【#55 大崩落】

-5107年 3月25日 17:48-


ホーブロー神国 エルマ山 山頂



「へ?…」

「眉間じゃなくて、口に刺さったんじゃない?」

「いえ、刺さったんじゃなくて、咥えたんです…」

「なんてヤツだ…あんな高速の矢をクチバシでキャッチしただと?」

四人はタロンガの反応に驚愕した。

タロンガは、咥えた矢をペキッ!と折って吐き出すと、大声で威嚇しながら滑空してくる。


ギャァァァァァァァーッッ!


「完っっ全に怒らせたみたいね…」

「ククタ!何か作戦はねぇのか?次は怒らせた張本人の俺を襲うに決まってる!」

「神獣ですから学術書にも記載がなくて…」

「弱点も何も分からねぇのかよ……どうする?!アイン」

「もう一度、今度はもっと至近距離でブッ放せ!ミカはあの厄介な鉤爪に鞭を絡めて、鉤爪で攻撃出来ないようにするんだ!」

「わかった!やってみるわ!」

「至近距離って簡単に言うけどよ…メチャ怖いんだぞ…」

「それでもやるしかねぇ!俺はとにかく全力で斬る!!」

タロンガは、身構える四人に向かって猛スピードで突っ込んできた。


アインは翼に剣を振り下ろす。

「ぬぉぉりゃぁぁぁぁーッッ!!」

パルマは十分に引き付けてから矢を放つ。

「この距離でかわせるもんならかわしてみろ!」

ミカは両手の鞭を同時に操る。

「レディーを襲うなんてサイテーよ!!」


しかし、アインの斬撃は弾き返され、至近距離で放ったパルマの矢は、またもやいとも簡単にクチバシでキャッチされ、唯一、ミカの鞭だけが両足に絡み付き鋭い鉤爪の攻撃を不可能にしただけだった。

