【#37 セックステレパス】

-5107年 3月21日 13:44-


バラザード王国 マジャン城 王の間



アインは剣先を鉄仮面の女に向けて言った。

「女だからって容赦しねぇぞ…覚悟は出来てんだろうな?」

「死ぬ気で来ないと、万が一にも勝ち目はないわよ♪」

鉄仮面の女は、輪になったロープの束を腰の左右にぶら下げていた。その1本のロープの束を外すと、片方の端を握って身構えた。

「武器はそのロープか…たかがロープで剣と向き合うなんざ、てめぇ頭沸いてんのか?」

「ロープじゃなくて鞭よ♪長年愛用のMy鞭♪頭沸いてるかどうか試してみるといいわ♪いつでも掛かってらっしゃい♪」

「んじゃ、遠慮なく行くぜ!…ぬぉぉりゃぁぁぁッッ!」


広い王の間で、アインと鉄仮面の女との距離は10mほど。

その間合いをアインは最初の踏み出しで半分にまで詰める。驚くべき脚力だ。

ところが、鉄仮面の女の鞭のよる攻撃スピードはアインの人間離れした脚力を上回った。


「…!!」

突進するアインの眼前に、鞭の先端が迫っていた。

アインは上体を反らし、間一髪でそれをかわす。

しかし、体勢を崩したアインは、一度伸びきった鞭の「戻りの追撃」までかわすことは出来なかった。


ビシーンッッ!


鞭の先端がアインの背中にヒットする。

「く!……」

鞭が当たった部分の服は裂け、血が滲んだ。

「なるほど…長年愛用しているだけあって、扱いに慣れてやがんな…厄介な武器だ…それは認めてやるよ」

「あなたこそ、最初の一撃を寸前でかわすなんて、威勢がいいだけじゃないことは認めてあげるわ♪でも、鞭が2本に増えてもかわせるかしら?ね、王子様♪」

鉄仮面の女は、もう1本の鞭も腰から外し、二丁拳銃ならぬ二丁鞭で構えた。

「次は私から行くわよ♪覚悟しなさい♪」

鉄仮面の女の動きには、一切の無駄がなかった。

腕全体を振るうわけではなく、手首をほんの数センチ上下に動かすだけで、そこから生み出された波が鞭に伝わり、増幅され、猛烈なスピードと破壊力を先端まで届けていた。

しかも、手首の僅かな動きで、まるで鞭自体に意志があるかのごとく変幻自在に軌道を変えてくる。

前後左右から間髪入れず襲いかかる2本の鞭の攻撃に、アインは体を翻し、剣で弾き、なんとかそれを凌いでいた。

「アハハハハ♪避けるだけでは私に勝てないわよ?」

「っるせぇ!今攻略法を考え中だ!」

鉄仮面の女の鞭は、先端に刃物が付いているわけではない。

それなのに、擦っただけでアインの服は切り裂かれ、かわし切れずに軽く触れただけでアインの腕や頬には一文字の細い血が滲んだ。


(くそっ……コイツの言う通り、避けてるだけじゃ埒が明かねぇ…せめて片方だけでも大きく弾いて、間合いを詰める進路を作らねぇと)


一か八か、アインは1本の鞭を剣で大きく弾いた。

それが思わぬ結果を招いてしまう…

被害を被ったのは、テーブルに突っ伏して気を失ってるパルマだった。

軌道が変わった鞭が、パルマの頬に命中したのだ。


バシンッ!!

「痛っっでェェェェェェーッッ!」


気を失っていたパルマは、あまりの痛みに一瞬で目を醒ます。鞭が当たった頬は、赤くミミズ腫れになっていた。

しかし、意識を取り戻しただけで体は動かせない。まだ薬が効いているのだ。

パルマは、テーブルに突っ伏したまま、目の前で繰り広げられている光景を理解するのに苦労していた。

「アイン…お前何やってんだ?」

「見りゃ分かるだろ!勝負の真っ最中だ!」

「あら?お友達も意識が戻ったの?…おかしいわね…私の薬が効果ないなんて…」

「一応コイツもガキの頃から耐性つけてきたからな!ただ、サボってたせいで中途半端なんだよ!」

「あら、そうなの?じゃあ、そこでお友達が負けていくのをイイ子に見学してなさい♪」

喋りながらも鉄仮面の女の攻撃は続いた。

アインも相変わらず攻撃の糸口が見出だせないままだった。

「アイン…誰だ、その変態?」

「こいつが鉄仮面の女だ!」

「そいつが鉄仮面の女か…見たまんまじゃねーか…てゆーか何で顔は隠してるくせにビキニなんだ?隠すなら逆じゃね?フツー…」

「んなこたぁ知るか!露出狂なんだろ!」

「ま、見てて損はねぇからいいけどよ☆巨乳だしナイスバディーだし、動くたびにブルンブルン揺れて…たまンねぇな☆」

「少し黙ってろ!気が散るだろ!!」

アインは、己の言葉通り集中力を欠き、防戦一方にも関わらず防御に一瞬の隙が生じた。

鉄仮面の女がその隙を見逃すはずがない。

まず、剣を握るアインの手首に2本の鞭が巻き付いた。

「ち!…しまった……」

2本の鞭のグリップを片手にまとめると、鉄仮面の女は腰に下げた袋からビー玉ほどの大きさの球をいくつか取り出し、剣を振るうことが出来なくなったアインに向かって投げつけた。

