【#56 大発見】
-5107年 3月25日 18:22-
ホーブロー神国 エルマ山 山頂の空洞
タロンガの墜落の衝撃で、突如として山頂に開いた穴に落下した四人だったが、先に落下した大量の雪がクッション代わりになったお陰で、四人とも大きな怪我をせずに済んだのは不幸中の幸いだった。
「みんな大丈夫か?ケガはないか?」
「僕は大丈夫です。服や靴の中に雪が入って冷たいだけで…どこもケガはしてません」
「私も平気☆雪がクッション代わりになったし、それ以上に、このブルージュの羽衣がパラシュートみたいになって☆」
「パルマは?パルマはどこだ?」
三人は辺りを見回した。
「アインさん、あそこ…」
ククタの指差す先に、雪から突き出た二本の足がジタバタともがいていた。
「!!…」
すぐさま三人は駆け寄り、雪を掘り返す。
「ブハァ~ッッ!……死ぬかと思った…」
救出されたパルマは、肩で大きく息をしていた。
「雪って想像以上に重ぇのな…這い出ようとあがいても、中で身動き一つ出来なかったぜ…」
「どう落ちれば、あんな見事に真っ逆さまに突き刺さるのよ…まぁ、パルマらしいと言えばパルマらしいけど…」
「とにかく全員無事で良かったです☆」
「ミカ、さっきパルマの骨折を治した薬、まだ残ってるか?」
「え?残ってますけど、アイン様、どこかケガされたんですか?!」
「いや、俺じゃない……アイツだ」
アインは、体のほとんどが雪に埋もれたタロンガを見つめていた。
「うわッッ!気付かなかったけど、タロンガじゃねーか!!死んでんのか?」
「いや、息はしてる…ミカの薬で眠ってるだけだろ…」
「あんな上空から地面に墜落したわけですから、命が助かったとしても、大怪我してるかも知れませんね…」
「アイン…お前まさか、コイツを助けるつもりじゃねぇだろな?俺たちはコイツに殺されかけたんだぞ?」
「成り行き上こうなっちまったけど、コイツの棲みかに侵入したのは俺達だ…攻撃されるのは当然だろ…その結果、コイツは眠らされてケガしたかも知れねぇんだ、助けてやらねぇと…」
アインの言葉に納得したミカは、誰に言われるまでもなく眠っているタロンガの体をチェックした。
「大丈夫♪翼も体も骨に異常はないみたい♪ケガしてるとしても、打撲程度ね」
ミカはそう言いながら、両足に絡まった自分の鞭をほどいて外した。
「念のため、治療の薬玉を飲ませておこう。目が覚めたら地上に戻れるように」
ミカは大きな薬玉を作り、アインとククタはタロンガの口を開け、無理矢理それを喉の奥に押し込んだ。
「目が覚めて、また襲ってきたらどうすんだよ?こんな狭い空間じゃ逃げも隠れも出来ねぇぞ?」
「大丈夫、ミカの眠り薬を大量に飲んだんだ、丸一日は起きねぇさ♪その間に俺たちはここから脱出する方法を考えよう」
「簡単に言うけどよ、穴の入口まで根性で崖を登んのか?」
「30mくらいありますね…」
「私の鞭でもあそこまでは届かないわ…」
「……………」
四人は上を見上げた。穴の入口からは夕暮れに染まる茜色の空が見える。
入口までの高さは30mほど。その高さの垂直の断崖を、体一つで登るのは不可能だということは誰の目にも明らかだった。
「どっか外に通じる横穴とかねぇかな?…」
パルマは薄暗い空洞の中を、壁伝いに歩いて横穴を探した。
「パルマさん、あまり歩き回るのは危険です。暗くて足元が見えづらいし、ここが穴の底だという保証はありません。ここより更に深い穴でもあったら…」
「!!…どわぁ~ッッ!」
まるで落とし穴に落ちたかのように、三人の視界から一瞬でパルマの姿が消えた。
「パルマッッ!」
「パルマさん!」
駆け寄ると、まさしく落とし穴にハマったという表現がピッタリの、一段深い穴にパルマは落ちていた。
「イテテテテ……」
「まったく、言ってるそばからこれだもの…ホント世話のやける男ね…」
「大丈夫かパルマ?ケガは?」
アインは小さな穴の縁から中を覗き込み、違和感を覚えた。不思議なことに、暗いはずの穴の中が明るかったのだ。
「大丈夫……俺は大丈夫だけど……これは…」
周りを見回したパルマも、頭の中の整理が追い付かない。
「これは…横穴じゃねぇよな?…何かの建物の中か?………とにかく皆も降りてきてくれ」
パルマに言われ、アイン、ククタ、ミカも、その場所に降り立った。
そこは、平らな床と垂直な壁、床と平行な平らな天井に囲まれた四角い空間が真っ直ぐ続く通路のような場所だった。
「これって…自然の横穴じゃねぇよな?」
「ああ…どう見ても人の手によって作られた人工物…何かの建物だ」
「ねぇ?なんでこの色のついたガラス光ってるの?中に松明が入ってるわけじゃないわよね?」
「これは多分、電球かと…」
「電球??…何だそりゃ?」
「古代文明では、ごく当たり前に使われていた一般的な照明です…。今の時代のランプやローソクや松明のように」
「てことは、ここはまだ誰にも知られていない古代遺跡か?…となると、俺が第一発見者じゃん!超ヤベェ☆」
浮かれたパルマの声は、通路の中にこだました。
