【#36 鉄仮面の女】

-5107年 3月21日 12:11-


バラザード王国 マジャン城 謁見の間



「鉄仮面の女を取っ捕まえりゃいいんだな?」

「そうだ。それが賭けの条件だ」

「捕まえて、身柄を引き渡せば、この賭けは僕たちの勝ちってことですね?」

「我々は、聖なる盃が奪われなければそれで良い。捕まえた後の処遇はお前たちに任せる、好きにすればいい」

「え?その鉄仮面の女ってやつは、連邦各地から懸賞金付きの手配書が配られてんだろ?好きにしていいってことは、どっかの国に連れてって、懸賞金と交換してもOKってことだよな?」

「もちろんだ。あいにく我がバラザードからは懸賞金付きの手配書は出ていないのでな」

「だったら、さっさと捕まえて、一番高い懸賞金出してる国に連れて行こうぜ♪」

単純なパルマは、この時点で既にヤル気満々になっていた。

「この賭けに勝てば、アインの身の安全は保証され、バラザードのお宝は守られ、俺たちも貧乏暮らしからおさらばできる♪皆がWinWinじゃねーか♪やってやろうぜ、アイン!」

鼻息の荒いパルマに対し、アインの表情はまだ険しいままだった。

「連邦各国から指名手配されるような相手だ、そう簡単に事が運ぶとは思えねぇ…」

「確かに、簡単に捕まるような相手なら、もうとっくにどこかの国で捕まってるでしょうし、捕まえられないからこそ高額な懸賞金がついてるわけですし…」

「その聖なる盃のことも鉄仮面の女のことも、一つでも多くの情報を掴んでおく必要があるのねん」

「もちろん可能な限り情報は提供しよう。こちらが賭けに有利になるような裏工作などするつもりはない。しかし、鉄仮面の女に関する情報は、ほぼゼロに等しいのが現実だ…」

「まず、その挑戦状に書かれていた期限はいつなんですか?」

「今日が期限だ。挑戦状が届いたのが一週間前…幸い今日までは盃が盗まれたという報告は上がっていない。だが今夜、戴冠式が行われるのだ。聖なる盃が人目に晒されるのは何十年に一度、その戴冠式のときしかない」

「つまり今夜、俺たちの兄貴が親父から盃を受けるんだ」

「我らの兄が、次の国王になるのだ」

弟の二人、ダビとボトレスは誇らしげに言った。

「んじゃ、どう考えてもその時が一番怪しいんじゃねーか?その時以外は、どこかに隠されてんだろ?俺がもし『怪盗パルマ様』だったら間違いなくその何とか式を狙うね」

「普段の隠し場所は我々も知らない…国王しか知らんのだ」

「とゆーことは、今日どこかのタイミングで盃を隠してある場所から表に出される時があるわけですよね?…そう考えると、聖なる盃を盗み出すチャンスは、隠し場所から持ち出された時から、戴冠式の最中、そして新たな場所に隠されるまでの間ということになります…城内の警戒体制はもちろんですが、現国王の警護を強化しておくべきでは?」

ククタらしい鋭い洞察力から導き出された的を得た指摘は、ジャラー三兄弟も揃って納得した。

「確かにそうだな。急ぎ親父の所に行こう」

三兄弟に連れられて、全員、王の間に移動した…




-5107年 3月21日 12:58-


バラザード王国 マジャン城 王の間



全員が王の間に到着すると、国王アレッツォ=パルバーニは、今まさに昼食の最中だった。

王の間には、国王の両脇に黒スーツにサングラスのボディーガードが二人、それと、食事中ということもあって侍女数人が給仕をしていた。

12人掛けの大きく細長いテーブルの上座に国王だけが座り、その国王の前にはご馳走が乗った皿がいくつも並べられていた。

「親父…いや、ボス、お食事中に申し訳ございません」

「別に構わん。急にどうした?エド博士まで一緒とは…」

「取り急ぎ確認したいことがありまして…」

「確認したいこと?……わかった。お前たちは少し席を外してくれ」

「はい」

国王の指示に従い、ボディーガードは退室していった。

「国王陛下、お久しぶりなのねん。今日は約束もなく急な訪問、申し訳ないのねん」

「よいよい、気にするな。皆、立ち話も何だ、まぁ座れ。昼食はまだであろう?」


グ~ッ………


国王の問いに答えたのは、三兄弟ではなく、パルマの腹の虫だった。

「ワッハッハ!なかなか素直な腹の虫だな♪この若者たちは?」

「エド博士の連れの者にございます、ボス」


長男ケリンは、あえてアインの正体を伝えなかった。

自らが持ちかけた賭けであることに加えて、国王もアインをロシュフォールの王子と知った上で擁護したとなれば、タラモアからの非難の矛先は間違いなく国王に向けられる。それだけはどうしても避けたかったからだ。


「そうか♪今すぐ食事を用意させよう♪おい、そこの侍女よ!」

「はい!」

「直ちに6人分の食事を用意して持って参れ!ワシの料理が冷めないうちに、急いで用意するのだ!」

「はい!かしこまりました!」

城内で働く他のおっかなそうな侍女と違い、どちらかと言うと地味なその侍女は、慌てて王の間を出て行った。

「先に召し上がってくだされなのねん」

「いや、食事は一人よりファミリー揃って食べる方が美味しいものだ☆」

「かたじけないのねん」

「それで、確認したいことというのは?」

「聖なる盃のことにございます、ボス。鉄仮面の女からの挑戦状の期限は今日、つまり、戴冠式前後しか盗み出すチャンスはありません。それは即ち、ボスが盃を隠し場所から持ち出す瞬間にも襲われる危険性があるということです」

