【#38 意外な結末】
-5107年 3月21日 14:07-
バラザード王国 マジャン城 王の間
(1… 2… 3… 4… 5…)
パルマは、二人の口付けを見ながら、心の中でカウントしていた。
(長ぇなぁ…つーか俺は何を見せつけられてんだ…)
アインの背中に回された女の腕は、淫靡に、優しく、ゆっくりと背中を撫でていた。
そして、パルマの心の中のカウントが10回を数えた頃…
女は突然アインを突き飛ばし、驚きの表情でアインから距離をとった。
「何……これ……あなた何者?…」
女は困惑し、同時に動揺していた。
「俺は何者でもない…フツーの人間だ」
口の周りが真っ赤な口紅で彩られたアインの表情は、真剣なのになぜか滑稽に見える。
「これのどこがフツーなの?少なくとも、そこら中にいるフツーの男とは明らかに違うわ…」
「何が言いたい?」
「フツーの男は、私を見ただけで興味を持ち、近づくだけで下心を抱き、肌が触れ合えば欲望を剥き出しにする…あなたのお友達なんて、私を見ただけで欲望丸出しなのに……それなのにあなたは…」
「おめぇが女ってことは認識してる。そんな胸のデッカイ男はいないからな…。だが、それだけだ…相手が男だろうと女だろうと、倒すべき相手ってことに変わりはねぇだろ…」
「たいていの人は、様々な欲望や考えが心の中を支配して、くすんだ世界が渦巻いてる…しかしあなたは…あなたの心の中は…どこまでも澄み渡っていて、仲間を思う心と祖国を思う心…タラモアを倒すこと…それと、まだ小さくて何だか分からないけど、心に芽生えたばかりの新しい思い……それ以外は見当たらない……今まで多くの人の心を覗いてきたけど、こんな事は初めてよ……」
「当たり前だろ…ホントのことだ」
「こいつ、ガキの頃から根本的に単純つーか単細胞つーか…基本、何も考えてないんスよ、だからじゃないっスかねぇ?」
パルマの言葉など丸っきりスルーして、鉄仮面の女は少し考え込んだあと、突然、
「私の負けね……あなたには勝てないわ…」
と言い出した。
「は?」
「へ?…まだ今なら動けないアインをコテンパンにやっちゃえますよ?」
「これ以上戦っても何の意味もないわ…仮に動けないあなたを散々に傷付けたとしても、私の気持ちは少しも満たされない…あなたの心を覗いてしまった時点で、私の心が負けたのよ…」
「じゃあ、どうすれば気持ちが満たされるってんだ…?聖なる盃を盗み出せりゃ満足なのか?それじゃあ俺の気持ちがスッキリしねぇんだよ…しっかり白黒つけさせろ!」
「もはや聖なる盃なんて、どうでもいいわ…私の中でお宝や情報を盗み出すのは単なるゲームでしかないの…最高のスリルを味わえるゲーム…」
「てめぇ…スリルを味わうためだけに盗みを働いてたってのか?しかもゲーム感覚で?ふざけんなよ?」
「ふざけてなんかないわ…でも、そのゲームに私は今、初めて負けたの…自ら墓穴を掘った形でね……だから、あなたとの勝負も、聖なる盃も、どうでもよくなっちゃったわ…」
「俺はどうでもよくねぇんだよ!」
「あなた、無抵抗な女を打ちのめす気?」
「そりゃあヒドイ!ヒド過ぎる!無抵抗なレディーに暴力を振るうなんざ、男のやることじゃねぇ!こんな美人が負けを認めてんだ、受け入れてやれよ、アイン」
「パルマ…お前どっちの味方なんだ…」
鉄仮面の女とパルマにあーだこーだ言われて、アインは怒りを鎮める他なかった…
「で、どうすんだ?…動けねぇ俺とパルマをこのまま放置して、盃かっぱらってトンズラか?」
「それはそれで仕方ないっスね…事実上、姉さんの勝ちだし、放置プレイってのも女王様キャラの姉さんらしいし☆」
「言ったわよね?もう聖なる盃には興味ないって…。それに私の、鉄仮面の女の正体も名前も知られてるあなた達を、このまま放置して逃げ出すわけにもいかない…悔しいけど」
「じゃあ、どうする?息の根を止めるか?」
「いやいやいやいや、それはちょっと残酷過ぎやしませんか?」
「そんなヒドイ事はしないわ、命は取らないのが私のポリシーだから…。今、私が一番悔しく思ってること、わかる?」
「計画が丸潰れになったことか?」
「イイ男2人を前にして、どちらも選べないってこと?」
「違うわ……特にあなたのは大ハズレよ」
女はパルマに冷めた視線を送った。
「私を見ても、アイン王子の心が微塵も動じなかったこと…私を♀として見られなかったことが悔しいのよ…女としてのプライドまで傷付けられた気分だわ…」
「お、俺は見てますよ!美人だしグラマーだし、最高にイイ女だって☆」
「あなたには聞いてない。でも、それがフツーの男の反応…。アイン王子に、男の反応を示してもらえなかったことが悔しいのよ」
「それは…何て言うか…心を傷付けてしまったなら悪かった…スマン」
「謝らないで…。でも、そのお陰で人生の新たな目標が出来たわ♪」
鉄仮面の女の表情は明るく、大きな瞳は夢と希望に輝いていた。
「人生の新たな目標だと?何だそりゃ…大袈裟だな」
「いや、目標を持って生きていくことは大事っすョね!俺は応援します!」
