【#57 目覚め】

-5107年 3月25日 19:44-


ホーブロー神国 未知の古代遺跡




「これって何かの機械よね?まだ機能してるわ…」

「有り得ねぇだろ…3000年も前の機械なんだぜ?燃料は誰が補充してんだよ…」

「やはり、この施設のどこかに古代の生存者が居るのかも知れねぇな…」

「怖いこと言うなよアイン。3000年も生き続けられる人間なんていねぇし、仮に終末戦争をこの施設で生き延びた人間がいたとしても、誰にも発見されることなく、その子孫だけで3000年も世代を継続するのは無理ってもんだぜ…。生き延びた人間は、皆ミイラになっちまってるはずだ…さっき実際それを見たじゃねぇか…」

「確かに、遺伝学的に見ても、パルマの言うように少ない家系だけで3000年も命が続くとは考えづらいわ…」

「じゃあ、今でも動き続けるこの機械をどう説明すんだ?ククタはどう思う?」

「エド博士が見れば、これが何の機械か判明するかも知れませんが、僕の知識ではサッパリ分かりません…。ただ、この機械が電力の供給源であることは間違いないかと…」


ブォン…ブォン…ブォン…ブォン…


円筒状の大きな機械は、重低音を響かせながら動き続けている。

広い空間に反響する重低音が、不気味さまで増幅させていた。

「とにかく今は隅々までこの部屋を調べて、何か脱出の手掛かりを探すしかない…」

「そうね…このまま脱出できなければ、今度は私たちがミイラになる番よ」

「そんなのはゴメンだ…急いで探そうぜ!」

「パルマさん、足元に気を付けないと、所々天井が崩落して岩が転がってます。念のため頭上にも注意した方が良さそうですね…」


3000年前の終末戦争の凄まじさを物語る爪痕は、この施設の至る所に見受けられた。

壁の亀裂しかり、天井の崩落しかり…

そもそも、終末戦争当時、この建物自体が現在のように地下に存在していたのかも定かではないのだ。

四人のいる研究施設のような広い空間も所々に天井の崩落があり、それと共に大小様々な岩がそこかしこに転がっていた。


四人は転がる岩に注意しながら、それぞれ広い空間を探索した。

「それにしてもデカイ機械だな…中の仕組みはどうなってんだ?」

アインは鉄で出来た巨大な円柱に近付き、上を見上げて言った。

広い空間の床から天井までは約5m。巨大な機械はその天井まで到達し、なんなら天井を突き抜けてるようにも見える。

鉄の冷たさを手のひらで感じながら周りをぐるりと歩いてみると、アインの歩幅で30歩、周囲はおよそ20mくらいの大きさだった。

「見たところ、中を覗けるような小窓もない鉄の筒ですからあくまで想像ですけど、四角ではなく円ということは、中で何かが回転してるのかも知れません…」

「この機械に触れると微かに振動を感じるし、耳を近付ければ重低音は間違いなくこの機械から聞こえてくる…中で何かが作動してるのは確実ってことだな」

「この機械も、電球やロケットも、古代文明の科学技術は僕たちの想像を遥かに越えるものだったんですね…」

「でもよ、その科学技術のせいで人類は滅亡しかけたんだ…科学技術ってやつは使い方を間違ったら何よりも危険なものになっちまう…俺たちは古代人と同じ過ちを繰り返さないようにしねぇとな」

「確かにその通りですね☆」

「このまま行けば、きっとタラモアは古代人と同じ道を進むことになる…だからこそ、そうなる前に止めなきゃなんねぇんだ…俺たちの手で…」

「やりましょう!僕たちの力で!」

「こんな古代遺跡でくたばるワケには行かねぇ…何としても脱出するんだ!」

「はいッッ!」

アインとククタの心に闘志が漲ったとき、それに水を注すような叫び声が広い空間に響き渡った。


「うっぎゃぁぁぁぁぁぁ~ッッ!!」


「何だ?!」

「パルマさんの声です!」

アインとククタ、それにミカもパルマの元へ駆け寄ると、パルマは腰を抜かして狼狽えていた。

「どうしたんだ?パルマ…」

「岩……岩の陰に……ひ、人が………」

パルマが震えながら指差す方に目を向けると、崩落した大きな岩が壁の一部を壊していた。

「アインさん、これは…」

「パルマはコレを人間と見間違えたんだ…」

大きな岩の後ろへ回り込んだアインとククタが見たもの、それは、壁に埋め込まれた鉄の箱の中に立つ機械だった。

「これって、タラモアの鉄騎兵では…?」

「いや、鉄騎兵にしちゃあ小さすぎる…これじゃ中に人間が乗り込むことは不可能だ」

そこへ、二人の会話を聞いて安心したパルマとミカも近付いてきた。

「何これ?…人?機械?」

「なんだ…人じゃなかったのかよ…ビビらせやがって…俺はてっきり古代人かと…」

壁には鉄で出来た箱のような物が3つ並んでいた。

そのうち右側の箱に人型の機械が立ち、パルマはそれを古代人と見間違えたのだ。

その人型機械の体のあちこちから何本ものケーブルが伸び、箱の壁面にあるいくつかの機械と繋がっていた。

真ん中の箱にも人型機械が立ってはいたが、箱の中には大きな岩がいくつも転がり、崩落した岩に潰されたのか、頭と思われる部分はその形をとどめておらず、ケーブルも何ヵ所かで切断されていた。

左側の箱には何もなく、箱そのものが崩落した岩で変形していた。

「これが古代の鉄騎兵なら、古代人は小人だったのか?」

「これ着て戦う鎧みたいな感じじゃない?」

「いえ、真ん中の頭が潰れたやつの首や肩の部分の中身が見えてますが、機械が詰まってますから、鎧とは考えられません…」

「今の鉄騎兵とは違う形で動かしてたのかもな…。とにかく、古代の科学ってやつは、とんでもなく進歩してたってことだ。でも今は古代科学に驚いてる場合じゃねぇ。早く脱出方法を見付けねぇと…」

四人は探索を再開した。


「ククタ君、ちょっとコレ見て…この機械も動いてるわ」

見ると、いくつも並んだ計器の針と、計器の下に表示されてるデジタル数値が微妙に変動していた。

「この計器類も、赤い光で表示されてる数値も、どちらも電気の力で作動してるってことは、やはり電力が供給されてるのは確実です。ただ、その電力がどこから供給されてるのか…そして、この計器類が示してる数値が何を意味するのか…」

計器にはそれぞれ『A』や『V』や『W』といった単位記号が記されていたが、それが何を意味するのか、電気のない時代を生きるククタには分からなかった…。

「お~い、こっちに何かの取っ手みたいなレバーがあるぞ」

パルマが見付けたレバーは、Tの字型のレバーで、可動範囲と思われる上下の溝の一番下に位置していた。その可動範囲の溝は、黄色と黒の斜線で描かれた縞模様に囲まれていた。

「このレバー動かしたら、外に出られるドアが開くんじゃねーか?」

「むやみに動かさない方が良いですよ、黄色と黒の斜線て、何か危ない感じがするし…」

しかしパルマは、ククタの忠告を無視して、レバーを一気に可動範囲の一番上まで押し上げた。

すると突然…


ブォォォォォォォォォォォン!!


巨大な円筒状の機械が発する重低音が一気に高まり、電球もそれまでの何倍も明るく輝き出し、計器類の針も数値も跳ね上がる。

突然の変化は、研究施設と思われる広い空間の状況が一変しただけにとどまらなかった。

「な…何だこれ……腰が…腰が何かに引っ張られる!!……う、うわぁ~ッッ!」

アインの体は宙を舞い、巨大な円筒状の機械に大の字にへばりついた。

「何だこれ!…何がどうなってんだ!…」

アインは何が起こったのかワケが分からず、ただ叫ぶしかなかった。

巨大な機械に吸い寄せられたのはアインだけだったが、残る三人にも変化が起きていた。

「え?…首飾りが…引っ張られてる!」

ミカの首飾りは引きちぎられ、機械にへばりついた。

「僕は鞄が引っ張られてるような…」

ククタの鞄の中から小刀が飛び出し、これも機械にへばりついた。

「何で皆は引っ張られんだ?俺は何にも引っ張られてる感じしねぇけど?…」

パルマ自身は無事だった。無事だったのだが…

カン!カン!カン!カン!

パルマの腰に下げられた矢筒にあった20本もの矢が機械に吸い寄せられ、突き刺さる形で機械に垂直に突き立った。

「危ねぇな!!俺を殺す気かッッ!」

飛んできた矢の何本かは、アインのローブに刺さっていた。

「パルマ!お前また何か余計な事したんだろ!!とにかく早く元に戻せ!!」

パルマは慌ててレバーを元の位置に戻す。

すると、広い空間は元の状況を取り戻し、機械にへばりついていたアインも、ミカの首飾りも、ククタの小刀も、パルマの矢も、音を立てて床に落ちていった。

「何だったんだ今のは…」

「すまねぇ…あんな事になるなんて思ってもなかったからよ…」

「明らかに強力な磁力ですね…アインさんは機械の近くにいたことと、腰に下げた剣が磁力で引っ張られたんだと思います」

「とにかく皆が無事で良かったわ…」

四人はホッと胸を撫で下ろす。

緊張が解け、四人は床にへたり込んだ。


「あのぉ~…」


へたり込んだまま四人は顔を見合せた。

「誰か今『あのぉ~』って言ったか?」

アインの問いかけに、三人は首を横に振る。

「でも…確かに聞こえたよな?」

三人は目を見開き、今度は首を縦に振った。


「よろしかったら、少し力を貸して欲しいんですが…」



それは四人の誰でもない、他の『誰か』の声だった…





※※RENEGADES ひとくちメモ※※


【古代の鉄騎兵】

アインたちが到達した広い空間で、中央に位置する巨大な機械の他に、それ以上に四人を驚かせたのが古代の鉄騎兵のような機械だった

壁に埋め込まれたブースの中に立つそれは、人型のシルエットをしており、タラモアが開発した鉄騎兵と比べても遥かに洗練された無駄のないフォルムをしている

大きさも2mほどで、タラモア鉄騎兵の半分ほどしかない

ブースが三つ並んでいることから元々は3体あったことが予想されるが、1体は既に無くなり、もう1体は天井の崩落で頭部を破壊されており、完全な形をとどめているのは1体のみ

その1体の胸部には、大きな文字で「三男」と書かれており、頭部を破壊された1体には同様に「次男」と書かれている

それが何を意味するのか、この機械の本来の開発目的が何なのか、一切は謎である…


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