タロンガは再び上空高く舞い上がる。

「あのヤロー…なんて硬ぇんだ…チャカリヤ山脈で出くわしたダンゴ虫の比じゃねぇぞ…」

「あんな至近距離でもキャッチするって…どんな動体視力してんだよ!」

「鉤爪の攻撃は封じたけど…器用にほどかれたら…」

「神獣と言われるだけあって、武器を使った物理的な攻撃は効かないのかも知れません」

「武器を使わずに、あんなバケモノどうやって倒すんだよ?」

「それは………」

ククタは考え込んだ。

「ミカさん、エジピウスを眠らせた薬、まだ残ってますか?」

「ええ、まだ少し残ってるわ…でも、あんな高速で飛び回るタロンガに吸い込ませるのは無理だと思うけど…」

「とにかく、ありったけの薬で玉を作ってください」

「わかった。でも、あれだけの巨体にどれだけ効果があるか…」

「きっと大丈夫です。今はそれしか思いつく作戦がありません…ミカさんの薬に賭けましょう!」

「てことは、また俺の出番だな♪任せとけ、バッチリ吸い込ませてやっからよ♪」

「確かにこの作戦はパルマさんにかかってます、でも吸い込ませるんじゃありません」

「??」

「なるほど、そーゆーことか♪」

ククタの作戦を理解出来たのはアインだけだった。


ミカが残りの薬全部を使って作りあげたのは、直径10cmほどの薬玉だ。

ククタは、その薬玉を受け取ると、パルマの矢筒から矢を1本引き抜く。

「何する気だ?」

「まあ、見ててください。今は説明してる時間がありません」

「ククタ急げ!また急降下してきたぞ!」

上空を見上げ、タロンガの動きを警戒していたアインがククタに警告する。

ククタは大急ぎで手近にあったレッドカメリアの花を摘み、それを矢に刺し、薬玉も刺し、その薬玉を挟むようにもう一度レッドカメリアの花を刺した。

「何だよ、これ…」

まだ作戦を理解できないパルマが聞く。

「今回は、ミカさんの薬を吸い込ませるんじゃなく飲み込ませるんです!言い伝えを信じて、薬の効能をアップさせるレッドカメリアの花も一緒に!」

「なるほど、作戦はわかったけど…頭にこんなの付いてたら、いつものスピードは出ねぇし、狙い通りに命中するかどうか…」

「パルマさんの腕なら絶対大丈夫です!」

「私も信じるから早く構えて!」

「キャッチされたらアウトだ、さっきよりもっと引き付けろ!大口開けて襲ってくるヤローの喉の奥にブチ込んでやるんだ!」

「でもよ、こんな矢の1本や2本、あんな図体のアイツにしてみりゃ、魚の小骨が刺さったくらいにしか感じないんじゃねーか?」

「今回はブルージュの弓の攻撃が目的じゃねぇ!薬を飲み込ませることが目的なんだ!つべこべ言ってねぇで、さっさと構えろ!」

「わかったよ!!」

パルマはブルージュの弓に薬玉の付いた矢をつがえた。


ギャァァァァァァァーッッ!


四人の思惑どおり、タロンガは大きな口を開けて突っ込んできた。

「まだだ!もっと引き付けろ!!」

アインは『俺を食え』と言わんばかりに、三人の先頭に立って剣を構える。

その後ろで、パルマは目一杯の力でブルージュの弓を引き絞った。

「今だ!!射てッッ!!」

「喰らえ!バケモノ!!」


ビンッッ!


