【#48 命懸けの使命】

-5107年 3月21日 17:51-


キルベガン共和国 シャロンの中心街



クーデターから遡ること数日前、シャロンの街の大通りを、フードを目深に被ったローブ姿の男が歩いていた…


道行く人より頭一つ大柄なその男は、一軒の屋台の前で歩みを止め、屋台の店主に尋ねた。

「少し聞きたいことがあるんだが…」

「悪いな、兄さん。今日は思いの外よく売れたもんで、もう品切れで店じまいするとこなんだ。ペヤンが食いたいなら、他の屋台を当たってくれ。ウチより味は落ちるけどよ♪」

店主は手際よく店じまいの作業をしながら、男の顔も見ずに、しかし愛想良く答えた。

「お前が反政府運動のリーダー、グランツか?」

男のその一言に、店主の手が止まった。

店主はそれまでの穏やかな表情から一転、険しい視線を男に向け、小声で問い返す。

「そんな事を聞いてくるってことは…貴様、タダ者じゃねぇな?…人に名前を聞く時は、まずはテメェから名乗るもんだぜ?」

「訳あって今ここでフードを脱いで顔を見せることは出来ないが……俺は、ロシュフォール3世が家臣、ジャン=エルドレッド。突然の無礼はお許し願いたい…」

男は軽く頭を下げた。

「なんだと?…貴様があの…エルドレッド兵長なのか…」

それならば今ここで顔を見せられない理由も納得できる。タラモア帝国から懸賞金付きの手配書が出回っているのだ。

「ここでは人目もある…場所を変えよう、ついてきてくれ」

店主はそう言って、細い路地をクネクネと進むと、一軒の古い建物に入っていく。

何の変哲もない四角い5階建ての建物の階段を昇ると、その建物の屋上に出た。

「ここなら誰かに見られる心配も、話を聞かれる心配もねぇ」

店主が言うように、大通りから少し離れたその場所は、周りにそれ以上高い建物も見当たらなかった。

「心遣いに感謝する」

エルドレッドはフードを脱いだ。

「確かに本物のエルドレッド兵長のようだな。もちろん会うのは初めてだが、隻眼といい、風貌といい、手配書のまんまだ。まぁ、手配書なんか見なくても、あんたのことは大勢が知っている…。お察しの通り俺がグランツだが、伝説の勇者様が俺ごときに何の用だってんだ?」

「お前が反政府運動のリーダーということは聞き及んでいる。もちろん、国王をはじめ今の腐敗したキルベガン政府の内情も、十分とは言えないまでも承知しているつもりだ」

「まさか、あんたが我々に力を貸してくれるってわけじゃねぇよな?」

「それは、お前次第だ…」

エルドレッドの言葉にグランツは色めき立った。エルドレッド兵長の協力が得られれば、それこそ一騎当千の力を得たに等しいからだ。

「あんたの協力は喉から手が出るほど欲しいところだが、俺次第とはどういうことだ?どんな条件を満たせば力を貸してくれるってんだ?」

グランツは、エルドレッドの次の言葉に注目した。

「条件などない。力になりたいと思えば協力は惜しまない」

「どうすれば力を貸そうと思ってもらえるんだ?もっと分かりやすく説明してくれよ…」

「まず、パン=シーゲン国王は、いずれ王の座から追われるのは目に見えている。現在のキルベガン政府の役人も同様に、遅かれ早かれ失脚するだろう。王も役人も、民の幸せを考えず私腹を肥やすことしか考えていないようだからな…。その急先鋒として、お前たちが動いているのは理解している。誰かが動かねば、民の不満は募る一方…。問題は、現状をどのように打開するかだ。お前は打開策をどう考えている?」

エルドレッドはグランツに問う。

「どうもこうも……戦ってブッ潰す以外に、何かイイ打開策があるとでも言うのか?」

「紛いなりにも相手は正規軍だぞ?金で雇われた傭兵ばかりとは言え、それに立ち向かうだけの軍備は揃っているのか?」

「その点はタラモアが後押ししてくれると言ってきてるが、俺はタラモアの力は借りたくねぇんだ…」

「それは何故だ?足りない軍備を補充してくれるなら、願ったり叶ったりではないか?」

「それはそうだが…タラモアの協力を仰いで正規軍に勝てたとしても、それは本当の勝利とは呼べねぇ…。それに、その後もタラモアが何かにつけ干渉してくるのは目に見えてるからな…。それじゃあ、王が変わっただけで、俺たち国民の暮らしは何も変わらねぇ気がするんだ…いや、かえって今より悪くなっちまうかも知れねぇ…」

