【#4 落城】
-5107年 3月5日 08:35-
ロシュフォール城 王の間
衛兵に前後左右を警護されながら、タラモア軍ヒューズ司令長官が王の間に到着した。
「待ちくたびれたぞ…わざわざ城門を開け放って迎えてやったと言うのに、お主らの歩みはどれほど遅いんじゃ、まったく……こんなに待たされるなら風呂入って朝飯まで食えたわぃ…」
国王ロシュフォール3世は玉座に腰掛け、待たされたイライラと不機嫌さを、丸っとそのまま敵軍の司令長官とやらにぶつけた。
「挨拶も無しに愚痴をぶつけてくるとは……噂通り非常識で無礼なお人のようですな…ロシュフォール国王。某はタラモア帝国軍司令長官、ヒューズと申します、お見知りおきを」
ヒューズ司令長官は胸のポケットから葉巻を取り出すと、そばにいた衛兵が火をつけ、ゆっくり一服しながら王室内を見回した。
「無礼はお互い様じゃろ、まがいなりにも他国の王の前で葉巻をふかすとは…。そもそも我が城は城内禁煙じゃ」
「それはそれは…そうとは知らず、失礼した」
ヒューズ司令長官は咥えていた葉巻を床に落とすと、靴底でグリグリ踏み消した。
毛足の長い高級絨毯の一部が焦げ、辺りには毛の燃えた臭いが漂っていた。
「それはそうと…その服装はいかがなものですかな…とても降伏した国の王に相応しくない格好だと思うのですが…」
「ん?このパジャマのことかの?」
「ピンクと水色のストライプ…胸にはLOVE&PEACEの刺繍まで…恥ずかしいとは思わないのですか?」
「何が恥ずかしいんじゃ?淡い色合いといい着心地といい、恥ずかしいどころかワシの一番のお気に入りじゃぞ♪ そうじゃ!似たようなパジャマがもう一着ある、お主にやろう♪ 土産に持ち帰るといい♪ もちろんまだ一度も袖を通してない新品じゃ♪」
「………いえ、結構」
武力では劣っても、口ではロシュフォール国王に分があるようだった。
「我々が持ち帰るのは…この城の財宝と…ロシュフォール国王、あなたの身柄でございます」
「ワシをタラモアへ連れ帰ると?それはイヤじゃな、どうせ拷問されて、最後は大衆の面前で処刑されるんじゃろ?そんなの絶対イヤじゃ」
「見苦しいですぞ、ロシュフォール国王。敗国の長は連行されるか、その場で首を落とされるか、それが世の常でございましょう…」
「その場で首を落とされるなんてもっとイヤじゃ!超~ビビるではないか!…」
「では、あそこの白旗と降参の文字は、我々を欺くための偽りですかな?」
ヒューズ司令長官は、バルコニーにはためく白い布を指差して言った。
「ああ、あれは白旗ではなく単なるシーツじゃよ♪ 厳密に言えば白でもなく、何日も洗濯してないから汗でだいぶ黄ばんでおるし、中央には黄色のドット模様も…」
「黄色のドット模様?」
「恥ずかしながら……オネショの跡じゃ」
「我々をとことん侮辱するつもりか!」
ヒューズの激昂と合わせるように、衛兵たちの銃口が一斉にロシュフォール国王に向けられた。
「まぁまぁ、そう怒りなさんな、降参したのは本当じゃ。白旗なんて用意しとらんかったから仕方なしにシーツを使っただけじゃて」
「く!……貴様…」
張りつめた緊張感の中、一人のタラモア兵が王室に駆け込んできた。
「ヒューズ長官!」
「どうしたというのだ?」
タラモア兵はヒューズ司令長官に歩み寄ると、何やら耳打ちする。
「何?!それは本当か?」
「は!城内をくまなく探しましたが、どこにも…」
「そうか……引き続き捜索を続けよ」
「ははっ!」
タラモア兵は再び王室を出ていった。
「ロシュフォール国王…」
「なんじゃ?」
「財宝はどこへ隠された?」
「はて?お主もおかしな事を聞くのぉ…我がロシュフォール王国がグランサム連邦No.1の貧乏国家なことくらい、お主も知っておろう…」
「それでも金貨一枚も残ってないことなど有り得ない。どこへ隠したか、正直に話してもらおう」
「正直に言えば、確かに数日前までは貧乏なりに金貨や財宝の蓄えはあった…ところが、ある国が黒火薬の値を高騰させたせいで、苦労して貯めた金銀財宝がスッカラカンになってしもたんじゃ…」
「黒火薬だと?それは我がタラモア帝国の専売特許品ではないか!どこの国から買ったか、正直に申せ!」
「お主もとことんアホじゃの…」
「まだ愚弄するか!私の掛け声ひとつで貴様の命など…」
「タラモアじゃよ」
「………何?」
「わざわざ血眼になって城中を探さなくても、我が国の金銀財宝は、とっくにお主の国に流れておったわけじゃ♪ 嘘だと思うなら、国に帰って国中の黒火薬を扱う店をシラミつぶしに当たってみればよい、どの店も大繁盛してるはずじゃて♪」
「なぜ敵国に金銀財宝を売り払ってまで、それほど大量の黒火薬を?…何が目的だ!?」
「お主が頭の固いやつで助かったわぃ♪」
「…………?」
ロシュフォール3世は、虚空を見つめ、穏やかに微笑んだ。
(もう十分に時間も稼げたじゃろう…ワシの役目はここまでじゃ…あとの事は任せたぞ、モスタール、エルドレッド…そして、アイン…)
「実に楽しい人生じゃった!!☆☆☆☆」
ロシュフォール3世は、最後にそう叫ぶと、玉座の肘掛けにあったボタンを押した…。
ドッカーンっっっっ!!!
ロシュフォール城は木っ端微塵に吹き飛んだ。
あまりに激しい爆発は、山々にこだまし、地鳴りとともに遠く離れた隣国まで届いたという…。
「………!!」
北の森を抜け、山岳地帯に差し掛かったモスタール宰相も
「………!!」
北の森を行軍中のビルニス率いるロシュフォール兵も
「国王陛下…あっぱれでございました…」
馬上で涙するエルドレッドも
それぞれに待ち受けるこの先の運命を知る者はいなかった……
※※RENEGADES ひとくちメモ※※
【黒火薬】
古代遺跡で見つかった文献を元に、以前から発明されていた火薬に改良を加え、その火力や爆発力を格段に向上させたもの
火薬の色合いから、以前からあるものを白火薬、改良されたものを黒火薬と呼ぶ
その製法は、発明したタラモア帝国の科学者しか知らず、タラモア帝国の専売特許品となっている
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