パルマの放った矢は、見事にタロンガの喉の奥に突き刺さった。

「やった!!喉の奥に刺さったわ♪」

「へへ♪これぞパルマ様の真骨頂だ♪」

「まだ気ィ抜くな!突っ込んでくる!」

喉の奥に矢の刺さったタロンガは、瞬時に口を閉じ、そのままの勢いで四人に突っ込んできた。

ものすごい勢いで滑空してきた赤い巨体に、アインは渾身の斬撃を浴びせるも傷一つ与えることなく、逆にカウンターを喰らう形で弾き飛ばされてしまう。

「ぐっ!………」

パルマもまた、赤い巨体の体当たりをマトモに喰らい吹き飛ばされた。

「ぐわぁ~っ!」

タロンガは、アインとパルマにダメージを与えると、また上空高く舞い上がる。

ククタとミカは、身を屈めてタロンガの体当たりは免れた。

「大丈夫ですか!アイン様!」

「俺は大丈夫、足首を少し挫いただけだ…。それよりパルマは?あいつはタロンガの攻撃をモロに喰らったはずだ…」

パルマは脇腹を押さえ、体を丸めて唸っていた。

「い…痛ぇ…尋常じゃねぇぐらい痛ぇ……」

「ちょっと痛むとこ見せて!」

ミカはパルマの上着を捲って痛む患部を診た。

「どうだ?ヤバそうか?」

アインは心配そうにミカに尋ねる。

「内臓まではイッてないけど、肋骨が3本折れてるわ…でも心配しないで♪この程度なら何とかなると思う♪」

「おい!ミカ!いくら他人事だからって、この程度とか、何とかなるとか、そんな言い方は酷すぎねぇか?こっちゃあマジで超~痛ぇんだぞ!」

「はい、はい♪勘違いはその辺にして、大人しくコレ飲みなさい♪念のため、レッドカメリアの花びらも一緒にね♪」

ミカは、腰袋から取り出した小さな薬玉と、その場にあったレッドカメリアの花びらを一枚ちぎって、二つを同時にパルマの口に押し込んだ。

「私が言いたかったのは『この程度のケガなら何とか治せる』ってことよ♪」

「へ?」

「まさか…パルマの骨折を治せるのか?」

「まぁ見ててください☆アイン様☆」

ミカは両手を重ね、そっとパルマの患部に当てた。

「少し熱くなるけど、ガマンしてジッと動かないで」

ミカはパルマにそう告げると、目を閉じ、意識を集中する。すると、重ねた手から淡い光が発せられ、患部を明るく照らした。

時間にして僅か30秒ほど…

淡い光が消えると、ミカは息を切らせて言った。

「治ったわ♪…ハァハァ…骨は繋がったはずだけど、まだ固まってないから、固まるまでは少し痛むかも…ハァ…ハァ…」

アインもククタもパルマ自身も、信じがたい出来事にしばし唖然としていた。

「ホントだ…痛みが引いた…」

「本当に治ったのか?…骨折だぞ、骨折…」

「これがホーブローの人々が古くから強化してきた治癒能力ですか…まさしく魔術ですね…凄すぎます☆」

「今回ばかりは俺も素直に感謝するよ♪治してくれてありがとう☆ミカ」

「素直なのは良いことだけど、この能力はエネルギーの消耗が激しくて、一度使うと一週間は使えないの。まだタロンガを倒したわけじゃないんだから、次また喰らったら今度は治せないわよ?」

ミカの不思議な能力に気を取られ、タロンガの存在を忘れていた三人は、ミカに言われて慌てて上空を見上げた。

「アインさん、パルマさん、あれって…」

ククタの指差す方を見ると、タロンガは遥か上空で上昇と落下を繰り返す不自然な動きをしていた。

「あのヘンテコな動き…間違いねぇ、薬が効いてフラフラしてんだ♪」

「神獣にも効くなんて、さすがミカの薬だ♪レッド何とかの花をプラスしたククタの作戦もズバリだったな♪」

「これで安心してレッドカメリアを採取できるってことね♪」

しかし、四人が安心したのも束の間、ついに意識を失ったタロンガは、かなりの上空から真っ逆さまに落下してきたのだ。

しかも、四人のいる場所に向かって………


「うわ!…うわ!…こっち来んな!」

「キャーッッ!落ちてくるーッッ!」

「攻撃じゃないから避ければ大丈夫です!」

「あの巨体だ、安心できる距離まで広がれ!みんな散るんだッッ!!」


ドシィィィ~~~ン!………


意識を失ったタロンガの巨体は重力に逆らうことなく、上空からものすごい勢いで山頂の中央部分、レッドカメリアが群生するド真ん中に落下した。

「みんな無事か!!」

「ひぇ~…間一髪だったぜ…」

「僕は大丈夫です」

「私も平気です☆アイン様☆」

直撃を免れ、四人全員が無事だった。ところが…

「ん?…何だ?…何の音だ?」

「地震??」

ゴゴゴゴゴ…という地響きを四人揃って感じると同時に、

ミシッ!ミシッ!…と足元の地面に亀裂が入る。

亀裂は、落下したタロンガを中心に同心円上に広がっていた。

「ヤバい!みんな中心から離れろ!」

アインが叫んだと同時に、落下したタロンガのいた地面が崩れ、タロンガは深い穴へと落ちて行った。

地面の崩壊とともに深い穴への入口は徐々に広がり、四人は必死に山頂の縁に向かって走ったが、雪が積もる場所まで来ると足を取られ思うようには走れない。

しまいには、崩落したすり鉢状の中心に向かって積もった雪も流れ出す。

「ちきしょ~っ!前に進めねぇ!」

「地面が崩れてどんどん穴が広がってます!」

「キャーッッ!落ちちゃうーッッ!」

「みんな踏ん張れ!諦めるなッッ!!」


しかし、四人の必死の抵抗も空しく、次第に勢いを増す雪崩に飲み込まれるように、四人とも山頂の中央部分にポッカリ開いた深い穴へと消えて行った…




※※RENEGADES ひとくちメモ※※


【ミカの薬玉】

ミカの腰に下げられた腰袋の中には、何が入っているのか?…

誰も中を確認した者がいないため全容は謎だが、ミカ本人の話では、それぞれ違う効果の薬が4つの小袋に分かれて入っているらしい。


『眠』の小袋…今まで何度か登場した相手を眠らせる薬。

『静』の小袋…相手を動けなくする薬。鎮静剤としても使われる。

『癒』の小袋…今回パルマの骨折を瞬時に治したように、傷の治癒に効果のある薬。

『活』の小袋…活力を与え、力を倍増させる薬。


この4つの薬を割合を変えて配合することで、さらに様々な効力を発生させることが可能

しかしミカ自身、その全てを把握しているわけではないらしく、組合せや配合比率によって未知の効果を生み出す無限の可能性を秘めている

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