に出て、方角を確認する。太陽──この世界にもある──の向きから大まかな方角を割り出し、穴についてイメージする。


 南西に向けて、なだらかに地下へと伸ばす。先ずは20メートルぐらいで充分だろう。


「よし。固まった」


 再び穴の中に入り、ランタンで壁を照らす。硬く冷たい岩が剥き出しだ。そこに手のひらをつけ、強く念じ声に出す。


「【穴!!】」


 ドンッ! と岩が抉れ、深い穴があく。ランタンで照らしても先が見えない。


「ここを俺の拠点とする!」


 俺の声はだだっ広い岩穴にこれでもかと反響するのだった。

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