【#20 宴 】
-5107年 3月14日 19:00-
キルベガン領 ラローマ村 集会所
その日の夜、村人総出の宴が催された。
そこにはもちろん、アイン、パルマ、ククタ、そしてブンバも列席していた。
初めのうちこそブンバを恐がっていた村人も、時間が経つにつれ、何も危害がないこと、逆に優しい心の持ち主ということが判ってくると、次第に警戒心を解いていった。
中にはブンバに話しかける村人まで現れた。
10年ぶりに魔物の恐怖から解放された村人は、10年間のどんよりモヤモヤした気分を晴らすかのように、宴は大いに盛り上がった。
「ラローマ村の料理は、どれも本当に美味しいですね☆」
「こら、ブンバ! 美味いからって、そんなにがっつくんじゃねぇよ!ボロボロこぼしてるじゃねーか! あ!テメーそりゃ俺の…」
「ブンバ…美味しい…好き…いっぱい…食べる…」
ククタとパルマは任務を成し遂げた達成感で、ブンバは美味しい料理を目の前にして、それぞれが興奮しているようだった。
そんな光景を眺めながら、アインは一人静かに微笑んでいた。
そこへ、盃を2つ持った村人がやって来て、アインの隣に座った。滝までの道案内をしてくれた村人だった。
「アインさん、本当にお疲れ様でした。あなた方のお陰で、ラローマ村に光が戻ったような気分です。本当にありがとうございました」
「魔物の恐怖から解放されて、いろんな誤解も解けて良かった」
「アインさん、お酒はやらないんですか?」
「はい、お酒は絶ってるんです」
「あ、道案内人の人、そいつに酒与えちゃダメですよ、酒乱ですから」
パルマが横からチャチャを入れる。
「そうですか、それでしたら乾杯の一杯だけで…」
アインは渋々了承し、二人は乾杯をした。
「先ほど、村の男衆で話し合ったんですが、これからは我々自身で、自分たちの村を守って行こうということになりました。いつまでも守り神のブンバさんに甘えてるわけにも行かない、ブンバさんにだけ苦しい思いをさせるわけにも行かないと…」
「そうですね、それが良い」
「アインさんに、それだけ伝えたかったんです。いつまでも英雄を独り占めするのも悪いので、私はこの辺で…。旅の途中、近くに来たときはいつでもラローマに寄って下さいね。では!」
村人は、民衆の輪の中へ戻っていった。
すると今度は、その空いた席に村長が座る。
「今回の一件、お主らにはどれだけ感謝しても感謝しきれん、ワシからの感謝と祝いの盃を受け取ってくれ☆」
「はぁ…」
アインは、またしても渋々乾杯に応じる。
「村長、アインに酒飲ませると後が大変ですよ、暴れだすか爆睡するか…」
パルマは村長に忠告する。
「そうか、そうか、では酒はほどほどにせんといかんな」
とか言いながら、アインの盃には既に三杯目となる酒が並々と注がれていた。
「ところで、今回、お主らに何らかの形で感謝の意を示したいという村人総意の話があるんじゃが、何か望みの物はないか?」
「望みの物…ですか…」
アインは考え込んだ。
「あ、それでしたら、旅の資金が心許なくなってるので金…イテテテ!」
アインは村長から見えない位置でパルマの足を踏んづけながら言った。
「それでしたら、是非、ブンバに着せる服を何着か頂ければ… それと、厚かましいのですが、馬が引ける荷車を1台…ククタの学術書をはじめ旅の荷物が多く、馬の疲労が激しいので」
(なんでアインは素直に金って言わねぇんだ… しかも何かイヤな予感が…)
「そんな物で良いならお安い御用じゃ、明日にでも用意しよう☆」
「ありがとうございます」
「して、今後のブンバ殿をどうするかじゃが、我々の意見としては、家を与えて今後はラローマ村の一員として迎えるつもりじゃ。まさか洞窟に帰すわけにもいかんでな」
(危ねぇ~…一時はヤバイ方向に話が行きそな気配だったけど、これで一安心だ♪)
「……………」
アインは考え込んでいた。
「俺もそれが良いと思うぜ、村の人達もブンバと打ち解けてるみたいだし、これからはちゃんと一人の人間としてラローマ村で… なぁ?アイン」
「いや…俺は………」
(待て待て待て!まさかコイツ、またとんでもねぇこと言い出すつもりじゃねぇだろな?)