「まだここが安全かどうか分からねぇんだ、大声出すんじゃねぇよ」
「アインさんの言う通りです。確かに大発見かも知れませんが、電気が点いてるってことは、3000年以上経った今でも電力が供給されてるってことです…つまり…」
「つまり??」
「あくまで推測ですが…この古代遺跡は何らかの施設で、ここでは今も古代人が生きている可能性があるということです」
「!!……まさか……」
ククタの言葉に三人は驚きを隠せなかった。
「隅々まで調べる必要があるってことだな」
「やめとこうぜ…ゾンビみたいなのが出てきたらどうすんだよ…」
「言われてみれば確かに、何かの施設なのかも知れないわね。見て、等間隔にドアがあるわ…」
通路と思われる空間の片側の壁面に、等間隔に扉のようなものが並んでいた。
ミカはその扉を開けようと試みたが、どの扉もピクリとも動かず、そもそも取っ手やドアノブらしきものが見当たらなかった。
「開かない…。てゆーか、取っ手もドアノブもないから、扉じゃないのかしら?」
「いや、順番に番号が書いてあるから何かのドアなのは間違いないだろう…」
「どのドアの横にも、1から0まで数字が並んだボタンがあります…もしかすると古代文明の鍵なのかも知れませんね…」
それぞれのドアの横のプレートには、1から0まで数字の刻まれたボタンがあり、その上に緑と赤の小さな電球が並んでいる。
どの扉のプレートも、赤いランプが灯っていた。
四人は通路とおぼしき空間を進みながら、それでも全ての扉をチェックしていった。
そして、突き当たりで通路が左に90°曲がったところで、パルマが言った。
「…アイン、あそこの扉、開いてねぇか?」
見ると、壁面に並ぶプレートの赤いランプの列が、50mほど先で一ヶ所だけ緑色に光っていた。
しかも、等間隔で並ぶ扉があるはずのその場所からは、淡い光が漏れている。
「行ってみよう…皆は少し離れて後から着いてこい」
アインは念のため剣を抜き、慎重に進んで行った。
しかし、恐る恐る中を覗いたアインは、すぐに剣を鞘に収める。
少し遅れて到着した三人も、その光景に言葉を失った。
「ミイラですね…」
「ああ…3000年前の古代人だ…」
「本当に死んでんのか?…急に動き出したりしねぇよな?」
「白衣を着てるってことは、何かの研究者かしら…」
開いた扉の中は4m四方の小さな小部屋になっており、部屋の中央に大きめの机、机の上には黒いガラス板のような物が3枚立って、その前にアルファベットと数字のついたボタンが並ぶボードが置かれていた。
それらと向かい合うように、白衣を着たミイラが椅子に座っていた…
アインが目を閉じミイラに手を合わせると、三人もそれに続く。
「何にも触れず、このままにしておこう…」
「それがいいわね…」
「え?机の中には古代文明のお宝が眠ってるかも知れねぇのに?」
「3000年の時を経て、私たちの祈りでやっと成仏できたのよ?魂の怒りに触れて、呪われてもいいなら持って行けば?」
「………やめておきます」
そんな中、窓のない壁一面に書かれた理解不能な数式や化学式を眺めていたククタが、ある物に目を止めた。
「アインさん、これ…この建物の見取図ではないでしょうか?」
ククタが見付けたのは、壁に貼られた一枚のプレートだった。
そこには大きな文字で『避難経路』という文字が書かれていた。
「おそらく、今いるのがこの斜線の部屋で…僕たちはこの辺りから、こう歩いてきたはずです」
ククタはプレートを指差しながら説明した。
「確かに、今まで見てきた開かない扉には、この図と同じ番号が書いてあった…。A―1、A―2、A―3…今俺たちはB―7にいるってことだな…。てことは、この先の十字路を左に曲がると、この建物の中央にあるこの大きな部屋に行き着くわけか…」
「ですね…。ひとまずこの大きな部屋に行ってみましょう」
四人は小部屋を出ると、ククタが記憶した見取図に沿って通路を進んだ。
十字路を左に曲がると、予想通り、大きな部屋に行き着いた。
部屋の入口の天井が崩れ、扉の横にあるプレートは赤いランプが灯っていたものの、崩れた天井と岩盤が扉をへし曲げ、なんとか人が通れるくらいの隙間が開いていた。
その隙間から、四人は何とかかんとか部屋の中に入ることに成功した。
「何だ………これは………」
何かの研究施設のようなその広い空間の真ん中で、巨大な円筒状の機械が
ブォン…ブォン…ブォン…ブォン…
と重低音を響かせていた。
※※RENEGADES ひとくちメモ※※
【未知の古代遺跡】
今回、偶然にもアインたち一行が発見した古代遺跡
今まで発見されてきた古代遺跡は、その後の発掘調査で、古代の工場や古代の図書館といった遺跡が多く、まだ未確認ではあるが今回のような古代の研究施設が発見されたという報告はない
遠い将来、この遺跡に第一発見者であるパルマの名が付くことを、この時点で当の本人は知るはずもなかった…
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