【#39 アインの一計】

-5107年 3月21日 15:22-


バラザード王国 マジャン城 王の間



ミカの薬によって意識を取り戻した全員が、暫くの間、自分の身に何が起こったのか理解出来ずにいた。

「皆ようやく意識を取り戻したみたいだな…まずは一安心だ」

全員が声のする方へ目を向けると、そこにはアインとパルマ、そして二人に挟まれる形で、手配書でしか見たことがない女がいた。

「そ、そいつは……鉄仮面の女!!」

「おぉ♪見事に取り押さえたのか!」

「アインさんパルマさん、やりましたね☆」

皆が一様に、驚きと歓喜に沸きたった。


ミカはアインとパルマとの打ち合わせ通り、鉄の仮面を着け、後ろ手に縛られ、さらに腕ごと体に縛り付けられた状態で二人の間に立っていた。

「俺たちの手にかかりゃ、世間で噂の鉄仮面の女もこんなもんよ♪全然たいしたこたぁなかったぜ♪……痛ぇッッ!」

鉄仮面の女を縛ったロープの端をしっかり握り、得意満面に話すパルマの爪先を、ミカはヒールの踵で踏んづけた。

「聖なる盃も盗まれずに済んだし、鉄仮面の女もこうして取り押さえることが出来た。賭けは俺たちの勝ちってことでいいな?」

アインはジャラー三兄弟に確認する。

「もちろんだ。我々の手で手配書は間違いなく回収しよう♪」

ボトレスは手配書の回収を約束した。

「バラザード国内での身の安全も保障しよう、護衛の者をつけてもいい♪」

ダビは嬉しさのあまり、護衛までつけてくれると言い出した。

「よくやってくれた☆約束通り鉄仮面の女の処遇はお前達に任せるが、どうするつもりだ?どこかの国に引き渡すのか?」

ケリンも賭けに負けたことを認め、女の処遇をアインに聞いた。

「その事なんだが……バラザード国王、ジャラー三兄弟、あなた方に俺から頼みたいことがある…」

パルマもミカも「え?」っという反応でアインを見た。当初の段取りと違うことをアインが言い出したからだ。

「何じゃ?遠慮なく申してみよ♪」

バラザード国王はにこやかに答えた。

「鉄仮面の女を取り押さえたことを知ってるのは、この部屋にいる我々だけだ。俺は今から鉄仮面の女を殺す…あなた方には、その証人になってもらいたい」

「……………」

鉄仮面の女、ミカは無言だった。

「アイン!何を血迷ったこと言ってんだ!」

パルマは珍しくアインを怒鳴りつけた。

「アイン王子、いくら処遇を任せると言っても、この王の間で刃傷沙汰は許されぬ」

バラザード国王は厳しい表情で言った。

険しい表情なのはジャラー三兄弟も同じだ。

「アイン王子よ、今日は戴冠式の日だ、処刑を望むなら別の日に別の場所で行えば良いではないか」

ダビはアインを窘めた。

「そうじゃない…皆、勘違いしないでくれ。実際にこの女を殺すわけじゃない、『鉄仮面の女』をこの世から消すだけだ」

「……どういうことなのねん?」

「この女は、二度と盗みはやらないと誓った……」

「怪盗と呼ばれた女の言うことを信じろというのか?それは無理な話だぞ、アイン王子」

国王の発した言葉に、ジャラー三兄弟も大きく頷いた。

「今から皆にこの女の素顔を見せる。名前も教える。外した仮面はバラザード国王にお渡しする。だから『鉄仮面の女』は、聖なる盃を盗みに入って、捕まって、バラザードで死んだことにしてほしい…そうすりゃ素性の知られていないこの女は、鉄仮面の女という過去を捨て、これからは一人の女として普通に暮らして行けるんだ」