「ん?アイン殿は何か考えがおありか?」
(村長ダメーッ!今コイツに意見を求めたら、話がややこしい方向に…)
「俺は………」
「絶対ラローマ村で暮らすのが良いに決まってるって!住み慣れた土地だし、食い物は美味いし、異形種退治も慣れてるだろうし、村人皆がそれを望んでるんだし…ねぇ?村長」
「ワシもそう思うが、アイン殿の考えは?」
「俺は………」
「だぁーッッ!そうだ!ブンバ本人はどうしたいか、生まれ故郷に帰りたいって言うかも知れないし、洞窟の方が住み慣れてるからそっちがイイってなるかも知れないし、ここは直接聞いてみるのが一番だと思うぜ?」
「確かに、それもそうじゃな、本人の思いを無視してワシらの考えを押し付けるのも…」
「ね?そうですよね! よ~し、じゃあ… おーい、ブンバ!お前はこれからどうしたい?誰にも気ィ遣わないでいいから、正直に言ってくれ!生まれ故郷に帰りたいとか、洞窟に戻りたいとか、この村で暮らしたいとか…」
すると、そもそも素直なブンバはこう答えた。
「アイン…パンマ…クタ…友達…俺…初めて…友達…ずっと…一緒…友達…」
( ぼけつ~ッッ!………(ToT;) )
アインは、ブンバの言葉を聞いて、ハッキリと言いきった。
「俺は………ブンバを俺達の仲間に加えて、一緒に旅を続けたいと思います」
「そうか… ブンバ殿もそれを望んでおるなら、それも仕方ないの…」
村長もそれを受け入れざるを得なかった。
(ほらね…やっぱりこうなった…(-_-;))
「ブンバ!良かったね!僕達の仲間入りだ!これから一緒に旅が出来るんだよ!」
ククタはブンバに抱きついて喜んだ。
「仲間…知らない…分からない…仲間…」
「仲間っていうのはね…友達より、もっと強いんだ!ココとココ、心が繋がってるのが仲間なんだよ!それを絆って言うんだ☆」
「仲間…心…絆…ブンバ…仲間…うぉぉぉぉん」
ブンバはククタの言葉を理解し、ククタを抱きしめて泣いていた。
「もう…どうなったって知らねぇからな!」
パルマは愚痴りつつも、心のどこかで喜んでいた。
「……………」
アインは、たった二杯の酒で爆睡していた…
翌朝。
昨夜、そのまま公民館に泊まらせてもらったアインら一行が身支度を整えて表に出ると、そこには村長はじめ村人たちが大勢集まっていた。
「此度はお主らにたいへん世話になった。これはワシらからの餞別じゃ」
そこには、昨夜アインが望んだブンバの服と、馬が引くことの出来る荷車が1台用意されていた。
アインたちが乗ってきた馬4頭に加えて、馬まで2頭追加されており、そのうち3頭が並んで荷車に繋がれていた。
さらに驚いたことに、荷車には立派な幌が付いていて、中はブンバが寝れるほどの広さだった。その荷車の中には、ラローマ村で獲れた様々な野菜や肉の燻製がテンコ盛りになった木箱まで積まれていた。
「スゲェ!もはや馬車だな♪」
「うわぁ♪食べ物もこんなにたくさん!ありがとうございます☆」
「俺達の方こそ、今回はいろいろとお世話になりました」
パルマとククタは荷台ではしゃぎ回り、ブンバは早速もらった服に袖を通した。
「これからどこへ向かうんじゃ?」
「イダゴ村の情報を集めに、ひとまずシャロンの町に行くつもりです」
「シャロンか…。シャロンなら、ゆっくり行っても陽が落ちるまでには着くじゃろう。ただ、あの町は反政府運動の拠点になってる町じゃ、色々と物騒な噂が絶えない町じゃから気を付けてな」
「わかりました、十分に注意します」
アイン、パルマ、ククタの三人はそれぞれ馬に跨がり、ブンバは荷台の前方に座り、荷車に繋がれた3頭の手綱を手にした。
「またいつでも立ち寄るといい、村総出で大歓迎じゃ☆」
村長は涙ぐんでいた。
ブンバも涙ぐんでいた。
ククタも、見送りきた村人たちも、微笑みながらも皆が涙ぐんでいた。
なぜかパルマだけは大泣きしていた。
「村長もラローマ村の皆さんもお元気で☆それでは」
村人全員が手を振って見送る中、アインたち一行は、ゆっくりとラローマ村を後にした。
それから一ヶ月後…
ラローマ村の大イチョウの横に、二つの墓碑を守るように両手を広げた村の守り神の石像が建てられた。
※※RENEGADES ひとくちメモ※※
【シャロンの町】
キルベガン国内において、王都に次ぐ第二の町
工業の発展に比例して広がった貧富の差から生じた、政府や経営者富裕層と労働者貧困層の対立における反政府運動の拠点となっている
反政府運動の指導者と目される人物の両親はタラモア帝国からの移民であることから、反政府運動の実態は、政府転覆を狙ったタラモア帝国の陰謀であると噂されている
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます