【#19 大きな勘違い】
-5107年 3月14日 8:32-
キルベガン領 ラローマ村 村長宅
アインは一人、村長の家に戻ってきた。
村長は昨日と同じ上座に座り、両脇には相変わらず直立不動の二人が立っていた。
「おお!よくぞ戻られた! して、首尾よく事は進んだか?魔物は…鬼は退治できたか?他の二人はどうしたんじゃ?」
村長は期待半分不安半分でアインに尋ねる。
アインは固い表情で、しかし力強いハッキリした口調で答えた。
「二人は別の場所にいます。魔物退治は失敗しました」
「何と!失敗したのか!?」
「結論から先に言います。あの洞窟に魔物は住んでいませんでした」
「魔物など居なかったというのか?そんなはずはない、見た者はおらんが、実際に被害も出ておるのだぞ?」
「わかってます。村長も、村の人も、もちろん俺達も、大きな勘違いをしてたんです」
「大きな勘違いじゃと?」
「はい。洞窟に魔物は住んでいませんでした。そこには、ブンバという名前の人間が住んでいたんです。つまり、我々が魔物だと恐れていたもの…ラローマの鬼は人間だったのです」
「なんじゃと!?」
それからアインは、洞窟内で起こったこと、一晩かけてブンバから聞いた話、そこから最終的に導きだしたアインの答えを説明した。
「にわかには信じられん話じゃが… そのような不憫な暮らしを強いたげられた者が、あの洞窟に住んでおったとは…」
「事実です」
「では、その者が畑を荒らし、家畜を襲っておったというわけか…」
「いいえ、それも勘違いでした」
「何?毎回その場に巨大な足跡が残っておったのだぞ?証拠があるのに、それも勘違いだと申すのか?」
「はい。彼が…ブンバが荒らしたり襲ったりしていたわけじゃない。ブンバは、畑を荒らしたり家畜を襲ったりする動物や異形種を退治していたんです」
「何と!?なぜそのような事を?」
「ある人との約束を守るために」
「ある人?」
「その人はある日、たまたまブンバと出会ってしまった…。心優しいその人は、誰にもブンバの存在を明かさず、密かに洞窟に匿った…。そして、人間を忌み嫌うブンバに様々な事を教え、優しさを説いたのです…。やがてブンバもその人にだけ心を開き、その人との約束を誓った…。
人を傷付けないこと
その人が暮らす村と村人を守ること
だから村を襲い村人の暮らしを脅かす異形種を退治していたんです」
「そんな事が…」
「心優しいその人は、毎朝毎晩、ブンバに食事を運んでくれたそうです…。しかしある日、たまたまブンバは、前の晩に異形種との戦いの中で足に大ケガを負ってしまい、いつもその人が食事を運んでくれる時間に間に合わなかった…そこで不幸な出来事が…」
「まさか………」
「ブンバが何とか約束の場所にたどり着いたときは、その人はもう命を落とした後だったんです… 村外れの大イチョウの木の下で…」
「う…嘘だ……」
「ブンバはとても悲しみ、その人から貰った宝物を今も大事に飾り、毎日その人のために手を合わせ、祈りを捧げているのです…」
アインは懐から、小さな木彫りの熊の置物と手編みの襟巻きを取り出し、村長に渡した。
「こ、これは……これは……」
「その心優しい人こそ、村長、あなたの奥様です」
大粒の涙がこぼれ落ち、渡された置物と襟巻きを抱きしめた村長は、人目も憚らす声をあげて泣いていた…。
「恥ずかしいことろをお見せして申し訳なかった、でも心はスッキリしたわい。これもきっと、女房が天国から導いてくれたんじゃろう…」
「俺の話を信じてもらえるんですか?」
「いまいち気持ちの整理がつかんが、こうして確たる証拠の品もあるでな。これは紛れもなく女房が作ったものじゃよ」
「ありがとうございます。きっと村の人達は、大きな足跡だけに目が行って、他の動物や異形種の足跡には気付かなかったんでしょう…あれほどの巨体だから他より深く足跡が残るでしょうし、奥様が亡くなられたときも大雪だったと聞いています、おそらく他の足跡は雪に埋もれて…」
「多分そんなことじゃろうて…。まったく、とんだ勘違いをしたもんじゃ…。そのブンバとか言う者にも長い間苦しい思いをさせてしもたのぉ…」
「そう思っていただけるなら、今度は俺の方から村長に一つ頼みがあります」
アインは背筋を伸ばして座り直し、改まって言った。
「ん?何じゃ?」
「村人を集めて、俺と一緒に行ってほしい所があります」
「かまわんぞ、どこに行くんじゃ?」
「村外れの大イチョウの木。そこにパルマとククタ、それに……ブンバも来ています」
「!!」
村人を集め、全員で村外れの大イチョウの木に向かうと、そこにはパルマとククタ、そして二人に手を繋がれたブンバが立っていた。
「ブンバ、落ち着いて!彼らは怖くない、だから怯えなくていいんだ」
ククタはブンバに言い聞かせた。
「俺は男と手を繋ぐ趣味はねぇんだけどな…ましてや大人の男となんて… それにしてもデケェ手だな、お前の指一本しか握れねぇよ」
パルマは相変わらずだった。
怯えているのは村人も同じだった。
いくらアインと村長から説明されたとは言え、実際にブンバを目の当たりにした村人からは、
「化け物だ…」
「ありゃ人間じゃねぇ、やっぱり鬼だ…」
「殺される前に引き返そう」
といった声が、あちこちで囁かれていた。
それでもアインと村長に先導されて、なんとか村人たちも大イチョウの木に到着した。
「こうして近くで見ると、本当にデカイのぉ。ブンバとやら、ワシがこの村の村長じゃ。アインから話は聞いた、何も怖がらんでいい」
「ほら、ブンバ、さっき俺達が教えた挨拶は!まさか、もう忘れちまったのか?」
パルマはブンバに挨拶を促す。すると、
「こん…こんにちわ…俺…人間…ブンバ…名前」
と、ブンバは村人たちに挨拶をした。
「鬼が喋ったぞ!」
「人間の言葉を話す新しい異形種か?」
「恐ろしい…世も末じゃ」
村人たちは、それでもブンバを怖がっていた。
「皆の者、よく聞くのじゃ! 彼の名前はブンバといって、見ての通りとても体は大きいが、れっきとした人間じゃ。彼は滝裏の洞窟に暮らすようになってから、長い間この村を異形種から守ってくれていたんじゃ。この10年、この中で異形種を見た者はおるか?おらんじゃろう…」
「あいつが俺たちの村を守ってたって?」
「言われてみれば、確かに異形種が出たって話は…」
村人たちは、しばらくザワついていた。そこへ、一人の村人が手を上げ、村長に大声で質問をする。
「村長!何の得もないのに、彼はなぜ異形種から村を守ってくれていたんですか?」
「それが、ワシの女房との約束だったからじゃ」
「村長の奥様との約束?」
「ワシも知らんかったが、女房はブンバを昔から知っとったようじゃ。そして、ブンバを匿う代わりに、この村を、そしてこの村で暮らすお前たち村人を異形種から守ってもらう約束をしていた…」
「奥様が…」
「奥様…」
「つまりワシらは大きな勘違いをしておったわけじゃ。ラローマの鬼は、実はラローマの守り神だったんじゃ」
「俺たちはとんでもない勘違いを?」
「鬼じゃなく守り神…」
「我が息子と女房の命日である今日、その誤解は解けた!これもきっと、天国にいる二人が、アイン、パルマ、ククタという三人の勇者を遣わせてくれたからに違いない!」
「きっとそうに違ぇねぇ」
「勇者様、ばんざーい!」
「今日はその事を記念して、今宵、宴を開こうぞ!!」
「おお~ッッ!!」
村長は、見事に村人たちの誤解を解き、恐怖からも解放した。
それは同時に、村長自身の心の中を映し出したことだった…。
「良かったですね☆これで皆が恐怖から解放されました☆」
「俺達、勇者だってよ♪そんな風に言われると何か気持ちいいな♪」
「お前は大岩をブッ壊しただけで、その後はずっとビビってただけじゃねぇか…」
村人たちが宴の準備に戻った後も、三人と村長、それにブンバは、まだ大イチョウの木の下にいた。
「村長さん、僕ずっと気になってたんですけど、あそこにある2つの石碑は…もしかして」
「そう。息子と女房の墓じゃよ」
「やっぱり!良かったら僕も手を合わせていいですか?」
「もちろんじゃ☆天国の二人も喜ぶ☆」
ククタに続いて、アインとパルマも手を合わせる。
「ほんとだ、ここに小さく名前が掘ってありますね。カバラと…こっちはラローマ?」
「カバラは息子の、ラローマは……ワシの女房の名じゃ…」
「え!?じゃあ村の名前は…」
「ワシが村長になった時に改名したんじゃよ… ワシの愛した人…村人皆から愛された人…その人の名じゃ」
「……………」
「うゎぁぁぁぁん…お母さん…俺の…お母さん…俺の…俺の…うぉぉぉぉん……」
ブンバはラローマの石碑を抱きしめて、いつまでも泣いていた。
※※RENEGADES ひとくちメモ※※
今回は、特にネタも出てこなかったので、本編とはまったく無関係な話を…(^o^;)
この話に登場する人物名や地名は、どうやって考えてるのか?とゆー質問があったので、それについてお答えしますと…
グー●ルMAPを使って、世界の色んな国の地名の中からそれっぽいのをテキトーに見つけ出して引用したり、一文字だけ変えて使ったりしているのです。
アイン、パルマ、ククタ、ブンバ、ロシュフォール等々の人物名も、タラモアやホーブローやラローマなどの地名も、どれも世界のどこかに実在する地名が由来でした☆
これからもネタが出てこない時は、今回のような「ひとくちメモ」になることが考えられますので、どうかご了承下さい…m(._.)m
それでは、引き続き頑張ります("`д´)ゞ
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