ケリンは、聖なる盃が奪われる危険性を切々と説いた。

そこへ、「失礼します」と、先程の侍女が前菜をトレーに乗せて運んできた。

国王は、話に構わず配膳するよう手で示す。

前菜のサラダが目の前に置かれただけで、パルマはヨダレを垂らしていた。

「遠慮せず食べて良いぞ」

パルマは国王のその言葉を聞いて、待ってましたと言わんばかりにサラダにがっついた。

そんなパルマをよそに、国王は話を続けた。

「聖なる盃なら、昨日のうちに既に持ち出してある」

「本当ですか?今どこに?」

「ここだ。だから心配せずともよい」

国王は椅子から立ち上がると、座布団の下から薄い鉄の箱を出してテーブルに置いた。

「座布団の下に?聖なる盃の上に座っていたのですか?!」

「直接座っていたわけではない…こうしている限り、盗まれる心配もないだろう」

「確かにそうですが…」

ケリン以外の五人は、気まずい作り笑いをするほかなかった。

そこへ再び「失礼します」と、侍女がメインディッシュのステーキとスープをトレーに乗せて運んできた。

「来た来た♪これが食いたかったんだ♪」

パルマはまたもやがっついて、一瞬で平らげてしまう。

ひとまず聖なる盃が無事だと分かり、国王を含め、全員が食事を楽しんでいた。

ところが………


「こうなると、やはり戴冠式が……一番……」

次男のダビは、言葉の途中で突然テーブルに突っ伏してしまった。

「おい!ダビ!……大丈夫……か……」

ダビに続き、三男ボトレスまでも、同様に倒れ込んでしまった。

しかも、それだけで終わりではなかった。

その場にいた者が次々と、まるで突然電池が切れたように気絶していったのだ。

「な、なんだ?……皆どうしちまったんだ…」

無事だったアインは、あまりに突然の出来事に唖然としていた。


そんな中、ノックもなく王の間の扉が開いた。

そこには、ボディーガードでも侍女でもない、奇抜な格好をした女が立っていた。

その女は、ショッキングピンクのハイレグビキニ姿、なのに鉄の仮面を被っていた。

「てめぇが鉄仮面の女か…見たまんまだな…」

「あら?無事だったとは驚きだわ☆」

「そうか…てめぇ、さっきの…料理を運んできた侍女だな?毒でも盛りやがったのか…」

「毒を盛るなんて、そんな物騒な事はしないわ☆…私は、物は盗んでも命は取らないの☆覚えておきなさいね☆」

「じゃあ、こいつらは気を失ってるだけなんだな?」

「そうよ☆私の作った薬で眠ってるだけ☆二時間は起きてこないし、起きても前後の記憶は飛んでるの☆スゴイ薬でしょ?」

「なら良かった…それなら、てめぇを取っ捕まえることだけに集中できる」

「そう簡単に私が捕まると思って?それより、なぜあなたは無事なの?何も口にしなかったの?」

「しっかり食ったさ♪俺はガキの頃から親父に、体に害のない程度の毒を毎日飲まされて育った…体に様々な毒に対する耐性を付けるためにな。王族は、いつ、どんな手段で命を狙われるか分からねぇって理由でよ…」

「あなた王族なの?……あぁ、分かった♪どおりで、どこか見覚えある顔だと思ったわ♪あなた、ロシュフォールのアイン王子ね?タラモア発信の手配書に載ってたわ」

「そうだ…俺の名はアイン=ロシュフォール」

「自ら名乗るなんて、さすがは王子ね♪そういう男らしいとこ嫌いじゃないわ♪私の名前はミカ=ティラーナ♪ヨロシクね☆」

「鉄仮面の女が名前を知られちゃマズイんじゃねーのか?…」

「何も問題ないわ♪どうせあなたは負けて、私に心の中を覗かれたあと、薬で記憶を飛ばされるんだから♪」

「??……心を覗かれるだと?俺は例えボロボロに負けても、ぜってぇ口は割らねぇぞ……まあ、負けねぇけどな♪」

「戦ったあとに同じセリフが言えるかしら?ね、王子様☆」

「そんなもん、戦ってみりゃ分かる☆」


アインは剣を構えた。




※※RENEGADES ひとくちメモ※※


今回も、特にこれと言ったネタがないので、ちょっとした独り言を…(^^;)

今回登場した鉄仮面の女、自ら名前を名乗りましたが、このミカ=ティラーナの「ミカ」は、実は作者の従姉妹の名前から名付けたとゆー裏話があります。

私自身、昔から時間潰しレベルで小説を書いていたのですが、それをメール送信して仲間うちにだけ読んでもらってました。

従姉妹もその一人だったわけですが、ある日、その従姉妹から「せっかくだから何かに応募とかしてみたら?」と言われたのがキッカケで、勇気をだして投稿してみた…ってのが始まりなのです。

で、今でもたまに感想を聞いたりしている中で、「どんなキャラでもいいから私も物語の中に登場してみたい」とゆー従姉妹の希望を、こんな形で実現してみたわけです♪

どんなキャラ設定にしたろか…と、私自身が楽しみながら(^∇^)


こんな感じですが、これからも読んでいただいた方々が少しでも楽しんでもらえるような物語を書いていこう思います☆    飛鴻

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