第4話 採掘

「【穴】!」


 地中から現れたロックワーム──成人男性の胴体ぐらいの太さ──の頭部に穴を開けるが、まだ動いている。


「バンドウさん! 尻尾にも穴を開けてください!」


 オーリの指示通りに穴を開けると、ようやくロックワームは動きを止めた。


「おつかれ様です! ちょっとお腹を裂くんで離れてください」


 そう言ってオーリは腰からナイフを取り出しながらワームに近づき、慣れた様子で腹を割く。


 出てきたのはほんのり光る黒い石のようなモノだ。オーリが手のひらに乗せてこちらへ振り返る。


「バンドウさん。これが魔鉄鉱石です!」


 オーリに連れてこられたのは一帯に鉄鉱石の鉱床が広がるという山だ。わざわざオオトカゲでここにやって来た訳は、オーリに腹を割かれた巨大なミミズにある。


「ロックワームは強力な顎で鉄鉱石でも砕いて飲み込んでしまうんです! で、体に吸収されなかった鉄の成分がこうやって残り、魔力を浴びて魔鉄鉱石になるんです!」


 鍛師としての習性か。オーリは興奮している。


「ロックワーム一体から取れるのはたったそれだけか?」


 小さな握り拳ぐらいしかない魔鉄鉱石を指して尋ねる。


「そうです! 地道に集めるしかありません! よーし、頑張るぞー!!」


 リリナナが俺の服を引っ張り、不満気な顔でこちらを見上げる。


「チャタロウ。私、地道とか無理」

「奇遇だな。俺も地道な作業は性に合わない」


 流石はリリナナ。数千体の屍を率いて一晩で国を潰した女だ。


「で、でも! そんな一気にロックワームは現れないですし……」

「驚かせれば出てくるんじゃないか?」

「じゃまいか?」


 オーリは「何をするつもりですか……?」と心配そうな顔をする。


「リリナナ。俺がデカい穴を開けるから、何か一発景気のいいやつを頼む」

「わかた」


 黒く硬い地面を睨みつける。直径三メートル、長さ百メートルぐらいでいいか……。なるべく深くならないように、斜めに掘る感じだな。


「【穴】!!」


 ドバンッ! と砂埃が上がった後、俺の右手の直線上に巨大な穴が現れた。


「【現出】」


 リリナナの足元の影が大きく広がる。これは、大物だな。


「あがっあがっっ……」


 オーリの口から奇怪な音が漏れる。それと同時に現れたのはお馴染みのドラゴンゾンビだ。今日は奮発して一番巨大な個体を選んだらしい。


 ボロボロの双翼をはためかせながら、二十メートル以上ある巨体をズルズルと引き摺り、あいたばかりの穴に首を突っ込む。


「オーリ。もうちょっと離れた方がいいぞ」

「えっ、ちょっと待ってください!」


 ドワーフらしいがっしり体型のオーリがバタバタと走り穴から離れた。そして──


 グルアァァァアアアー!!


 ──容赦なく放たれるブレス。腐臭を伴う毒の息が穴に吸い込まれていく。



 一分ぐらい待っただろうか。地表が盛り上がり、小さな山が幾つも出来始めた。下から何かが上がって来ているように……。


 その数は百やそこらではきかない。全てロックワームだろう。


「バンドウさん……。この数、やばくないですか?」

「そうか?」

「そうですよ! 一気にこんな数相手出来ないで──」


 ドンッ! とオーリの背後から勢いよくロックワームが飛び出して来た。鋭い牙をカチカチ鳴らしてながら、宙を舞っている。


「【穴】【穴】!」


 頭部と尾部に風穴を開けると、ロックワームは体を痙攣させながら地面に落ちた。


 その向こうではリリナナがいつの間にか呼び出したプレートアーマーの騎士が、見事な剣捌きで同じくロックワームを仕留めている。


「よし! リリナナ! サクサクやるぞ!」

「サクサク」



 それから俺は数え切れないほど穴をあけた。リリナナは数百のアンデッドを呼び出してロックワームの群を捻り潰した。


 全て平らげた後の眺めは悍ましく、異常発生したゴカイが砂浜で大量死しているようだった。


「オーリ。これぐらいで足りるか?」

「そうですね……魔剣百本ぐらい作れそうです……」

「全然足りないじゃないか」

「足ります! 充分です!! もう勘弁して下さい!!」


 オーリは頭を抱えて絶叫した後にやっと平静を取り戻した。


「じゃ、俺達は休憩するからオーリは魔鉄鉱石の採取を頑張れ。リリナナの屍も手伝ってくれるからなんとかなるだろ?」

「はい……頑張ります」


 オーリとアンデッド達は地道な作業を黙々と続けるのだった。

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