「私、アイン王子のお嫁さんになる!」
「あぁ?!」
「今、何ておっしゃいました?よく聞き取れなかったとゆーか、俺の脳ミソが理解することを拒否ってるんですが…」
「何も今すぐ結婚して下さいってワケじゃないわ……人生で初めて私を♀として見なかったあなたの心を、いつか私に振り向かせて私色に染め上げる…これが私の新たな目標☆ そうしないと、このまま負けるのは悔しいもの…」
改めて女の言葉を聞いたパルマは、テーブルに突っ伏したまま再び気を失いそうだった…
「俺は嫁をもらうつもりなんかサラサラねぇよ…」
「今はそうでも、いつか『結婚しよう』って言ってもらえるように、ずっと隣にいて、何から何までお世話するわ☆ 私、こう見えて実は尽くすタイプなの☆」
「ドSな女王様キャラなのに?俺はその今まで感じたことのない魅力に惹かれてるんですけど…」
「あなた本当に分かってないわね…フツーの男にはドSの女王様キャラでも、心に決めた男性の前だけは従順なドMなの☆それがホントの私☆言われた事は何でもやるわ☆」
「う、羨ましすぎるッッ!…(ToT)」
「じゃあ仮に、俺がその心に決めた男性だとして…俺が、もう盗みはやるなと言ったら、二度とやらないのか?」
「もちろん♪あなたがそう言うなら☆」
「……………」
「何かちょっと腹立ってきたな…何でアインばっかりオイシイ感じになってんだ?…俺は、これから始まる恋物語のプロローグでも見せられてんのか?」
「もうひとつ気になってんだが…ずっと隣にいてとか言ってなかったか?」
「言ったわ☆これから私、あなた達と一緒に旅をする♪ダメって言われても、それだけはあなたの言いつけを無視して着いて行くわ☆だって私の人生ですもの、どうしようと私の自由でしょ?」
「それはそうだが…」
「いいじゃねーか、アイン♪こんな綺麗な女性と一緒に旅が出来るんだぜ?華があって楽しくなること間違いなしだ!……ただ、イチャイチャするのは勘弁してくれよ、ムカつくから」
「あなた達のお荷物にはならない自信だってあるわ♪いちお医者だし、戦いだって強いんだから☆それでも同行を認めてもらえないなら、大陸中にあなたの居場所を言いふらすわよ?もちろんタラモアにも」
「ち!ここでもまた交換条件かよ………わかったよ、好きにすればいい」
「さすがアイン♪懐がデカイねぇ♪」
「認めてくださるのね☆嬉しい☆」
「ただし条件がある…二度と盗みはやらないこと。それと、一緒に旅をする以上俺たちはチームだ、勝手な行動は許さねぇ。足を引っ張るような事をしでかしたら即追放だ、いいな?」
「わかりましたわ☆ 私、ミカ=ティラーナ、チームのお力になれるよう、最善を尽くしますわ☆」
「俺はパルマ。アインとは兄弟みたいなもんだ♪ヨロシク☆」
「兄弟なワケないでしょ?心の美しさが違いすぎるもの…」
「………何か俺には冷たくねーか?(-_-)」
「これから一緒に旅を続ければ、そのうち仲良くなるさ☆ そんなことより、問題は、今は気を失ってるここの全員に、この事をどう説明するかだ…」
「それより先に、まず俺たちの体の自由を取り戻してくれよ。解毒剤あるんだろ?」
「もちろんあるわ。私が開発した薬なのよ?当然、反作用の薬も用意してあるわ♪ちょっと苦いけど、二人ともコレ飲んで」
ミカは、アインとパルマの口に錠剤を押し込んだ。
「オェ…にげぇ!」
「アイン、よく水なしで飲めたな…俺まだ喉の途中に引っかかってる気がする…」
ほどなくして、突然体の自由を取り戻したアインは、剣を鞘に納めると、パルマの口に水を流し込んだ。
「それにしても、どっちも凄い薬だな…」
「あなた達は意識があったから錠剤を飲めたけど、気を失ってるこの人達は錠剤は飲み込めない、だから二人ともちょっと離れてて」
「何をする気だ?」
ミカは腰に下げた袋から、アインにぶつけたのと同じような小さな球を取り出すと、それを皆が突っ伏しているテーブルに投げ付けた。
弾けた球から発生した黄色い霧のような煙が、気を失ってる全員を包み込む。
「これで5分もすれば全員気がつくはずよ。皆には私から全てを説明するわ」
ちょうど5分後、計ったように全員同時に意識を取り戻した。
※※RENEGADES ひとくちメモ※※
今回は、私の愚作を読んでいただいている皆さんに質問とゆーか、知ってる人がいたら教えてほしいことがあるのですが…(^^;)
他の方の作品を読んでいると、たまにイラスト付きのを見掛けるんですが、あのイラストって、どうやったら添付出来るんでしょうか?……
もし自分でもやり方が分かれば、例えば、この物語のグランサム大陸マップだったり、私自身がイメージする登場人物のイラストなんかを載せたいなぁ…なんて思ってます(^^)
もし、やり方を知ってる人がいたら教えていただけると幸いです☆
ヨロシクお願いしますm(._.)m
引き続き、執筆活動がんばります♪ 飛鴻
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