アインの顔や体に当たった小さな球は弾け、白い粉を撒き散らす。

「ゴホッ…ゴホッ…!……何だこの粉は…」

「アハハハハ♪まともに吸い込んだようね♪あなたの耐性がどれほどのものか、楽しみだわ☆」

「…っきしょう……体が……動かねぇ……」

「どうしたんだ、アイン!…チェンロンのおっさんと同じ技か?」

「いや違う…これは気じゃねぇ……体の動きを封じる薬だ」

「さすがの耐性も、まともに吸い込んだら耐えられなかったみたいね♪それでも意識を保ってるだけ驚きだわ♪」

「動きを封じてからトドメを刺すのか」

「言ったでしょ?私は物は盗っても命は取らない…でも私のホントの責めはここからなの☆」

鉄仮面の女は、ゆっくりと、腰をくねらせながら妖艶な動きで一歩ずつアインに近づく。

「何をする気だ……」

「な、何だか、見てるだけの俺の方がドキドキしてきた…」

鉄仮面の女は、アインの目の前まで来て止まる。その距離は50cm…。お互いの呼吸を感じられるくらいの距離だった。

そして、何も言わずに鉄の仮面を外した。

仮面の下から現れたのは、ピンク色の長い髪と絶世の美女と呼べるほど美しく整った顔…

(と…とんでもねぇ美人さんじゃねーか…)

パルマは、あまりの美しさに見とれ、言葉が出なかった。

「アイン王子、今からあなたの心の中を覗かせてもらうわ☆…その後で、眠らせて、記憶も消してあげる☆」

「俺は何も喋らねぇぞ…」

「何も話さなくていいの♪神が私に与えた力『セックステレパス』で覗かせてもらうだけだから☆」

「セックステレパス?何だそりゃ…」

「何か…言葉の響きヤベェな…俺はこのまま見てていいのか?」

鉄仮面の女は、アインの上着を破り、筋肉質で引き締まった上半身を露にした。

「私はね、相手の体に触れただけで、相手の考えてることや心の中が見えるの♪手で触れるよりも抱き合って肌を重ねる方が、肌を重ねるよりももっと敏感な唇を重ねる方が、より強くハッキリと相手の心の中が見える……それがセックステレパス☆」

「そうか……そうやって今まで機密情報や隠し場所を聞き出してきたわけか…」

「力ずくで聞き出したわけじゃないわ、相手の方から勝手に提供してくれるのよ☆」

「確かに、そんだけの顔とそのスタイルじゃあ、男の方から寄ってくるのかもな…それでその手に入れた情報を元に、難なくお宝を盗み出し、最後は眠らせて記憶も消す…そりゃあ捕まらねぇわけだ…」

「重要な情報を持ってる人は、それなりの年齢で、それなりの立場もあって、たいてい奥さんがいる…盗み出された原因が自分の下心にあったなんて知れたらそれこそ一大事…だから私の素性が公にならずに済んでるの♪」

「なるほどな…。それならなぜ俺を狙う?俺はお宝情報なんか持ってねぇぞ」

「あなたの心の中を覗いてみたいのは、単なる私の好奇心よ☆」

「あのぉ…俺の心の中も覗いていいですよ?俺はそいつみたいに抵抗しませんし…」

「あなたには興味ないわ♪ごめんなさいね☆」

パルマは身動き出来ないまま、テーブルに突っ伏した状態で泣いていた。


「じゃあ、あなたの心の中、覗かせてもらうわね☆」

鉄仮面の女の大きな瞳の奥が赤く輝いた。

「てめぇ…特異種か…」

「世間ではそう言うらしいわね♪ま、私の特異な能力はセックステレパスだけだけど♪」

そう言いながらアインの両頬に手を添え、瞳を閉じて距離を縮める。

「や…やめろ…」


二人の唇が重なった…




※※RENEGADES ひとくちメモ※※


【セックステレパス】

鉄仮面の女=ミカ=ティラーナの特異能力


能力の内容は本文中で鉄仮面の女本人が話しているので、ここでは執筆中の裏話を…


このセックステレパスという言葉、実は私が昔読んだ探偵物の小説の中に出てきたもので、女スパイがその能力を使って相手の持つ秘密を入手するためにドッキングするという、もっと露骨でエグい表現で描写されていました

RENEGADESでも同様に、露骨でエグい、官能小説並みのエロ表現にしたろかな…とも思ったのですが、主人公であるアイン王子がお相手であることと、この物語のここまでの全体的な流れを考慮して、かなりマイルドにした次第であります…


超エロい表現にした方が、ハートたくさん貰えたかもな…なんて思ったりして(^^;)


つーことで、引き続き頑張ります☆  飛鴻

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