思いがけないアインの優しさに触れたミカは、仮面の下で泣いていた。

「なるほど、そういうことか…しかし、それではお前達に何の利もないではないか?それでも良いのか?」

ケリンは、お人好し過ぎるアインの考えが理解出来ずにいた。

「俺は利など求めてない…二度と盗みはやらないと誓った人間の心を信じたいだけだ。もしその誓いを破ったら、そん時ゃ俺がこの手で本当に殺してやる」

「アイン王子がそこまで言うなら良かろう、そもそも我々は王子に救われたんだ、その願い、聞き入れてやろうではないか☆」

「ありがとう」


緊迫した空気がおさまったのをキッカケに、アインは鉄仮面の女を縛りつけていたロープをほどいた。

「ありがとう、仮面は自分で外すわ」

そう言って、ミカは自らの手で鉄の仮面を外した。


!!………


仮面を外した素顔を初めて見た全員、驚きを隠せなかった。

「なんてキレイな人なんだ…」

ククタはあまりの美しさに見とれた。

「お主…どこかで…」

国王はどこか見覚えがあるようだった。

「ミカ…ちゃん?………」

ジャラー三兄弟は声を合わせてそう言った。

「まさか…ワシの助手が鉄仮面の女だったのねん…」

エド博士は衝撃すぎて椅子からズリ落ちた。

「初めましての人も、実は以前から知り合いだった人も、改めましてミカ=ティラーナです☆」

呆気にとられる6人をよそに、ミカは

カツン♪カツン♪

とヒールの音を響かせて国王に近付くと、テーブルの上に外した仮面を置いた。

ミカの顔を間近で見て国王はハッ!と気付いた。

「お主、さっきまで給仕していた侍女の…」

「やっと気付いた?まあ、鉄仮面の女の素顔は知らないわけだし、カツラ被ってマスクと眼鏡もつけてたらね☆」

「まさか、あのミカちゃんが実はこんな近くにいたなんて…」

「会いたかったよ~…ミカちゃ~ん」

「デートの誘い、受ける気になった?」

ジャラー三兄弟は、ミカが鉄仮面の女だったことなど気にも留めない様子で、すっかり恋する三兄弟モードになっていた。

しかし、三兄弟のメラメラと燃え盛る恋心は、ミカのミカによるミカらしいトドメの一言で、一気に氷点下まで冷やされる。

「あなた達3人の誰ともデートには行かないわ☆だって私、結婚するの☆☆☆」

「え?」

「け…結婚?…」

「どこの誰と?我々の知ってるやつか?」

「知ってるも何も…今あなた達の目の前にいる、このアイン王子と結婚するって決めたの☆」

「なんだとぉぉぉぉ?!」

「アイン王子…おめぇ…いつの間に…」

「こいつも確かにイケメンだけどよぉ…」

「アインさん、本当なんですか?」

「話の展開が急すぎて脳ミソがついて行かないのねん…どーゆーことか、しっかり説明して欲しいのねん」

気を失ってる間に進展した想像を絶する急展開を、誰もが受け入れられずにいた。

「皆、誤解しないでくれ。俺は結婚するなんて一言も言ってねぇし、もちろん約束もしてねぇ、今は誰とも結婚する気すらねぇんだからよ…」

アインは本当のことを述べた。

「そ♪私が一方的に決めたの♪今日限りで鉄仮面の女は卒業して、これからは身も心もアイン王子に尽くして、いつの日か必ずお嫁さんにしてもらうって☆」

ミカも新たな人生の目標を語った。

「でもミカちゃん、アイン王子は結婚する気などないんだぞ?鉄仮面の女は今日この場で死んだことにしてやるから、もう一度よ~く考え直せ…」

「アイン王子も悪い男じゃないが、今となっては何の後ろ楯もない一匹狼だ…それに比べて俺たちには数万人のマフィアがいる、俺たちじゃなきゃミカちゃんは守れないよ?」

「イケメン度だって俺たちは負けてないはずだ。俺たち三人だってデート以上の…正直に言えば結婚まで考えてるんだ。ミカちゃんと結婚することを望む男の中から結婚相手は選んだ方が良いんじゃないか?」

諦めきれない三人は、それぞれ最後の猛アピールを開始する。しかし…

「三人とも、とても有難い申し出だけど、勘違いしないで? 少なくとも私は、お金も地位も立派なお城も必要ない、それに、自分の身は自分で守るわ。誰の助けも必要としない、もちろんアイン王子の助けもね。いいえ、どちらかと言えば、私がアイン王子を守ってあげたいの☆ 私は、与えられる愛より、与える愛を尊いと思う女なのよ☆ そして最後にこれだけは言っておくわ……私は決して見た目で選んだワケじゃない、アイン王子の心に惹かれたのよ☆」

「……………」

三人に返す言葉は見付からなかった。

「ワハハハハ♪こりゃあ完膚なきまでに打ちのめされたの♪男なら潔く諦めろ、お前達3人の完敗じゃ♪」

「ボス………」

国王にそう言われては、ジャラー三兄弟は恋心を圧し殺し、男らしく、潔く引き下がるしかなかった…。


「ミカと申したな?身も心も尽くすとは、これからどうするつもりだ?」

国王はミカに尋ねた。

「ずっとアイン王子の隣にいますわ☆」

「俺たちと共に…旅に連れていきます」

アインはキッパリ断言した。

「何?」

「えぇェェェェェっっ!!」

ジャラー三兄弟も驚いたが、一番驚いたのはククタだった。

ククタは答えを求めるようにパルマを見つめる。

パルマは少しだけニヤけて、黙って頷いた。

「して、旅の、次の目的地は決まっているのか?」

国王の問いに、アインは言葉を詰まらせた。

次の目的地など何も考えてなかったからだ。

「もちろん決まってますわ♪」

すかさずミカが助け船を出す。

「どこへ行くのだ?必要なら国境まで護衛をつけるぞ?」

「ありがとうございます。ですが護衛は必要ありません、俺たちだけで大丈夫です」

「そうか…で、どこへ向かう?」

「ホーブロー神国♪…ですよね?アイン王子☆」

「あ、あぁ…ホーブローだ…。俺たちはホーブローへ向かう」

「なるほど…それで、鎖国中のホーブロー神国と唯一国交のある我がバラザードへ来たというわけか…」

「そ、そうだ…ホーブローへの橋渡し役をお願いしたい」

「それは構わんが…なぜまたホーブローなどへ?魔術に関心でも?」

「それは…その…」

またもや言葉に詰まるアインに、ここでもミカが助け船を出す。


「私の生まれ故郷だからよ☆」




※※RENEGADES ひとくちメモ※※


前回のひとくちメモで、イラスト添付の方法を皆さんにお伺いしたところ、親切な方から回答をいただき、おかげさまで添付方法が理解できました♪(^^)

今後、近況ノートに、RENEGADESにまつわるイラストなんかを載せて行こうと思います☆

載せた際は、ひとくちメモでも報告しようと思ってるので、興味ある方は覗いてみてください(^o^)


これから更に頑張ります!  飛鴻

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