グランツの言葉を聞いて、エルドレッドは心の中で微笑んだ。

「では、お前の言う本当の勝利とは何だ?」

「俺が思う本当の勝利ってのは………我々キルベガン国民だけで、今の王と政府に白旗を揚げさせることだ」

「白旗を揚げなかったらどうする?王と政府要人を皆殺しにするか?」

「そうならないに越したことはねぇが…話し合いだけで事が片付くとは思えねぇ…お互い、多少の犠牲は仕方ないだろう…その為に多くの国民の支持が必要なんだ。相手に有無を言わせねぇだけの力…それは数以外にないだろ?」

「なるほどな…。今のキルベガンの内情を考えれば、多くの国民の支持は得られるだろう。しかし、これだけは覚えておくのだグランツ…。力によって生まれた国は、いつの日か力によって滅ぼされる。数多の血の上に立つ国も、いずれ多くの血を流して倒れるが定め。これは先の古代文明の時代から続く紛れもない事実なのだ…」

「でもよ?それを言うなら、あんたのロシュフォールはどう説明するんだ?あの国は、力によって生まれたわけでも、血の上に立ってたわけでもねぇ。なのに、タラモアって力の前に滅んじまったじゃねぇか?…」

「フン…」

エルドレッドは鼻で笑った。

「わからぬか?グランツ…。それは言わば、はじめの一歩だ」

「はじめの一歩?どういうことだ?」

「ロシュフォールを力で滅ぼしたタラモア…次はタラモアが力で滅ぼされる番だ」

「!!………」

グランツは驚いた。

タラモア帝国を力で滅ぼすなどという、今の世で誰も考えもしないことに驚いたわけではない。それを微塵の疑いもなく、自信に溢れたエルドレッドの物言いに驚いたのだ。

「あんな強大な軍事力を手に入れたタラモアが、よりによって力で滅ぼされるだって?…あんた本気でそう思ってるのか?」

「もちろんだ、単なる夢や希望を言っているのではない。現に俺は今、そのために奔走している。あの方さえ見付かれば、その夢を現実に出来るのだ」

「あの方?……それって、もしかしてアイン王子のことか?」

「そうだ。アイン王子が反旗を揚げれば、その波紋はやがて、グランサム連邦中に巨大な力を…タラモアを滅ぼすだけの力を生むことに繋がる。…俺はそう信じている。それが亡き国王から授かった最後の使命…俺はその使命に己れの命をかけている」

「あのエルドレッド兵長が命をかけてると知っちゃあ黙ってるわけにはいかねぇな…あんたにイイこと教えてやるよ」

「………何だ?」

「アイン王子なら、4、5日前にこのシャロンから北へ向かったぜ」

「何?それは本当か?!」

「間違いねぇ、この目でハッキリ見たからよ。街で防寒着を買い込んで北へ向かったから、今頃はバラザードか、もしかしたら、更に北のホーブローにいるんじゃねぇか?」

「お前を信じよう、グランツ。とても貴重な情報だ…かたじけない」

エルドレッドは頭を下げ、礼を述べた。

「そんな…あのエルドレッド兵長に頭下げられるなんて…俺はただ知ってることを伝えただけだぜ…」

「俺にとってこの上ない貴重な情報なのだ、感謝する。俺も今から北へ向かう。新しく生まれ変わるキルベガンを期待しているぞ。本当の勝利をつかめ、グランツ」

「あんたに言われたことは肝に銘じておく…新しいキルベガンを見ててくれ☆だけど、助けが必要なときは力を貸してくれよ?」

「いいだろう☆」


エルドレッドがフードを被り、その場を去ろうとしたとき、一人の男が屋上に現れた。

「やはりココでしたか、グランツ様」

「マインツか…どうした?」

「………そちらのお方は?」

フードで顔が見えないマインツは、それがエルドレッド兵長だとは思いもしなかった。

「…俺の客人だ。構わんから言ってみろ、何かあったのか?」

「はい………例の殺人犯を捕らえ、地下牢に」

「そうか。…ちょうどいい、あんたも来てくれ」

「殺人犯?…また随分と物騒な話だな…」

「驚いたことに、タラモアの将軍様をナイフで刺し殺した奴がいるんだ…」

「タラモアの将軍だと?!」


「ああ。しかもその犯人は、まだ20歳の女だ…」





※※RENEGADES ひとくちメモ※※


今回は投稿間隔が空いてしまって…m(_ _)m

とゆーのも、これといった事情があるわけじゃなく、一度書いた48話の内容を読み返したときに「う~ん…」と思ってしまい、どうも話の展開が噛み合わないな…と感じたので、頭から全く新しい48話に書き直したからなのです…(>.<)y-~

皆さんはきっと、ある程度のストーリーが頭の中にあって、それを文章にしてると思いますが、私の場合、ほぼほぼ思いつきで書き連ねているので、しばしばこーゆー事が起こってしまいます((T_T))

と、イイワケはこの辺にして…


次は、スコーン♪と書けるように頑張ります

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